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ホッとする話。

2010年に家を売却してからも、毎年数回行き来をしていた第二の故郷スペインは、コロナがあり今年になるまで行けなかった。ようやく簡単に移動できるようになったので犬を連れて、1月と2月避寒をするために車で行くことにした。昨年、モーターホームを手放したので、犬を連れで滞在するアパートを探すのにもうひと手間かかる旅行となった。

モーターホーム決別の理由は、コロナ禍のヨーロッパはこの2年間異常なほどのモーターホーム、キャラバン、キャンプブームとなっている。コロナで行動が制限されていたので、余裕のある人は大きなモーターホームを買い、節約型は自分たちで車を改造して、バン型の車をキャンプカーとして家族で利用し始めた。それは異常な速さで鼠算式にこの2年間で増え続けている。真夏の子供たちの休暇の時期以外は、モーターホームのメインユーザーは中高齢者、退職者たちが寒い北ヨーロッパから季節の良い南ヨーロッパに移るというのが多かったのに、状況は大きく変わった。

ヨーロッパでは、環境の良い観光地の街のちょっとハズレに、24時間だけなら数台止めれますと言った、モーターホーム専用の一時停止のできるところが町や市の施設として設置されている。そこにはトイレがあり、お水の補給ができたり、汚水処理をできるようになっているところもあり、電源が準備されているところもある。多くのところがワンコインから二千円ぐらいで滞在できるようになっている。その支払いは近くにあるカフェ、レストランが、代理として請け負っていてくれいることが多かった。大体に地域社会で管理されているところは、安全だし、そして観光にも楽に行けるところが多かった。

そういう場所がない場合は、先に開いているキャンプ場を見つけ、そこを目指して出発していた。問題はこの数年需要がいっぱいでキャンプ場が満杯になる、きっちりと台数を決めているキャンプ場は、お断りが出るし、先に予約が必要であることも多くなってきたこと。そして子供連れ家族連れ、犬連れキャンパーが多くなり、のんびりとしていたキャンプ場もなんだか慌ただしく、ゆっくりした気分になれなくなってきた。おまけに定期点検や部品交換が必要なモーターホーム専用のガレージに数ヶ月の待ち時間がかかるようになった。その上、使用頻度が下がるとかえって故障や不都合が出る。夫の年齢も考慮して、10年以上のジプシー生活を楽しんだから、これが潮時だね、売却が簡単なうちにしてしまおうと手放した。

タイミングとしては良い引き時だったと思う。増えているモーターホームと共にそれを狙う犯罪も増えてきた。催眠ガスをモーターホームに夜の間に注ぎ込み、深く眠っている間にモーターホームの中身をごっそりと盗まれた。。。という話はしょっちゅう聞く。モーターホームで移動している間、自宅にいる時同様、お金もクレジットカードも、コンピューターも高価なものを持ち歩いて移動している。犬を連れていても、催眠ガスを使われたら、犬も一緒に寝てしまうからなんの役にも立たない。以前からそういう話は聞いてはいたが、この数年その傾向はどんどんひどくなっているらしい。

スイスから南スペインまで借りていたアパートの日程もあったので2泊で1800キロを移動をした。南フランスで一泊、そしてもう一泊をヴァレンシアあたりで。それにしてもフランスの高速料金の高くなっていること。そしてその南フランスでちょっとした事件があった。高速道路のパーキングで、犬を車に残して、食事に行った。そして戻って私が先に車に乗り込むと通りを挟んで向こうに、携帯で話している男性が見えた。なぜかその男が私には嫌だと思ったし気になっていた。夫が運転席に乗り込んだ時に、その男が携帯を耳につけたまま私たちの車に近づき夫に向かって指でタイヤを指し示していた。夫におかしいから窓を開けないで、そのまま出発して、と私は咄嗟に叫んだ。その間にも男は車に近づいてくる、そしてタイヤを指し示す。それを無視というか軽くあしらい出発しようとした途端、多分この男はナイフか何かをタイヤに差し込んだと思う。とりあえずその男から離れるため車を別の場所に移す間にも、車のタイヤからシューっという音がして空気が抜けていくのがわかった。

これはヨーロッパフランススペインではよくある手口で、このまま高速に出てしまうと、途中で車を停止する羽目になる。その混乱の最中に、親切そうに手助けを申し出、車の中のカバンや大事なものを盗られる。。。という手口。これは恐ろしく多い。だから車から簡単に離れることもできない。あちらは何人かのグループ行動なのだから。狙われたら、どのように上手く逃げるか。。。なかなか難しい。

