見出し画像

フリキル (2011)

※上演ご希望ございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。著作権は田口アヤコおよび川上 弘美・岡崎 京子 両氏に、上演権はCOLLOLに帰属します。


【上演記録】

@恵比寿site  2011年9月1日(木)〜 6日(火)
http://www.COLLOL.jp/furikiru/


staff:

劇作・演出:田口 アヤコ

音響・演出:江村 桂吾


照明:関口 裕二(balance,inc.DESIGN)

舞台監督:吉田 慎一(Y's factory)


制作:COLLOL

制作補:守山 亜希(tea for two)、高橋悌

宣伝美術:鈴木 順子

イラスト:川崎由紀

主催:COLLOL


2006年に、王子小劇場および、利賀リフトシアターで上演いたしました、

『手を離したとき目をつむっていたのか
 それとも最初から目はつぶれていたのか
 〜ジャン・ジュネ作「女中たち」より』

の改作版としてつくりはじめましたが、

あっちへ飛び、こっちへ飛び、

とにかく、あたしは、生きていく

というお話になりました。

このプロジェクトに関わっていただいた、すべてのみなさまに、
大きな感謝を捧げます。

ごゆるりと、
あなたのための演劇を
おたのしみください。


COLLOL主宰 田口アヤコ



cast:

齋藤陽介(26)

東京ディスティニーランド(35)

八ツ田裕美(36)

田口アヤコ(35)

大木裕之(47)


引用テキスト:

川上 弘美『いとしい』(文春文庫)

岡崎 京子『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』(平凡社)

*********

<29>

田口:

待つ?なにを?
来ることを?
ふたたび、みたび、よたび、いつたび、来ることを?

待つな、あたしなら
その待ってるじぶんを
すこしぼやけて溶け出した自分を
あめだまのようにしゃぶりたいの

やっぴー: 振り返っちゃいけないんだよ

田口: オルフェウス?

やっぴー: あのひとが、来るんでしょう?


<27>

齋藤:

ほんとうは
ぼくの
たったひとりは
きみなのだ

複雑なものを複雑なまま扱う。

当然みたいに無料でセックスする。

失くすためのもの たとえば手袋。

もろい精神で世界をサバイブする。
フリキル。
振り切る。
降り切る。


<24>

東京→やっぴー:

きみはかわいい、

きみはうつくしい、

きみは弱い、

きみは偽善的である、

きみは無邪気である、

きみは狡猾である、

きみは柔和である、

きみはきよらかである、

きみはよこしまである、

きみはみにくくある。


<失ったものとしてさわる>

東京、やっぴー
齋藤、田口

<けいたいでんわの中身>

やっぴー

東京

田口

齋藤


<28>

燃やして。

はい、残った妻です

はい、残った夫です

はい、残った息子です

はい、残った母親です

はい、残った恋人です

インドでは、妻が生き残ってしまったら、
いっしょに火葬の火に入るんだって。

燃やしたら、流すの?

川に?

うん、川に。

はい、残った妻です

はい、残った夫です

はい、残った息子です

はい、残った母親です

はい、残った恋人です

生き残った妻です

生き残った夫です

生き残った息子です

生き残った母親です

生き残った?

齋藤:
あのひとがぼくの 僕の?
手を離したのは
僕の 僕の?ことを
愛していないから だ ろう か
僕が 僕? 僕が?
あのひとをあいしていないからだろうか


<待って、いかないで>

やっぴー、田口

齋藤、東京


<19>

やっぴー: 探さないでください。

4人:
探さないでください。
みつかりません。
失われました。
取り戻せません。
生き返りません。
呼ばないでください。
答えることはできません。
あなたのそばで、あたたかい火に当たって、あたたかい陽に当たって、
いっしょにすべてのことを語り合いたいけれど、それは、不可能なのです。


<1>

齋藤、やっぴー、田口、東京:
ぼくはきみのことを忘れる

誕生日を忘れる
記念日を忘れる
指輪を忘れる
髪の毛の味を忘れる
服装を忘れる
あの夜吐いたことも忘れる
きみがだいじにしていたものすべてを忘れる
(猫のこととか)
ぼくが先送りにしていたことすべてを忘れる
(シーツの洗濯とか)
きみはぼくを忘れる

