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英国国葬を見た日。

エリザベス女王は母と同年齢だった。パワーたっぷりで私を引っ張り回した母は2018年に他界したけれど、エリザベス女王はなんだかお亡くなりになる事は考えられなかった。
クイーンマムと呼ばれていた女王のお母様は私の祖父、母の父親と同じ歳であった。祖父は97歳まで最後まで元気で長寿であったが、エリザベス女王のお母様は100歳を超えられてもお元気であった。私は女王とお母様を見ると、母と祖父のことを考えた。今年の即位70周年の記念の際に女王自らパディントンのクマさんと一緒に、ハンドバッグからサンドイッチを出してお茶をするという動画まで出されていたから、まだまだこの路線で元気にいかれるのだろうと漠然と思っていた。

偶然夫が用事で自宅にいなかった、国葬の月曜日、見る予定はなかったけれど、携帯に葬儀が行われていますというメッセージで、何となくBBCにチャンネルを合わせてしまったのが運の尽き。そして葬儀を見ていますと、親友にメッセージを送った。我が親友も遠く離れた日本でそれを見ていた。だからその後の1時間ぐらいのセレモニーは親友とラインのメッセージをしながら見ていた。

親友と私は50年前に、私のロンドン留学中に彼女が遊びに来て一緒に2週間ぐらいを過ごした。英国葬を見た瞬間に親友のことを思い、同じことを彼女も考えていた。彼女も一緒に本当は留学をしたかったけれど、諦めた。その代わりの2週間の旅行だった。一緒にマダムタッソー蝋人形館にいって、吉田茂の蝋人形を見たり、その当時はまだ結婚もしていなかった若きチャールズの蝋人形と一緒に写真を取ったりした。そしてお上りさんの行く、バッキンガム宮殿にも二人で行った。彼女が来てくれたその期間、私がロンドン観光を最もした時だと思う。二人で、強奪品でできている美術館だねえ、と言いつつ見に行ったブリティッシュミュージアム。二人でいちばんハマって見ていたのがエジプトのミイラだった。その中でも猫のミイラがあったのを二人で眺めていたのを思い出す。

私の亡くなった最初の夫は英国空軍のパイロットで、彼は皇室を運ぶ飛行機を操縦していた。だからエリザベス女王や皇室の話も自然に彼の口から話されていた。夫はチャールズ皇太子がダイアナ妃と結婚する前に空軍を離れていた。彼が言ったことの一つ、エリザベス女王は無理難題を押し付けずに、ボスとしてはいい人だねと。女王様って、そうなんだ、ボスなんだなって初めてその時に気がついた。そしてその皇室の中にはとっても無理難題を押し付け、横柄な方もいるというお話もたっぷり聞いた。

皇室、王室制度に関しては、私はもう終わっていい制度だと思っている。今回の国葬を見ると、我が母と同世代を生きてきた人として尊重があり、お疲れ様でしたという気持ち。すごい時代の変化の中で、自分の生き方をどの基準に合わせていけばいいのか大変だっただろうと想像する。自分の生まれ育った時代の価値観と大きく異なった自分の娘や息子達、それ以上に孫達のそれぞれの生き方を受け入れていった。王室をこの先の未来へと続けていくために、それ以外の選択肢は無かったのだろうけれど。そして今年コロナに罹らなかったら、彼女はまだもっと長生きされたのではないかと思う。

親友と同じ映像を日本とヨーロッパで同時に見ながら、今動いているのが海軍で、緑の帽子は陸軍かな、今映っているのは空軍よ。と、亡き夫からの付け焼き刃を友人に伝えながら二人で時間を共有した。彼女が、トラファルガー広場ってむちゃくちゃ汚いと思ったけど、イメージと違って綺麗やなあと言ったのがなんだか笑えた。 そうなんだよね、私たちが一緒に時間を共有した1970年台後半のイギリスは汚かった。あちこちに壊れた電話ボックスがあったり、ロンドン市内を走っている車の中にはとんでもなくボロボロのがたくさんあった、ロンドン市内でもその辺に勝手に駐車してよかった。2012年のロンドンオリンピックに合わせて、街は大変に整備された。今回は葬儀に合わせて、道は清掃され、一般車両、バス、全て停止されて、見事にロンドン市内はアンダーコントロールとなっていたように見える。その上、素晴らしいお天気がロンドンを輝かせて見えた。

ウエストミンスター寺院も、素晴らしいアングルからの撮影で、教会の白いアーチがことさら美しかった。そして個人的には感動したのが、女王陛下の棺の上に置かれたフラワーアレンジメントだった。価値のつけようもないあの王冠、杖、宝玉とともにのせられていた、イギリスお得意の上品な、清楚で可憐なアレンジメントになっていた。あのフラワーアレンジメントは本当にイギリスらしかった。

