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エディージャパン シリーズ5戦を終えて


日本代表の夏のシリーズが終了し、JAPAN XVとして臨んだ2戦も含め、5試合を戦い、1勝4敗という戦績に終わった。
第2次政権となったエディージャパンの最初のシリーズを振り返る。

日本 17-52 イングランド
JAPAN XV 10-36 マオリ・オールブラックス
JAPAN XV 26-14 マオリ・オールブラックス
日本 23-25 ジョージア
日本 14-42 イタリア
※各試合のレビューは別投稿を参照

「超速ラグビー」を掲げ、強化を開始した日本。
初戦のイングランド戦では開始早々からテンポのいいアタックをみせるなどその片鱗をみせ、エディー・ジョーンズHCも「最初の15分はイングランドを押し込み、主導権を握った」と収穫を語った。一方で、コリジョンの部分で優位に立てず、コンタクトの強い相手プレッシャーに苦しみだすと、手詰まり感が否めなかった。
マオリ・オールブラックス2戦、ジョージア戦でも序盤の連続アタックは光ったが、迫りながらも取りきれないシーンが目立った。エディー・ジョーンズHCも「相手のゴールラインまで行くと、15人のディフェンダーがいる。(横幅が)60mだから、(ディフェンス)ふたりの間にスペースはない。そこでオーソドックスなパワーゲームに戻ってしまった。よりよいゴールラインアタックを考えなければならない。それには流動性が必要だし、もっと動きが必要だ。そのためにはかなり革新的でなければならない」と語った。
それでも、ループプレーなど工夫はみられたが、ポッドの配置や裏へのキックなどアタックに選択肢が少なく、単調な印象を大きく受けた。特にイタリア戦ではこのシリーズでみせていた立ち上がりのアタックは実現できず。相手にフィジカルで優位に立たれて中盤でのフェイズで押し返され、非常に厳しかった。その単調性から整備された相手ディフェンスのプレッシャーをまともに食らってターンオーバーを許し、多くのトライを献上した。
プレーの選択がとりわけ重要で、パス、ラン、キックなどの判断を、状況を読みながらセレクトするためにチームでの成熟度を上げていく必要がある。
継続できる体力とフィジカルを高める必要があるのは当然だか、スペースへのキックをはじめ、取りきれない際にエリア取りをリセットできる効果的なキックも活用したい。

エディー・ジョーンズHCは超速ラグビーについて、「最初の20分間を見ると、だいたい私たちがどのようにプレーしたいか、選手たちの理解度は高いと言える。しかし、プレッシャーが掛かるとすぐに悪い癖が出てしまう。昨年の『RWC』から、世界のトップ10のチームに勝てるようなチームを作るのは理想だが、プレッシャーに負けてしまうのが現状だと思う」「ジャパンでプレーするには集団としてスピーディにプレーするのが正しい方向だと理解している」としつつ、
「我々はまだできていないが、選手たちはキックのプレッシャーゲームを学ばなければならないし、ゲームの原則を学ぶ必要がある。例えば、ボールを奪って前進しているのなら、プレッシャーを掛け続けたい。そして相手のWTBが上がって来たら、裏のスペースにキックを蹴る。サイドからサイドに展開するのであれば、スペースを作らなければならない。これは個々の判断ではなく、プレーの原則。だから、個人の判断とプレーの原則の両方の要素がある」と語り、「我々はキャリーメーターに優れている。アタックは素晴らしい。キッキングゲームを追加する必要があるが、それは経験を積めばほとんどできるようになる。だから、3、4年かけて発展させたい」と話した。やはりまだまだこれからの印象だ。

総じて若いフロントローが並んだスクラムでは安定感のある出来を披露し、マオリ・オールブラックス戦など局面の起点となるゲームもあったが、イタリア戦ではマイボールを失うなど厳しい内容だった。エディー・ジョーンズHC「イタリアはフロントローがタフで、彼らのスクラムの組み方に対応できなかった」と評した。それでもPR竹内柊平(浦安DR)は「プレッシャーをうけてしまったが、ファーストスクラムはすごく感覚が良くてマイボールだったら押せてるなというイメージ。やっぱり強豪国というところで、セカンドスクラムでは対応されてしまった」と語り、試合の印象ほどに悲観する必要はないのかもしれない。
ラインアウトはゲームによって出来が左右されたものの、このシリーズ1戦目〜4戦目はある一定の安定感は披露。マイボール確保に安心を感じされる局面もあったが、ロスト7を数えたイタリア戦は総じて非常に厳しく、大事な局面でミスを連発して決定機を逸した。

ディフェンスでは、自陣インゴール前に迫れた決定機を確実にものにされた感を否めないが、統率のとれたラインを揃えながら、鋭い出足でプレッシャーをかけ、力強い相手に対してダブルタックルで押し込む対応はよかった。デザインされた相手アタックには対応できないシーンもあったが、セットがしっかりと出来ればラインディフェンスを崩されるシーンは少ない印象だった。リロードが遅れれば、ラックサイドを突かれたり、大外を破られたり、ディフェンスシステムもまだまだまだこれからで精度をあげたい。
また、ターンオーバーやカウンター、自らのエラーなどからの失トライも多く、特にイタリア戦ではそこからのトライ献上が際立った。プレーの失とコントロールも課題だ。エディー・ジョーンズHCも「一貫してできなかったのは、ボールをターンオーバーされた回数」「ターンオーバーの要因となったひとつにハンドリングエラーがある。だが、その部分は個人のスキルの問題なので、高めていくしかない。もしターンオーバーレートを減らすことができれば、試合に勝つ確率も上がるだろう」と課題とみる。

