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野良犬

猫と犬と の続き

そのイケメン、クズ男につき。

人間の形をした犬が、そう長いこと忠実ではなかったことが私としてはどうにもこうにも。

物語だったらとても物足りない、書くに足りない一瞬のことだったように思う。

私を様付けで呼ぶくらいで、あとはただの好き者だったというのがタネ明かしになる。

特段こちらから質問しない限り私生活の話をするわけでもなく、普段の動向は読めない。

そこへ前回のやりとり。

まずいきなり、

○○様、消えたら死んじゃうから!

と不穏なメッセージ。

よく分からないまま、私も犬を落ち着かせようと優しい言葉をかける。
どーどーどー、あーよしよし。

○○様、優しい。
良かった。だーいすき(*´ω`*)

かと思えば、私から連絡をしないことに憤慨した内容が来てはなだめ、仲直りというやり取りが続く。

よく分からないまま、絆が深まったような感触を得る。
でも別の日にはまた初めて揉めているような感じを繰り返す。
やれやれ。

今○○にきてまーす!みたいなご機嫌な報告も無く、おはようすらとにかく何も無い。
そういうのがあるなら、こじらせメールも分からなくもないが普段からなにも無いのになんとも不思議だ。

そんな中、暇を見つけて再び会うことになった。
○○にある美味しいお店に行きませんか?とまんまとご馳走に釣られた。

個室に通され、美味しい食事を頂きながら、あの日以来きちんと向き合う。
貴女の犬にしてください。と言ってきた犬。
いや、イッヌ。

突拍子のない申し出をサラッとスルーしてから目の前にいる犬いや、青年とまともに向き合っていないことに気づいた。
改めて見ると。か、可愛い。

イギリスのハーフで年下
どこまでも甘いマスク
中肉中背のソフトマッチョ

ハーフだけど英語が話せないという、長い間こすりまくっているであろう自虐ネタからはじまりよく喋る。かなりよく喋る。
興味関心事が似ているからか、話が弾んであっという間に解散の時間に。

なんとお土産を持たせてくれた。
その店はプリンも人気らしい。若いのによくできた人だ、と感心してしまった。

駅までの道中、女子会もやってるよ!で有名なホテルの前に差し掛かると、入口に自分の背負っていたリュックを自ら投げ入れた。
シュシュシュー!

えぇえぇえぇえぇ!
呆気に取られる私に、「はああああっ!!つい!」と言う犬。
ついリュックをラブホに投げ入れるやつがいるのだろうか。

あれよあれよと、オーガニック志向の雑貨屋さんのような空間へと導かれ「ラブホなんですよ、しかも全部タダ!凄いでしょ。○○様。」

「へーぇ、タダなんだ?すごーい(まだ衝撃が収まら無いのでうわの空)」なんて言いながら貝殻のトレーに置かれるバスグッズなどを撫でた。

「で?」と犬の顔を見ると、満面の笑顔だった。

するといきなり犬が土下座をし、「おぉぉぉお願いしますっ!」すかさず拝みポーズで手を擦り「僕に○○様の時間を下さい。いいい一生のお願いですから」と言った。

可愛いメンズと老いさらばえた私のこの光景を、この即興コントを、フロントの方たちはどう見ていたのか…
雑貨のごちゃごちゃで視線すら感じなかったが、とりあえずこのハーフの土下座をやめさせたかった。

からの、チェックイン。
なんだかイライラするので犬より早く、お茶目により高い部屋をタッチしてやった。

なんとも私らしい流れだ。

そわそわ部屋のチェックをして緊張を誤魔化していると腕を引きベッドに誘われた。
「○○様、僕の子供産んで♪」
「僕も○○様も鼻が高いし、すっごい可愛い子が生まれるよ!」

「はぁあい?」

これがただ、生で中出しをしたい。という隠語でしかない事にすぐ気づいた。

私「この年で生は厳しいな…」

犬「じゃあゴックンしてくれるの?」

私「うーん。とにかく生、中出しは駄目。」

犬「さっきのプリンに出したら食べてくれる?愛してるなら食べてくれるよね?」

私「ちょっと?何?何言ってるか分からない…」(しかも愛してない、好きじゃない…)

食ザーというのを初めて知った私は、想像しただけでもうトゥルトゥルしたものが食べられなくなりそうな気がして震えた。

数秒前のやり取りを払拭したく力技でまさぐりあっていると、犬が「マサ様、マサ様〜」と絶叫した。

はあん?マサ様?

「ケッケッw ちょっとまって今、マサ様って言ったよ、2回も(笑)」

「えっ、うそ?ごごごめんなさい!最近まで、マサエさんていう女王様がいたからつい。」

くっそださ!
おい!だるっだるの腹に伸びたパンツ履いてるババアだろがい!

とてつもなく偏見で、見たこともないマサ様ことマサエを罵倒した。ヤキモチではなく、私はずっと腹が立っていたのだ。キレポイントを狙っていた。

もう私はプリンにザーをザーする話で既に壊れていた。
名ばかり女王様の本気を出せるところは罵倒しか無かった。

そこへ追い討ちの、「そんなに色々ダメでヤキモチ妬きなら、お付き合いするとか考えちゃうよ。」

…はぁあ??
バカ殿がキレた時のアレになっちゃう。

私「はぁー?いつ、いつ言った?」

犬「…」(あーっ、ていう顔をしている。)

私「私がいつ付き合って下さいなんて言いましたかー?一度たりとも口にしたことも、一瞬でも思ったこともありませんよねー?誰かと間違えるにせよお粗末すぎる!ばかか?お前はばかなのか?」

片手で両頬をつまみながら、真剣に言ってやった。不本意すぎる。嫌すぎる。

犬「本当に申し訳ないです。本当にごめんなさい。」
犬はすっかり怯えきっていた。

こんなことになったことも無いが、男性にこんなことしたことも無かった。
幼稚園の頃、男子を引き連れてキョンシーごっこをした時以来に威張った。

胸糞悪い終わり方に、反省すらしたくなくて、もうクタクタだった。

翌日友人に話すと「はぁー?なんだその話。飯も食えねえ!あんたいい加減にしなさいよ!」と、当然こっぴどく叱られた。

なのに、「そんな面白いやつ、繋がってりゃいいのに。」とも言われた。
嗚呼、時間が経つにつれなんとなく分かってきた。あんな面白い人はなかなかいない。

女王様になれたらまた新しい扉が開いたかもしれないのに、私の性格上やっぱり犬は飼えないんだわ。

今となっては推測に過ぎないが、突然の死んじゃうから!メールは何人かいる女王様に見限られる度に、私に送ってきたものだろう。
きっと本命の彼女か奥さんがいて、LINEのやり取りは恐らく私を偽名にでもしていて毎回メッセージを消去していたのではないだろうか。

しっちゃかめっちゃか、モテ自演病みイケメンだった。

野良犬って人懐っこくて、行く先々で名前を付けられるじゃない?
彼は、野良犬だったんだね。

今度見つけたら、保健所に連れてこ。

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