(同時)齋藤:神様が怖い
ひとつ、
昼間の太陽が怖い
ふたつ、
嘘が怖い、
みっつ、
忘れてしまうことはものすごく怖い、
よっつ、
それ以上、
たくさん。
ぼくの手に負えないたくさんの恐怖
ぼくは戦わない。
ぼくはただきみの首を締めて、
このまま死ねたらいいね、なんて、
それもうそ
たぶん

ぼくはきみがせかいのすべてだとおもっていたけれど、
たぶんそれはすごくめんどくさい
きみのことば、
きみのからだ、
きみのあたま、
きみの声、
きみの足首、
きみの内臓、
きみの肋骨、
きみの胸、
きみの爪、
きみの前髪、
きみの目、
きみの鼻、
きみの口、
きみのことば、
いつもおなじこと、
くりかえし。

いつもおなじこと
悲しい歌
睡眠薬を飲んでねむる
朝がいやだ
いつもおなじこと
きみを抱きしめたいのは本当
なにが、
ぼくの、
よくぼう、
なのか、
だれにも、
わからないし、
わかってほしくなんかないし、
きみにもしゃべりたくないし、
このまま無言のまま死んでいきたい
さよなら、
ぼくのだいじなきみ、
夢で会えたら
ぼくはなにかきみにしゃべりかけるんだろうか?

(同時)東京:あなたが
不幸になりますように。
わたしと別れて。
神様、
わたしたちをお守りください。
小さきものをお守りください。
力をもたない、わたしと、ぼくを、お守りください。
流されるままに、
ちいさなせかいで生きている
ぼくと、わたしを、お守りください。

神様が怖い
ひとつ、
昼間の太陽が怖い
ふたつ、
嘘が怖い、
みっつ、
忘れてしまうことはものすごく怖い、
よっつ、
それ以上、
たくさん。
ぼくの手に負えないたくさんの恐怖
ぼくは戦わない。
ぼくはただきみの首を締めて、
このまま死ねたらいいね、なんて、
それもうそ
たぶん

いつもおなじこと
悲しい歌
睡眠薬を飲んでねむる
朝がいやだ
いつもおなじこと
きみを抱きしめたいのは本当
なにが、
ぼくの、
よくぼう、
なのか、
だれにも、
わからないし、
わかってほしくなんかないし、
きみにもしゃべりたくないし、
このまま無言のまま死んでいきたい
さよなら、
ぼくのだいじなきみ、
夢で会えたら
ぼくはなにかきみにしゃべりかけるんだろうか?

(同時)やっぴー:あなたが
不幸になりますように。
わたしと別れて。
神様、
わたしたちをお守りください。
小さきものをお守りください。
力をもたない、わたしと、ぼくを、お守りください。
流されるままに、
ちいさなせかいで生きている
ぼくと、わたしを、お守りください。

ぼくはきみがせかいのすべてだとおもっていたけれど、
たぶんそれはすごくめんどくさい
きみのことば、
きみのからだ、
きみのあたま、
きみの声、
きみの足首、
きみの内臓、
きみの肋骨、
きみの胸、
きみの爪、
きみの前髪、
きみの目、
きみの鼻、
きみの口、
きみのことば、
いつもおなじこと、
くりかえし。

いつもおなじこと
悲しい歌
睡眠薬を飲んでねむる
朝がいやだ
いつもおなじこと
きみを抱きしめたいのは本当
なにが、
ぼくの、
よくぼう、
なのか、
だれにも、
わからないし、
わかってほしくなんかないし、
きみにもしゃべりたくないし、
このまま無言のまま死んでいきたい
さよなら、
ぼくのだいじなきみ、
夢で会えたら
ぼくはなにかきみにしゃべりかけるんだろうか?