キオスクの男性が親切に助けてくれたおかげで、牽引車で近くのガレージに行き、タイヤ交換をしてもらって数時間の遅れで、何も盗られず、事故にもならずに旅行を続けられた。一安心をしながらもスペインに翌日入って高速を運転中に同じようなことが起きた。運転途中であったが、一台の車が追い越しながら私たちの車のタイヤを指さしていた。夫が運転していたが、その後ろにはもう一台車がかなり近距離でくっつき、スピードを落とせないようにしていたとか。幸にして、うまく振り切ってくれたが。

今回の旅で、フランス、スペインどちらも、国外からの乗用車が確実に減っていると気がついた。だからスイスのナンバープレートはネギカモなのかもしれないなあと。巧妙なのは北から南に下る車を狙っている。お金を持って緩んでバカンスに向かう人にあたりをつけてのことだと思う。ガソリンの高騰、高速料金の値上げ、コロナとウクライナの問題、それは個人旅行でのヨーロッパ圏内の移動は減っている。昔はイギリス、ドイツ、イタリア、オーストリア、そして北欧からの車がバンバン横行していたのに。

かつて住んでいた地中海川沿岸は南はもともとヨーロッパからの長期滞在をすることを前提に別荘を持つ人が多い。今年初めて気がついたのは、ウクライナ、ポーランド、リトアニア、エストニア、クロアチアのナンバープレートがたくさん見れること。以前はほとんど見なかったナンバープレートで、私たちの借りていたアパートにも見た目がスラブ系住民が目についた。弁護士事務所で働く友人が、此処最近の家やアパートの購買者は大半がお金持ちの旧ソビエト圏の国の人たちだと。ほとんどの人が、現金で購入するらしい。

スペイン地中海側は、その時々の政治情勢によって、雰囲気が変わる。私が最初住み始めた1980年最後ぐらいから数年間は、イギリスとスイス、スエーデンが多かった、その後ドイツ人が大半を占めた時期、そしてオランダ人が増えた時期、そして2000年前後はロシア人が直行のフライトで来るのも多かった。少し前の主流はノルウエー人、そして今はなんと旧ソビエト圏の人。そして今まで田舎ではあまり見なかった、中国の方も増えた。

スペインは新しい道があちこちにでき、自然がさらに壊され、大手のスーパーが蔓延り。以前住んだ地中海岸線は開発が醜く進み、多くの渡鳥と言われる、寒い国からスペインに冬に来る外国人が地元スペイン人より増えてがっかりした部分もあった。でもスペイン人は相変わらず暖かいし、緩い。少し内陸部に入り、外国人観光客のいないレストランは、相変わらず分量もどうしたら食べ切れるのだろうというたっぷりの食事を提供、物価高とはいえ、北ヨーロッパ圏の国に比べれば安くて美味しい。子供にも優しく、おしゃべりが好きでお節介で賑やかなスペイン人が今なお健在。

楽しく1月余りを過ごし、スイスに戻った。旅行で犬の毛があちこちに散らばり、汚くなった夫の車を掃除の為に、家のガレージは暗いので車を外で掃除することにした。アパートの横の分別ゴミを捨てる、大きなコンテーナーそのそばで我が家のダイソンで掃除をしていた。夢中で掃除機をかけていた私は気がつかなかったのだけれど、顔をあげると私の車のすぐそばに大きなトラックが止まっていた。それはゴミ捨て場のコンテーナーを引き取りに来ていた清掃会社の大きなクレーン車で、我が車がそれを間で邪魔していたのだ。

そこは根っからの日本人、慌てて外に出て、ごめんごめん、すぐに動かすからと男性運転手に伝えたら、動かなくて大丈夫、クレーンで引き上げれるから。って親切に言ってくれた。流石に我が家の車が、クレーンと接触というのもまた問題だから、少し違った場所に移動したのだけれど、彼らはバックで動かす間もちゃんと先導してくれた。30代ぐらいの見た目は強面の屈強な男の人だったが、優しく仕事が終わったら、バイバイ良い日をね、と手を振って去って行った。なんだか爽やかな気持ちになった。

とっても小さな事、でもなんだか得して気持ちがホッとした。そして日本でだったらどうだろうと考えた。私が停止禁止区域に車を止めていたという事実。そして見るからに外国人、女、若くない、邪魔なところで掃除をしている。この同じような状況が日本の都会で起きていれば、きっとイライラした若い働き盛りの運転手にクラクションで合図をされて、嫌味を散々言われて、不愉快な気持ちで終わったんじゃないだろうかって考えてしまった。どうでしょう?考えすぎだろうか?