堀潤さんと「分断とメディアの役割」について愚直に考えた

僕はジャーナリストとして、
半世紀以上生きてきた。
そしてジャーナリストとして、
人生を全うしようと誓っている。
今、メディアに携わる人間として、
ネット、SNS全盛の現代は面白くもあるが、
非常に困難な時代だとつくづく思う。

僕は11歳のとき終戦を迎え、
大人たちの豹変ぶりを見た。
英雄だった政治家が戦犯となり、
「鬼畜」だったアメリカ、イギリスは、
すばらしい国になった。
「聖戦」だと言われて来た戦争は、
「間違いだった」と言われた……。

「大人たちは信用できない」。
11歳の僕はそう思った。
僕のジャーナリストとしての原点である。
当時は政府や新聞が嘘をついたが、
現代はSNSの時代。
誰もが発信できる、
つまり誰もが嘘をつける、
「フェイクニュース」を流せるのだ。

10月の「田原カフェ」に、
堀潤さんに来ていただいた。
堀さんは元NHKのアナウンサー、
現在はフリーのジャーナリストだ。
「フェイクニュースに
騙されないためにはどうしたらいいのか?」
尋ねると、堀さんはこう答えた。
「ものすごくシンプルですよね。
リアルで会って、
お互いに声を掛け合えるような
人間関係や情報の伝達を大事にするべき」。

堀さんの学生時代の専門は「プロパガンダ」。
「メディアが民主化するべきだ、
まずはNHKが変わるべきだ」と考えて、
NHKを受けたという。
最終面接で面接官に、
「変えられると思うのか?」と聞かれ、
「一生懸命やれば変わると思います」と答えた。

面接官たちは笑ったそうだが、
なぜか試験には合格。
アナウンサーとして、
視聴者の反対意見などを
積極的に取り上げつづけた。
「アナウンサーですから、
生放送なら、いかに周りが制止しても、
言ってしまえば流れるので」と笑う。

そして2011年、あの東日本大震災、
福島原発事故が起こる。
原発に反対するような意見や、
取材した事実を放送できない……
そんな日々が続いた。
ついに堀さんは、個人のツイッターで、
取材した事実を発信し始める。
ある日、「政治家からクレーム来ちゃったよ」と
上司からそう言われた。
結局NHKを辞め、
フリーランスとなった。

堀さんはNHK退職後、
最初は「市民ニュースをみんなで発信する」
メディアを目指した。
しかし今はニュースの伝え方を変えようと考え、
写真展を開いたり、
映画をつくったりしている。
堀さん曰く、
「寿司屋の大将が、
お寿司を手渡しするように」
ニュースを伝えることを心掛けているという。

取材をしていて一番うれしいのは、
「自分がこうあるべきだと、
思っていた固定観念が
打ち砕かれる瞬間」。
一番大事なのは「一次情報」だと言い切る。
「一次情報」に接していれば、
フェイクニュースに出会っても、
「私は現場に行って、
関係者の人に話聞いたけど、
違うらしいよ」と言える。

まったく同感である。
僕は話していてうれしくなり、
エネルギーがわいてくるのを感じた。
僕も必ず「一次情報に当たる」ことを鉄則としてきた。
僕が若い時代と今とでは、
メディア環境が全く違う。
しかし守るべきものは同じなのである。
話をする堀さんは、
いい顔をしていた。

今ほとんどのメディアは、
一次情報に当たらず、
「常識」を流しているだけだと思う。
堀さんはそんな中で抗っている。
「表層的な固定観念のぶつけ合いで、
議論しているような思いになる。
それが分断を生んでいる」
きちんとコストをかけて、
「固定観念」を打ち砕く。
それが「メディアの役割」だと
堀さんは言う。

その日もイスラエル大使館を訪れ、
イスラエル大使に話を聞いたという。
「イスラエルがひどい、悪い」というのは簡単だ。
しかし、だからこそ、
今イスラエル側の話を聞こうとしたのだ。
戦争とは「分断」の最たるものであろう。

「分断」を生まないために、
「固定観念を打ち砕く」ために、
堀さんは、
「話を聞きまくる」
「愚直に現場に何度でも行く」という。
僕も人に会い、
愚直に話を聞き続けよう。
それがジャーナリストの役割だ。