(同時)田口:ぼくはきみを裏切るのがいやだから
もうきみとは会わない
ぼくの口からは嘘ばかりがこぼれてくるからさあ、
いつもおなじこと、
いつもおなじおと、
頭痛がするのでバファリンがのみたい、
ほかのくすりでもいい、
酒でもいい
もう嘘が運ばれていくのはいやなんだよ
いつもおなじこと、
くりかえし、
くりかえし、
くりかえし、
郵便配達、
嘘に、嘘の切手を貼って、嘘のポストに入れて、
それがきみの家に届く
がちゃん。
もう、
終わりに、
したい。

だらだらと続けて、
あいまいな笑いを続けて、
抱きしめあって、
なぐさめあって、
健やかなる時も、病める時も
それで、そのままお墓に入る、
なーんて、
終わりにしない?
ぼくはまだまだ生き続けていたい
というのも嘘だけど。

いつもおなじこと
悲しい歌
睡眠薬を飲んでねむる
朝がいやだ
いつもおなじこと
きみを抱きしめたいのは本当
なにが、
ぼくの、
よくぼう、
なのか、
だれにも、
わからないし、
わかってほしくなんかないし、
きみにもしゃべりたくないし、
このまま無言のまま死んでいきたい
さよなら、
ぼくのだいじなきみ、
夢で会えたら
ぼくはなにかきみにしゃべりかけるんだろうか?


<2>

田口:シューマンが

齋藤:え?

田口:あのさ 音楽家で シューマンているでしょ
そのシューマンがね
なんかね ブラームス
ブラームスってのもいるでしょ
音楽家で

齋藤:え よくしらないけど

田口:ま いて でね いるんだけど

齋藤:うん

田口:で ブラームスが シューマンの 家に来たときにね
ふたりは ともだちで で
「君が来てくれて よかった。
 これで2人で黙っていられるね」
て 言ったんだって

齋藤:え?

田口:え シューマンが そう言ったの。

齋藤:なに? え なんかよくわかんない。

田口:え だから ふたりで 黙る。

齋藤:うん。

田口:うん。

齋藤:ああ
うん。

田口:うん。
なんかね

齋藤:うん。

田口:なんかね
あいつさあ すごい うそついてて。

齋藤:ん。

田口:なんかそれはね あたしも
ほんとのことばっかり言って生きてるわけじゃない
ないけど
ひとを 傷つけたりとか
平気なんだあ、っておもって
なんか すごい 好きとか
あーなんかもうどうでもいいけど
なんか 好きって何だろ
ねえ?


<3>

やっぴー、齋藤、田口、東京(ループ)

A :手 よごれてるよ

B :洗ったよ

A :うん

B :なんか いくら洗っても 爪とか とれないときとか
あるじゃん

A :マクベス だね。シェイクスピア。
「まだ ここに しみ。」
マクベスは王様を殺すんだよ その 血の しみ

B :「まだ ここに しみ。」
おれは ひとごろしはできないよ

A :「まだ ここに しみ。」

B :「まだ ここに しみ。」


<5>

やっぴー(齋藤):

目をつぶったらきもちよくねむれる

目をつぶったらきもちよくねむれる

夢はみない

目をあけたら 朝
あたらしいあさ


夜は嫌い
だから
目を
僕の
目を
閉じる


<6>

田口:どこにも行きたくない
でも ここは
僕の ぼくの?
いる場所ではない
のぼって すべりおりる
のぼって すべりおりる
のぼって すべりおりる…

手を。
手を
手を
つかんで。?
にぎって

てのなかに
なにも ないのかもしれないということにきづきたくないから
めをつぶる

あのひとがぼくの 僕の?
手を離したのは
僕の 僕の?ことを
愛していないから だ ろう か
僕が 僕? 僕が?
あのひとをあいしていないからだろうか


<10>

やっぴー:忘れない?

田口:たぶん

やっぴー:たぶんじゃなくて、ぜったい、忘れない?

田口:うん、たぶん

やっぴー:ぜったい、ぜったい、ぜったいはないかもしれないけど、
わたしがわすれちゃっても、思い出させてくれる?

田口:うん

やっぴー:わたしがそばにいなくなっても、ずっとそばにいてくれる?

田口:うん、なんか矛盾してるけど、わかった。

やっぴー:なんか、わたしが先に死んだりしたときだよ

田口:そうだね

やっぴー:あなたが先に死んだら、わたし、忘れるのかなあ。

田口:どうだろ。忘れるまえにさ、いっしょに死んでよ。


<2>

東京:シューマンが
音楽家で シューマンているでしょ
なんかね ブラームス
ブラームスってのもいるでしょ
音楽家で

齋藤:うん

東京:で ブラームスが シューマンの 家に来たときにね
ふたりは ともだちで で
「君が来てくれて よかった。
 これで2人で黙っていられるね」
て 言ったんだって

齋藤:え?

