セカンドハーフ通信 第17話 イチロー選手に想う
イチロー選手に想う
少し前になるが、野球のイチロー選手の引退へのドラマが社会的に大きな盛り上がりをみせた。多くの方がこのドラマにおけるイチロー選手の処し方に感動したと思う。日本でのMLB公式2連戦を観て、私自身も心を動かされた1人である。
翻って何が私の心を動かしたのかというと、彼のメンタルタフネスさである。彼が引退を決めてから実際に発表するまで数週間あったのではないかと言われているが、その間、心の中を見せずに平静を保っていることはとても難しいことだったと思う。
記者が引退の質問をしてもそのそぶりも見せず、また一方でチームメートたちとの微妙な距離感もスマートにこなしていた。事実を言えない複雑な立場の中で、そのプレッシャーに耐えながら、役割を淡々と果たしていくことは並大抵のことではない。
私の話で恐縮だが、外資系企業で働いていたとき、企業買収の話があった。人事の責任者として買収交渉の矢面に立たねばならなかった。非常に重大な情報を自分だけが知り、秘密にしなければならなかった。皆、自分たちがどうなるのかを聞きたがったが、情報を話すことはできない。一方で、どう対応すればよりスムーズにことが進むかを考えて交渉しなくてはいけない。イチロー選手のふるまいを見ていて、その時の記憶がよみがえってきた。
イチロー選手は2日とも試合途中で交代となった。彼がレフトからベンチに戻ってくる時、一時、試合が中断した。同僚たちがわざわざホーム付近まで一旦戻って彼を迎えいれた。途中交代という楽しくない場面で、また引退発表直後を控え、イチロー選手にも様々な思いが錯綜する状況だったと思う。
彼は堂々と、メンバーを鼓舞するようにベンチに引き揚げてきた。彼のプロとしてのしぐさが私の心を打った。そのタフさこそが、彼をここまで輝かせてきたのだと思った。
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