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【プロの文脈】一億総クリエイター時代、目先を追わない勝利法則

メジャーの強さは、“長期の計画力 ”にある。インディペンデントの視野は狭く、目標点が近すぎる。このトピックでは、「一流のサイズ」を、知ることができる。自分スケールに満足しないアーティストの、ために書く。

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アーティスト情報局:太一監督
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監督がスタジオから発する生存の記
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『 アーティストに求められているのは、本質 』

自己啓発に踊らされて、足下を見ながら創作にいそしむアーティストが増えている。特に、若さを失った瞬間からが顕著である。見極めは簡単。彼らは一様に、“多作”だ。承認欲求と結果への焦りから、“運”に依存していくためだ。自身の価値を削ぎ捨てていることには、気付かない。

ますますアーティストには、作品力以外の部分の「本質」が求められている。作品の評価において、“アーティスト本人”の評価比率が過半数を超えている。作品は、アーティストの人柄で評価されているのだ。

アーティストは創作活動以上の覚悟で、“自分価値”を積み上げる必要がある。評価されるのは作品以上に、あなたの“信用価値”だ。

そこで、日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際ニュース:カンヌ国際映画祭の新作会見に登壇したマット デイモンが過去に、映画史上最高額のオファーを断っていた理由を公表

マット デイモンは映画「アバター」のオファーを断ったことで、史上最高額の犠牲を払っていたことが判明した。新作「Stillwater」のプレミアの後の、爆弾発言だった。

この、オスカー受賞俳優が語る。「あの時の僕よりも有利な契約を断った俳優は、いないだろうね。アバターっていう“小さな映画”のオファーをがあったんだ。ジェームズ キャメロンは映画ロイヤリティの10%を提示したよ。僕は、歴史に残るだろうね」

デイモンがこのオファーを受けていたなら、約2億5千万ドル(約275億円)を手にしていた計算になる。この映画は全世界で約30億ドルの興行収入を記録したためだ。

デイモンが「アバター」を断った理由は、ポール グリーングラス監督の映画「ボーン アルティメイタム」で、ジェイソン ボーン役を再び演じる、という約束を果たすためだった。またデイモンが、「Promised Land」(2012年)の脚本を一緒に書いたジョン クラシンスキーに伝えたところ、クラシンスキーは唖然としたそうだ。

「キッチンで“Promised Land ”を書いていたんだ。シェールガスを掘削する話だ。その時、ジョン クラシンスキーにこの話をしたよ。彼は、“え?”と言って、立ち上がってキッチンを歩き始めたんだ。彼は“OK、OK。OK。OK. OK”と言ってたよ」。

キャメロン監督は2本の続編を製作中で、2022年と2024年に公開されることになっている。
 - JULY 09, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 ニュースのよみかた: 』

マット デイモンが過去にアバターで歴史的な額の高額オファーを辞退したのは、シリーズ最新作を準備している旧知の監督のため。それを自宅キッチンで仲間に告白したとき彼は、地味な小作の脚本執筆中だった、という記事。

マット デイモンがカンヌ国際映画祭に持ち込んだ新作「Stillwater」は現在のところ、最も好評な作品の一つ。なおこの記事中、キッチンで一緒に脚本を書いていたジョン クラシンスキーは、後に映画「クワイエット プレイス」を大ヒットさせる監督。だがその映画の“総製作費”ですら、デイモンが断った金額の1/14だ。さぞや驚いたことだろう。

マット デイモンが、観客はもちろん各国の映画人と映画祭から愛され、受賞を積み上げられる理由がわかる。まさに、一流でだ。

『 アーティストのサイズ 』

目先を追う将来性の無いアーティストは、多作である。承認欲求を満たし、活動している気分を得られ、キャリアを積んでいる風を演じられるためだ。利己的な活動だとは気付いていない。成功を“運”だと想っている彼らは、一流の前に立つと、言葉をのむ。

アーティストにはそれぞれ、サイズがある。
ここ「アーティスト情報局」では“自己啓発”を扱わないが、有名無名を問わず、作品数や受賞歴を問わず、“創作主”としての大きさは異なるのだ。

先の記事のマット デイモンは、どうだろう。確実に、大きい。彼を前にした他のアーティストたちは、上座を譲る。だが実際の彼は映画の会議に、首からタオルを提げてランニングしながら汗だくで現れるような気さくな存在だ。

一方、銀座に居を構えて営業マンに連れてこさせた顧客に作品を売るタイプの偽物には、誰もリスペクトを持たない。作品の購入者は当然、素人である。

アーティストのサイズは、日常の素行で決まる。
どれだけ“アー写”を、ハイソな日常を気取っても、“偽物”は隠せない。プロフェッショナル“風”の技術は買える時代でありながら、一流と偽物の差は広がるばかりだ。騙されるのは、素人ばかり。

一流の観客は、見誤らない。


『 目先の目標を追っていいのは、ビジョナリーだけ 』

一流の成功者たちは、自己啓発に否定的だ。当然、自分探しの旅をするタイプなど、独りもいない。明確な長期的目標があり、毎日を最適化するだけのシンプルな生活を送った果てに、今を生きている。誰もが自然体で、“スルー力”に長けている。特に、“称賛を受ける”ことに鈍感なのも特徴だ。

彼らはときに非合理的で、突飛に観える行動を示す。だがそれは長期目標のために必要な“小目標”を経た、それだけのこと。長距離ランナーは、給水ポイントでのボトルの受け取り方を練習している。監督は脚本を忘れる日常を選び、俳優は変装無しでスーパーに出向く一流の彼らは、“らしさ”の逆にある。

一方で偽物の素人たちは、身ぎれいな出で立ちで日々のトレーニングをSNS発信し、仕事の無い時間を無計画な小作製作で埋めて隠し、スキンケアと身体づくりに懸命で、街行く人々に評価されるための日常を生きている。

結果の差は、比較すらおこがましいほどに。
“目先の目標”をクリアしながら自分を褒めて“やる気”を出さねばならないならその人物は、もとより才能が無い。そもそもに、「やる気」なんてものは存在しない。

長期目標の解像度を高め、クラスターの精度を上げるために、次の瞬間を設計しながら生きる。それが一流アーティストたちの生き方だ。突飛な行動には必ず、目的がある。

『 編集後記:』

「兵士は、靴を磨く。」
その意味を考えながら、暮らしている。

部屋を出る瞬間には二度と、戻らないことを想定している。他人が踏み込んだ瞬間を想って、ペンダントライトを点けておく。いつでも掃除は行き届いており、洗い物やゴミを残すことはない。デスクに手紙を残しておくのは、やめた。サンタマリアノヴェッラの芳香紙を一枚、燃やしておこう。

虚飾を排して上質香る、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

■ 太一(映画家):アーティスト業界情報局 × 日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、 監督がスタジオから発する生存の記