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御茶ノ水で抱きしめて

うんこやおっぱいを模したグッズ、おどろおどろしいイラストのコミック、手錠などがまだ平然と売られていた頃、私は、ヴィ○ッジヴァンガードで働いていた。

五月蝿いしごちゃごちゃしてるしピアスにタトゥー、派手な髪の店員。
本、ポスター、時計にお菓子etc…最高。

私の定番はカッチェスグミとチャンダン香。
敷居をまたいだ私には「金が無いから手ぶらで帰る」の12文字は無い。

そしてじっくり吟味して買ったものといえばアラーキーのフォトエッセイや、家族でコスプレをしているだけの写真集。ニーチェの本、ヨーロッパの駅に住み着いたネコだけのフォトエッセイなどだった。
毎回満足度が高い高い!

私が格さんなら、「The world of golden eggsを世に知らしめたのは、あ、ナニッチヴァンガードだぁよぉ。」と言うだろう。
アニメなどたくさんの流行を生み出してきたお店だ。

ある日、「この時給でも一緒に働いてくださる奇特な方!」という求人手書き看板に引き寄せられ、一切の迷いもなく面接を受けた。

サクッとした面接の後、すぐに採用の連絡が来た。

他店でシゴキ抜かれた店長のもと、さっそく品出し。
毎回開店準備ですか?というくらいの恐ろしい量だった。

私が初期に担当したものの一つがCODENMAだった。
「これ、誰かPOP描きたい?」と聞かれ私しか手を挙げなかった。

あの大人の玩具電マのパロディキーホルダー、CODENMA。
お許しを頂いた場所に陳列、でっかいPOPに一つ一つの商品にもPOPを付けていく。
商品一つ一つに貼るくらいの勢いでとにかくPOPを書くようにと、そして「ただ店に置くだけじゃないから。売るんだから!」と店長は言った。

卑猥なことをダイレクトに描くと叱られるので「お父さんに負けない!!」などと描いた。

ディスプレイから在庫管理、発注をまかせて頂き、気づくと月に100個以上売っていた。

店長「うちは、本屋なんだよなぁ。」

私「あはは照」

店長「ふっざけんなよ、うちは、本屋なんだよォ」(多分半分冗談で言ってる、多分)

私「すみません、頑張ります。」

店長「本は私の担当だ。」

ここらの地域にCODENMAが行き渡ったようで、だんだんと人気が下火になっていった。
縮小し、次の商品だ。
パズルのようにディスプレイを組み換え試行錯誤しながら挑むのが面白かった。


働いているからとはいえ、サブカル女子と言われるのは好きではない。
深く掘り下げないから詳しくないし。
面白いものが好きなだけだ。
この店が好きで入ってきた面白い人達と。
お客さんに面白がってもらえるように。

そういえば、誕生日プレゼントのひとつにCODENMAを忍ばせたいという若者に「ついてるPOPも下さい」と言われた時には高揚感に包まれた。
嗚呼私もついにこの店の店員なのだと。


ある日、御茶ノ水店で加藤鷹氏がサイン会をするという吉報。
店長「大変ちゃん、ヘルプで行く?」

私「え、その日店長は休みだし、店人数カツカツじゃないですか?」

店長「出てやるよ。しかたないわね!」

私「えへへ、でへへ、うわぁ、嬉しすぎます。」

本当に心の底から感謝した。
粋だ。カッコよすぎる。
過度な下ネタを嫌う店長からの粋な計らい。
本当に人手が足りなくて、いつもバッチリ完璧な女の子なのに店長はここ数日化粧するのも忘れている。
それを横目に嬉しさのあまりスカダンスをした。

ヘルプ当日。
ビラ配りをした。
若者が多く行き交う日曜日の楽器屋さんの近く。
「加藤鷹さんサイン会ありまーす!」一切の照れを見せない私を通り過ぎる人達からはクスクス声が聞こえた。
冷たい世間の反応もよそに、早く店に戻って準備を手伝いたいの一心で時間いっぱい配りきった。

予定時刻に近づくとゾロゾロお客さんが集まってきた。
思っていたより多いのでびっくりした。
あとは、加藤氏を待つのみ。

ほぼ定刻通りに颯爽と現れた加藤氏、白のサテン生地のスーツに白のハット

…「お、おお////」

「こちらです。」と声をかけるだけで私は後ろ髪引かれつつ次の定位置に。

「はうあ、加藤鷹ん…」

混乱を避けるため、サイン会に並ぶお客さんとそうでないお客さん、そのビルの利用されている方などに気を配っていたのでサイン会の様子を伺うことは出来ず。
時々聞こえる「おぉー!!笑」という男子の太い声にお耳がダンボになりながらソワソワしていた。
ゴールドフィンガーを披露したのだろう、その度におぉーという太い歓声。

サイン会も終わりが近づいてきたかな…


いいんだ、ひと目見れたもん。
そう言い聞かせていると、サイン会のスタッフが招集された。
「最後みんなで写真撮らせていただけるって。」

♪♪♪
うひょー!

全員で写真を撮ったあと、店長がお礼の挨拶をした。
そのあと、「大変ちゃん、加藤さんになんか言いな!ほら」と加藤さんの前に体を押された。

私が大ファンなのを知った店長さんが声をかけてくれた。
モジモジしていると、加藤氏から握手の手を差し出してくれた。

握手をした瞬間、ヒュッと引き寄せられ私は加藤鷹氏の胸の中にいた。

驚くほど力が全然入らないヒュッだった。
(あ、いい匂い…あ、笑顔…頬のシワ…ああああ)

正式には、軽いハグをしてくれました。

経験人数に入れていいですか?


そんな貴重な体験もさせて頂いたのが昨日のことのよう。

一つ一つの商材に向き合いワクワクし、尽力したあの日を忘れない。
今でも大好きな店。

私のユートピア、ヴィレッ○ヴァンガード。

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