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blessing:our music1110-22

「11曲目が聞こえる」。アルバム【this is our music】を聞き終え、ヘッドフォンを外した瞬間の強烈な体験だった。

2022.03.30,13:30。heliosphereから発送通知と共に、MP3ダウンロードのURLが送られてきた。その時、人生の転機にもなるような一大イベントをまさに終えた直後だった。備え付けの固い椅子に弛緩する身を支えられながら、届いたURLからダウンロードする。そのプロセスに入ったことを見届け、窓の外に目を向ける。昨夜降った雪が駐車場にチラホラと残っている。曇天の中、弱い光を受けるその白さに、目が奪われていた。

帰宅後、強烈な疲労感のもと、新譜を再生。…。前作との違いにひどく戸惑ったことを覚えている。位置づけられない。なんだこれは。戸惑いとともに、疲れに負け、中盤あたりで寝落ちした。泥のようにただ眠った。

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翌日の夜。多少のアルコールも摂取した後、冒頭から全体を改めて聴き通す。緊張。

1曲目________________to notice。一瞬タイミングを外されながらも一気に音の探索に心が引き寄せられる。音のレイヤー。そのひとつに注目すれば、その他の音達が背景として引き受けてくれる。また、それまで背景となっていた別の音に注目すれば、それまで意識を向けていた音たちが、今度は背景となり支えてくれる。注意の変化とともに音達と反転するダンス。映画のオープニングロールのようだった。なにか始まる、期待。

2曲目_____fairies。うねり。遠い耳鳴りのような音。聞き慣れた電子声。扉。歩み。それらはどれも象徴的で、日常に音の妖精たちが飛び交っているよう。いくつもの映像が開き、去来しはじめる。まるで音のフェアリーテール。そして、チャイム。内的世界へのご招待。

3曲目_______conversation piece。場面が変わる。心のなかの映像が展開され、包み込まれる。まるで始発、まだ夜も十分に開けぬ中、車窓から外を眺める世界。流れ過ぎ去る音達。自然と、没入感が高まっていくことが分かった。手に持ったスマホを床におき、「何も触れていない」という感覚自体を味わおうとした記憶がある。ただ、音たちに導かれるまま。どこにいくのか見通せない。その怖さもあったが、このまま任せたいと思える温かさも感じた。そこに信頼を寄せ、委ねる。…もうすぐ、次の駅だ。

4曲目_____________third eye。星が落ちてきた。目を開けていても、見えるイメージ。遠い宇宙との交信。もう地上ではなく、浮いている。宇宙空間に浮遊する自己。ただその感覚を楽しむ。

5曲目_________________________light years。緊張。宇宙のその闇の中で星が放つ強烈な青白い光。深黒の闇の中でこそ耀く光。温かみすら感じる光。色感、音感が賦活される。加速する光が線形を描きはじめる。瞬く星達。この曲は、希望。絶望の中で、輝き続けようとする希望たち。

6曲目___________________a grand trine。涙が出てきそうだ。命という小宇宙たちの出会い。曲名を調べ、パチンと弾ける。3つの天体、感受点が出会った奇跡と愛おしさ。

7曲目_______no disturb。登る朝日に赤々と照らされる流れ雲。凹凸による陰影の動的グラデーション。停止した写真ではなく、動きが見える。刻々と変化することこそ生命。その土地に根付いた音とつながり、自分を通過する。

8曲目_____________________our music。発酵。混沌を力でねじ伏せるのではなく、折り合うこと。耳を傾け、自分も入り、緩やかに享受する。畏怖。感謝と喜び。

9曲目_______aeterna。連綿と続く歴史、文化。もっと大きな時の流れ。大地の静寂に目が向く。ずっと続いてほしい。いや、続く。

10曲目______________cauda。深い霧の中、灯台の明かりを頼りにゆっくりと進む舟。穏やかな波の揺れ、温かい風を感じながら、港を目指す。大丈夫、あの光に従えば、きっと戻れる。深く入り込んだ内的世界から、元の世界にちゃんと連れ戻してくれる。安全に、安心して連れ戻してくれる。

衝撃だった。理解することができなかった。呆然としたまま、ただ全身に受けた衝撃に揺れながらヘッドフォンを外す。

…。

そして、聞こえるはずのない11曲目。
冷蔵庫の唸り声、遠くで走る車の音。近隣住宅の生活音…。
すべてが重なり音楽に聞こえる!

