免罪符

あの時から止まっていた時間が再び動き出した瞬間だった。

かつて公開したその時のやり取りである。
青が私で、赤があの子である。
私の家へやってくることが決まってから気が気でなく、ソワソワしていた。
洗濯物をただ一箇所にまとめただけだったり、片付けと呼べる代物ではなかった。
彼氏が居たため遠慮していたのかどうかは分からないが、付き合いのあるグループの友人の中で私の家をその時まで訪れていないのは彼女だけだった。
なので、あの子を迎えに大学の最寄りの駅へ向かった。

家に着くと、開口一番あの日の夜の話になった。
「あの時はごめん、実はガイダンスの時から一目惚れのような感情を覚えた。彼氏がいるのは分かってる。でも、私は君のことが好きだからあんなことをした。」
といったようなことを言ったと思う。

あの子からどんな言葉が返ってきたかは覚えていないが、気がついた時には使用済みのコンドームが2,3発程度、そこら辺に転がっていた。
今の彼氏と別れたら正式に付き合う、という話に落ち着き、一泊してあの子は帰っていった。
すったもんだあったが、一週間程度で別れには至った。
そうして私たちは交際を始めた。DV彼氏から救うために寝取らざるを得なかった私の正義という名の免罪符を手に入れて。

私が属していた友人グループは、内部でカップルが3組いた。
以前記した純さんと○○ちゃん(以下、モカちゃんとする。)、初めて登場するマッチョとアキちゃん、そして私たち。
おそらく、というか、とても特殊なグループだった。
誰とも付き合ってない、ないしは外部に恋人がいる人たちからしたら面倒くさいことこの上ない状況だったと思う。

私たちはこれから仲睦まじく大学生活を送るのだ、と漠然と考えていたが、つい最近元彼となったカレの話をどんな話題をしていても半ば無理やりこじつけて話すようになったり、私の家でいわゆるお泊まりをすると、夜な夜なあの子は『寂しい。』と泣きじゃくっていた。
寝取った私に非があるのは分かっているし、行動が伴っていないが、カレにも申し訳ないことをした気持ちはもちろんあった。
だが、心のどこかで「寂しいとか思うなら、あの時ノッてくんなよ。」と思っていた。
時間が経つにつれ、夜泣きなどは無くなっていった。
安堵し、二人で他愛もない日々を過ごしていった。
私が動くのもしんどいほど体調を崩した時、横浜から電車で片道2時間弱かかる私の家まで、サプライズでわざわざうどんを作りに来てくれた。

そんな幸せな日々が巡り、季節は夏になった。
そんなある日、お互い普段通りの様子で横浜でデートをしていた。

「別れたい。」

と、彼女は突然私にそう言った。

つづく

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