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【#毎週ショートショートnote】彼

「やっぱり暑いわね。午前中に来ればよかったわ」
 花の茎を切りながら母が言う。
「しょうがないよ、夏だもん」
 私は照りつける太陽を見上げて言った。
 
 ふと振り返るとと、少し離れたところに若い男性が立っていた。いつからいたのだろう。
 私は彼の服装が気になった。こんな暑い日に学生服で、しかもカーキ色なんて珍しい。

 真夏の暑さにも関わらず、彼は汗をかく様子もなく、ただ、小高い丘の下に広がる街を眺めていた。優しくもあり寂しげでもあるその眼差しが印象的であった。
 
 両親は彼に全く気づいていないのか、せっせと掃除している。
「ほら、見てごらんよ。この人、お父さんの伯父さんだけど戦争で亡くなったんだ。18歳って本当に若かったんだな」
 父が指した墓石には、名前と年齢があった。
 その瞬間、私は思わず振り返ったが、先程の彼の姿は甦ることはなかった。
 
「そういえば、今日は終戦記念日だったね」
 父がそう言うと、セミの鳴き声が一層大きく響いた。(412字)

今回も#毎週ショートショートnote投稿してみました。
やや苦しい部分はありますが、お許しください。

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