40代で金融ベンチャーを起業した話
起業を決意するまでの(長い)道のり
20代のとき、私はかなり焦っていた。金融で働くも、自分が描いていたキャリアが築けなかったからだ。(当時の私は、外資系の投資銀行かトレーディングなどのフロント部門で働くことが、唯一の成功だと思っていたが、そのような仕事に就くことができなかった。)
そこで私が考えたのは、何か新しい、今後成長する分野で第一人者になれば、道が開けるのではないかということだった。それが、”オルタナティブ”であった。そして、大手証券会社のオルタナの部署に、中途採用で潜り込むことができた。
そこで、様々なオルタナティブ商品の企画、マーケティングに取り組んだ。当時流行り始めていたプロダクトに、ヘッジファンドのリターンに連動する”元本確保型”商品というのがあった。その商品組成チームは、ロンドンにあった。
一度目の閃き
そのチームと打ち合わせをする為に、ロンドンに出張した。時差ボケで夜中にホテルで目覚め、夜明けまで何時間も持て余した。そこで私は改めて将来のことに思いを巡らせていたところ、あるアイディアを思いついたのだ。
「個人向けに、ネット上で元本確保型商品のみを販売するビジネス」を立ち上げたらどうかと。当時は株価も冴えず、個人には元本確保というニーズは強いと考えた。
それで帰国後、直ぐに起業した・・・と言いたいところだが、そうはいかなかった。その後、ニューヨークに転勤→外資系で働き、長い年月が経った。希望していた海外勤務や、外資系で働く中で、20代の頃の焦りは消えていた。
二度目の閃き
40代半ばになった私は、ふと、自分のキャリアにさほど情熱を感じなくなっていることに気が付いた。発展性や、新規性がないと感じていた。これは、所謂”中年の危機”だろうと思った。
ある時、新宿御苑の芝生の上で、雑誌Forbesの特集記事(米国フィンテックビジネス Top 50)をめくっていた。そこで「機関投資家にしか提供されてこなかったオルタナティブ投資を、個人投資家に開放するビジネス」が小さく紹介されているのが目に入った。10数年前のアイディアが蘇り、「これは日本では自分がやるべきビジネスだ」と思った。起業を決意したのは、この時だった。
アイディアを共有できる形にする そしてシェアする
私は、アイディアや、決意そのものには、あまり意味はないと思っている。実行こそが難しく、唯一価値のあることだと。
また、アイディアは他の人に伝えられるように、形にしなければ意味はない。
私はたまたまTwitterで目にした、”ある有名実業家の起業家募集”をきっかけにして重い腰を上げ、土曜日にできた暇の数時間で、ワード5枚程度の「ビジネス提案書」を一気に書き上げたのだった。
そしてその紙を使いながら、アイディアを、機会を見つけてこれといった人々に共有していった。のちに参加することになったメンバーや、出資して頂くことになったベンチャーキャピタルの知り合いなどに。
その後会社を設立し、ビジネスに必要な金融ライセンスの取得に取り組んだ。新しいビジネスであり、当局の理解を得るのは簡単ではないとは思ったが、ライセンスを得ることができた。
また海外の優良ファンドとのパートナーシップを築き日本でのJVも設立した。
チームも成長しつつある。
自分が思い描くビジネス、サービスを、世の中に出せるという状況に至ったことは、起業前の状況とは大きく異なる。勿論良いことばかりではなかったが、今はキャリアに対する悶々とした思いは一切ない。
今は仕事に対するミッションや、スティーブ・ジョブズの名言「点と点を繋ぐ」という感覚なども実感することができている。
全てはアイディアを紙上に表し、人とシェアし共感を得て、行動に移したことから始まったのだ。