RHS Chelsea Flower Show, これは毎年春にイギリス、ロンドンである王室によるフラワーショー。友人がRHSのメンバーの園芸家だったので、母とともに招待してくれたことがある。母のためにちゃんと車椅子の手配をしてくれたご招待であった。イギリスのフラワーショーは一見の価値がある。世界各地からの園芸家が斬新なものから、ものすごく自然に近いもの、そして古典のやり方等、毎年様々なフラワーショーが展示される。そこで使われている世界各国からそして多種類の草花。日本で生花を学んで、日本の生花は完璧な美じゃないかと思った私も、そしてその生花が仕事であった母にとっても、目から鱗のフラワーアレンジメントがいっぱいあった。知識欲ばりの母は、車椅子から、これも見たい、あっちも行くと、女王様並みのわがままを従事の私に命じていた。でも、本当に感動して、喜んでくれていた。棺の上のアレンジメントはなんだか、その母との思い出を蘇らせてくれて、ほっこり温かい気持ちになった。

英国の皇室は、庶民の生活の中にもスルッと入っていると思う。多分日本の皇室の方と庶民生活はかなりの距離があるだろう。現実に国葬の後で、私のFacebook上でも、友人やイギリスの家族が、父が出会ったエリザベス女王、クイーンマムが街に来られた時、とかいう写真が結構上がっていた。それは近距離で撮っている写真。それがイギリスという国なんだと思う。

ロンドンの道が本当に綺麗だと感動していた親友に、ウエストミンスターから棺が運ばれている時に、でもやっぱり馬糞だけはお掃除しきれないからころころ落ちていても仕方ないねえ。と私。親友は、そんなものある?そして、ほんまや、見つけたわ。というやりとり。英国国葬でもなけりゃ、こんな時間はなかなか持てない。二人で50年近い昔の思い出話をして、こんな話を笑ってできる友人がいるってありがたいなあと。お互いに生きるか死ぬか、っていうギリギリのところを生き抜いて今ここにまだいる。もう少しお互い頑張っていこう。と1時間あまりラインのやりとりを終えた。

しかしこんな時代錯誤な国葬は流石のイギリスでもこれが最後になるんではないだろうか。激動の時代の中で70年間という長い間その立場を維持していかれたが、次のチャールズ国王においてはどうなるだろう。どのぐらい長い間その役割をしたところで、長くても20年ぐらいではないだろうか。私のイギリス人の友人のチャールズ評は厳しい。国民も今回見たような儀式を望む声はなくなるのではなかろうか。

ウクライナとロシア問題が勃発し、イギリスはEUから脱会した。ヨーロッパは今まで以上に多くの問題を抱えている。ウクライナの原発も心配だし、気候変動の問題も深刻である。今年の夏の猛暑、本当に異常。どんどん氷河は溶けて、今まで根雪であったところがむき出しになってきた。今年の夏は、その溶けた氷河の中から、50年前に氷河に墜落したであろう、セスナ機が発見されたり、氷河の中に墜落して亡くなった人が発見されたりということも多くあった。スイスではパキスタンのように大雨と氷河が溶けて起きた水害はまだ起きてはいないけれど、この急激な気候の変化にどのように対応していくのかまだ手探りで動いているのだろう。

そんな中で見た、なんとも非日常の国葬であった。まるで映画のような、時代を100年以上タイムマシンで戻ったような。そして各国の皇族、王族、大統領、が出席するために、こぞって専用機で訪ねていった。優雅で贅沢なお葬式、これの意味することは何かの始まりっていうより、何かの終了なんだろうと思う。2000年、ミレニアムは世界中が大騒ぎをしていた。ユーロに通貨を統一して、とっても元気があるように見えていたのだけれど。今やウクライナの問題、イギリスのブレクシット、イタリアの新しい首相、いったいヨーロッパはどのようになっていくのだろうか。ヨーロッパだけの問題ではなく、本当に大きな変わり目が世界中に来ているのは間違い無いと思う。

日本も国葬儀が終わった。あちこちで、反対のデモがされていた。何の為に、誰の為にという国民への了解もなく強行された。もうすでにお葬式は終わっていたのに。今や日本政府の税金の無駄遣いの仕方は、目を覆いたくなる。五輪、防衛、リニア、新原発、安倍のマスク、辺野古基地、夢の島そしてこの国葬。この愚かな国葬をやめて、日本国を災厄から守るために、でっかいでっかい大仏建立の方が、良かったのではと思ったりした。

自然よ日本に親切であれ、それを祈るしかない。