戦え!ダシガライダーピンク!⑤

承前

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神は舞い降りた。祈りによって。

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慈悲は等しく、救いを受け入れぬ罪人にさえも。

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「私の眼には、あなたはとても高貴に見える。」

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言葉と微笑みを残し、神は天へと帰ってゆく。《DATの海》の闇を払う、光の柱がそそり立ち――


『RIDER KICK.』


――頭上数メートルの高さでへし折れ、一拍遅れて凄まじい轟音と衝撃が灰と砂礫を吹き飛ばす。


その場の三人は、それぞれの帽子と眼鏡を抑えるのも忘れて、唖然とそれを見上げていた。状況を掌握している者は、ただの一人もいなかった。ここ、海の底へと至るまでの全ての絵図を描いて見せたはずの、悪の科学者当人でさえも。

神に――飛び蹴りをクレた人影が、ボロ雑巾のようになった神の、胸ぐらを掴んで引き寄せている。

「……る、ルーシィさん……?」

三人のうちの一人が、やっとのことで声を絞り出す。人影の特撮ヒーローじみた衣装を、彼女には目にした記憶があった。それは彼女が成り行きで保護し、今は地上の教会で彼女の帰りを待っているはずの、少女の持ち物のように見えた。直後、人影が放った詰問の声によって疑いは確信へと変わったが、混乱の度は増すばかりだ。なぜ?


「――なんなんですか。アホなんですか。あなた、神様なんですよね?」

神は答えない。

「なんでもできるんでしょう?なんで何もしないんですか。派手に出てきて縛られるだけ縛られて、そんでそのまま帰るとか。」

神は答えない。そのかんばせには慈愛の微笑みが浮かんでいる。

「肝心なことはなんも語らず、何一つ描き切らないで、そのザマで何"神様代表"みたいなツラしてのこのこお呼ばれしてるんですか恥ずかしくないんですか。バカなんですか。」

神は答えない。閉じたまなじりに小さな光。眉は柔らかく八の字に下げられて。

「せめて救ったらいいじゃないですか。助けを求められたんですよね。本人に拒否られたくらいで何をすごすごと……出来るんでしょう?神様なんですよね?」

神は答えない。その鼻翼から一筋の血が流れる。

「……なんにも、できなかったんですよね。――」

神は答えない。少女の声から、詰るような色が消えていた。


「――なら、いいです。あなたの力、わたしが使ってあげます。」

神の全身が光に包まれ、胸ぐらを掴んだ少女の手へと吸い込まれていく。そこにはスティック状の情報記録媒体があった。悪の科学者が目を剥いて驚愕する。

T2ガイアメモリ。
◆TAI2.kX92wの名を持つ一柱の神の、世界に刻まれた力の記録。

ベルトのドライバーに差し込む。電子音が神の名を高らかに叫び、少女の身を包む戦闘服がその形状を変えていく。顔上部を覆っていたマスクは「罰」の字が刻まれた眼帯に、スーツは黒色のローブに。背中には光り輝く片翼。

「なっ……」

「文句は言わせませんよ。"これ"、そもそもあなたが始めたんですよね。」

わたしはベルトを指差して笑う。そう、"わたし"。地の文を自分の視点で切り取る事の本当の意味をわたしは知る。開いた口が塞がらない科学者──ダシガラさんの、口角が歪んで持ち上がる。神との融合が、わたしに世界の記憶──《保管庫》へのアクセス権限を与えていた。

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そんなつもりではなかった。単なる悪ふざけのつもりだった。

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しかし、それは誰かの心を動かし創作の熱を広げて価値の継承と変転を続け、

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ギャグとシリアス長編小ネタ、複数の視座が織り成す連綿無限の紆余曲折を経て個の想像を超えた境地に至る。

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「参加型AA長編スレッド」という世界の形が齎らした、ただ独りにては在らしめられざる繋がりの力の結晶。

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すなわち「被造物による神の力の行使」という、最強の既成事実――


「なんだ!そりゃ!」

「今のわたしは、神様ですからー!」

真っ当なツッコミなどお呼びではない。


「――あなたを、救います。」

ライダーキック。神の暴威が解き放たれる。


わたしと彼女の直線上に立ち現れた無数の《鏡》を、貫き破り蹂躙する。繋がりなど不要だと、ただ個としての完成された世界を、秀麗な完結をこそ尊ぶ声を、自らの叫びでかき消しながら。

空気を伺い、自らを「敷居の高い名スレ」のくびきに当て嵌めんとする分別を、世界から熱と勢いを奪い去る深謀遠慮を砕く砕く砕く。稚拙で乱暴な、機械仕掛けの誂えられた救いを、未だ救われざるこの《海》の底にただ一度だけ届かせる為に――

罪人を世界の終わりまで繋ぎ止める筈だった鎖が呆気なく千切れ、地獄の底で苛み続ける筈だった大岩が千々に砕けて塵と化す。神の裁定――汝に咎無し!

「――マジでやりやがっ……――」

救われた罪人のうめきを背後に着地、残心。直後に余剰エネルギーが爆発し、凍える海の底に赫赫とした火柱が上がる。ギャーという悲鳴が聞こえた気がしたが、死にはすまい。

「……ルーシィさん、」

茫然自失と火柱を見上げる魔術師の人をよそに、神父さん──ツィールトさんが、何かに気付いた様に声を上げる。わたしは構わず残心を続け、ゆっくり拳を持ち上げていく。

「あなた、まさか、」

耳の高さまで達した右拳を、気合と共に振り下ろす。それは瓦割りと呼ばれる破壊の型。《海》の底、灰と砂礫に覆われた不毛の大地に神の拳が突き刺さり――


――破れ砕けたのは世界か鏡か。


キラキラと輝く《鏡》の破片が、わたしの周囲を舞い降りる。咎めるように。眼帯の奥の眼差しは、地獄の底をなにものかと隔てる強固な拒絶、その先へ。

***

次話



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