キッキングでは、ハイパントなどキック処理は相変わらず不安定感があり、ライン後方を抑えるシステムなどは未整備。効果的なキックは非常に少なく、キッキングゲームでは常に後手に回って、攻守に上手くいかず、相手に好機を与えるシーンも目立った。エディー・ジョーンズHCも前述のように「キッキングゲームを追加する必要がある」と話した。

エディー・ジョーンズHCはこのシリーズの結果を受けて、「非常に厳しいスタートになってしまった。テストマッチで負けてスタートするのはいつであっても厳しいもの。だが、チームが向かう方向性については希望を持っている。チームを作るには時間がかかるもの。このチームは現在合計200キャップあるが、そのうちの半分近くの90キャップはリーチ マイケルがマークしたもの。イングランド戦、ジョージア戦、イタリア戦で我々がうまくいく時間帯もあった。とくにジョージア戦はレッドカードでひとり少なくなるまでうまくいっていたと思う。だから、このような状況は長く続かないと思っている。素晴らしい若手も育ってきている。アマチュアでまだまだ若い矢崎由高(早稲田大2年)が世界のトップクラスのチームとテストマッチを3試合も戦ったことを考えれば、その成果はご理解いただけるだろう。今後彼が30回、40回とテストマッチをこなした時にどれほどの選手になっているか考えると、それは末恐ろしいほど。FWも若いメンバー陣が多かった。イタリア代表戦では苦戦したが、彼らにとっていい勉強になったはず。若い彼らは時間をかけながら、成長していくだろう。みなさんが結果に失望しているのは理解しているし、私自身結果に失望しているが、チームの方向性には失望していない。最初から時間がかかることはわかっているし、これまでのチームからこれから先の若いチームへ変革していくのには時間がかかるもの。若い選手の育成が必要だし、チームを変革させるには時間と忍耐が必要」と語った。

また、FB矢﨑(早稲田大2年)やHO佐藤健次(早稲田大4年)、PR森山飛翔(帝京大2年)ら大学生が担う役割について語った。要約すると、
「矢﨑がワールドレベルのラグビーを周りの選手に知らせることで、大学ラグビーのレベルを上げることができる。森山も帝京大学に戻り、同じようなことをしてほしい。早稲田主将の佐藤も、利川桐生(明治大3年)もチームに戻り、より高いレベルでトレーニングを積んで、大学チームのレベルアップに貢献してほしい。そうすることで、重要な変化がもたらされることになるだろう。私は日本ラグビーの未来は、間違いなく大学の選手の育成に懸かっていると思っている。今後8年間は大学生の育成がカギになる。周知の通り、リーグワンでは完全にプロ化されている。だが、日本人の出場機会は53%にしか達していない。この数値を上げるためには大学からの8年間の選手育成は非常に重要。私たちは大学側のサポートに感謝している。日本のラグビー史上、最も大学ラグビーが重要になることだろう」。
世界では大学生の年齢にてトップレベルで出場を重ねる選手も多く、日本における大学ラグビーの位置付けは非常に重要なものである。

そして、トップ10の強豪に勝つようになるまで、どのくらい時間を要するのか尋ねられると、
「正直に言うと、いつとは言えない。このような若いチームを勝てるようにするためにはハードワークし続ける必要がある。そして、どこかの試合でブレイクスルーを起こす必要があると思う。チームはブレイクスルーを経て、上昇気流に乗ることがある。これまでの経験で言うと、2013年のウェールズ代表戦がブレイクスルーとなり、チームの中で本当に自分たちのことを信じはじめ、自分たちはやれると信じ抜くができた。今回のチームが、いつブレイクスルーを迎えるかはわからない。ただハードワークを続け、信念を貫き、正しい選手をセレクションして、そのブレイクスルーの時を迎えたい。その時は必ずくると思う」と話した。着実な進化を見届けていきたい。

日本代表の次なる戦いは8月25日からカナダ、アメリカなどと対戦するパシフィック・ネーションズカップ。エディー・ジョーンズHCは、トゥールーズに移籍するSH齋藤直人とLO/FLリーチマイケルは参戦しないことを明言。
エディー・ジョーンズHCはベスト4以上を狙う2027ワールドカップに向けて、「最初の1年は才能がどこにあるのか、誰が進歩し続ける適性を持っているのかを見極める時間だと思ってといる」と話し、このシリーズでのテストマッチ3戦では実に11選手が初キャップを獲得した。
パシフィック・ネーションズカップでは、このシリーズで感じた課題はどこまで改善がみられるかを注視しつつ、勝利が望まれることに加え、その陣容にも改めて注目が集まる。

「超速ラグビー」を掲げる日本には、単にテンポのいいアタックというわけではなく、プレー選択の的確さ、状況判断の早さを兼ね備え、よりスマートにゲームをコントロールできる遂行力が期待される。相手より素早く、判断よく動き、局面で優位に立つ。プレーの一貫性と選手の意思統一を実現し、あらゆる局面で攻守にスピーディーな働きを観たい。

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