驚いて、ヘッドフォンを外そうと再び耳に手を伸ばしたが、そこにはない。
すでに目の前に置かれているのだ。

手を伸ばした服の擦れる音!強弱の異なる足音とそのリズム!
リアルタイムで生まれ続ける音楽。すべてが音楽に聞こえる。
見ているものは、これまでと同じ。でも、それまで気づかれないように、なりを潜めていたものたちの声を、はっきりと聞いてしまったような感覚。音の妖精にからかわれているか。

この新たな感覚を取り除こうと、何度も身につけていないヘッドフォンを外そうとしたことを、今でも覚えている。まるで新しい聴覚を移植され、慌て戸惑い、もとの自分に戻ろうとあがくようだった。

その感覚は、数分は持続されたかもしれない。しばらくして、このアルバムを視聴する前の感覚に戻ったが、この新たな感覚は、自分の中の真実として強烈に刻まれた。そしてこの体験を思い出すとき、いつもウズウズした気持ちになる。

その後、これを、あるはずがない「11曲目」と呼ぶことにした。このアルバムにうまく没入することができたときだけ聞こえる11曲目。世界からご褒美をもらえたような音楽。こんなボーナストラックが入っているなんて。聞いてないですよ、福間さん。

実際にアルバムが届き、ライナーノーツを読んで、また驚いた。まさにそこに書かれているかのような体験を得ていた。その後、その感動、勢いに任せて福間さんのTweetに感想をリプしてしまった。怖いもの知らずだったなと思うし、勢いで書いたので困らせてしまっただろう、とも反省もする。ただ、このアルバムを通じて得た感覚は、当時、新しい自分を生む芽となり、そして、今ではその新しい自分がメインとなってきている(もちろん、このアルバム以外の転機もいくつか重なっている)。しんどい世界にひそむ祝福を見いだせるようになり、それを感受し、それらへの畏怖と感謝から寛容さと勇気を得ることができるようになった。世界を肯定的に受け容れることができるようになった気もする。停止した世界線から、動く世界線に飛び移ったようにも感じている。つまり、僕は変わった。

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福間さん、お誕生日おめでとうございます。いつかこのアルバムの感想を、自分の体験とともにお伝えしたかったです。ライナーノーツもご自身の思いがたくさん伝わってくるものだったので、僕も同じように個人的な思いをお伝えしたくなっていました。でも気恥ずかしいし、暑苦しいし、ご迷惑だろうと思って、今まで言えませんでした。でも、この内海でなら、今ならちょっと言ってもいいかな、と思って書いてみました。当時の記憶と今の気持ちがシンクロして、どっちがどっちだからわからなくなる体験もありましたが、でも、それ自体が、自分の筋をみる契機になりました。

Total Time 47:01の宇宙。このアルバムを世に生み出してくれてありがとうございました。聴き直し、時折振り返りたびに、自分が少しずつ更新されていくような感じです。(お会いしたこともなく勝手なイメージを投影してしまい申し訳ありませんが)福間さんのお優しさを感じとり、それに包まれているよう温かさのなかで、それは遂げられています。

今の僕にとって、世界にあふれるすべての音に福間さんを感じる時があります。福間さんは、”音たち”になられたのだと思うことがあります。日常生活の中で、その音たちに耳を方向け感じる時、大きなつながりを感じ、色鮮やかに柔らかく生きる力を取り戻せるような気がします。このアルバムを通じて、11曲目と出会えたことで、これからも世界と時間に愛おしさを感じ、生きていけます。

この感想を書き終えたくない気持ちが強くなってきています。
なので、またどこかで、続きというか、その時の思いを通信させていただけたら嬉しいです。迷惑なファンレターだと思います。どうぞお許しください。

最後に、あらためて感謝をお伝えさせてください。
福間創さん。ほんとうに、ありがとうございました。
いつだって大好きです。

志乃田たぐる




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