東京:え シューマンが そう言ったの。
だから ふたりで 黙る。

齋藤:うん。

東京:うん。

齋藤:ああ
うん。

東京:うん。
なんかね
あいつさあ すごい うそついてて。
なんかそれはね おれも
ほんとのことばっかり言って生きてるわけじゃない
ないけど
ひとを 傷つけたりとか
平気なんだあ、っておもって
なんか すごい 好きとか…


<18>

東京:もっと会えるのだったら破滅するだろうか
毎日そのことばかり考える
性欲を基準に考える
狂う

この人の心は戻って来るかもしれない
この人のことをひどく傷つけることができる
母猫が子猫を殺す
あ、なんかもうぜんぜんふつうに
あなたの笑顔がみたいですよ、
ぎゅうっとくちの、はしが、あがる、
つめたいめのくせに、
なんだ、
どこに、スイッチがあるんですかね、
いつまでもいっしょにいられたらいいのに、
いつまでも、
いつまでも、
いや、
でも、
消えたり、
する
から
そんなことをかんがえても

わかってくれ、
おぎなってくれ、
わかちあってくれ、
ゆるしてくれ、
なぐさめてくれ、
もらさぬようにしてくれ、
なめてくれ、

あたしはあのひとをささえきれるだろうか?
もしくは捨て切れるだろうか?


<10>

やっぴー:忘れない?

田口:たぶん

やっぴー:たぶんじゃなくて、ぜったい、忘れない?

田口:うん、たぶん

やっぴー:ぜったい、ぜったい、ぜったいはないかもしれないけど、
わたしがわすれちゃっても、思い出させてくれる?

田口:うん

やっぴー:わたしがそばにいなくなっても、ずっとそばにいてくれる?

田口:うん、なんか矛盾してるけど、わかった。

やっぴー:なんか、わたしが先に死んだりしたときだよ

田口:そうだね

やっぴー:あなたが先に死んだら、わたし、忘れるのかなあ。

田口:どうだろ。忘れるまえにさ、いっしょに死んでよ。


<11>

齋藤:なんでおもいだせないの?

やっぴー:え、だって、
  ほんとにほんと?

齋藤:本当だよ

やっぴー:えーっと、のうみそかきまわしてみる、、って言ってもなあ。。

齋藤:ほんとに脳みそあるの?

やっぴー:あるよ
  なかったら生きていけないでしょ

齋藤:なんで、おもいだせないんだよ

やっぴー:大事ーな、こと、なんだよねえ。。

齋藤:だいじなこと。だいじなこと。大事なこと!
なんかもう、そんな首ならちょんぎっちゃえば?

やっぴー:え、なんでそんなに怒ってるの?


<4>

田口:

A:利己的。自分勝手。わがまま。自分が世界の中心なんでしょ?

B(東京):なんでそんなこときめつけんの?

A:だって、ぜんぜんひとの意見とか聞かないじゃん

B(東京):それはさ、今考えてる、って言ってるじゃん

A:思考停止

B(東京):うごいてるよ

A:いま止まってる

B(東京):うるさいなあ

A:じゃあさ、ひとりで考えればいいじゃん

B(東京):そう言ってるでしょ?

A:わたし、無視されるんだ。

B(東京):あのさあ、…


齋藤:あのさあ、ちょっとのあいだ、静かにしててくんない?


<12>

田口 :あれ 手 よごれてるよ

齋藤 :うそ

田口 :え

齋藤 :…

田口 :え
あれ?
え なんか したの?

齋藤 :手 洗って来る

田口 :え

齋藤 :え?

田口 :…

齋藤 :ごめん
え なんか 疑ってる?

田口 :疑ってる って ゆうか
え べつに
あれ?

齋藤 :…

田口 :え?


<14>

善なるもの
善良なるもの

あたし キレイ?
あたし キレイ?
あたし キレイ?
あたし キレイ?

働きます
お勤め
ヨルマデ
アサマデ
ヒルマデ
シヌマデ

しにたああああいとひとりこえにだしてもだれもきくひともなしひとりのへやひとりのへやひとりのへやひとりの

わたしには妹がいます。
わたしには妹がいました。
わたしには姉がいます。
わたしには姉がいました。
親もいたはずです。
父親も母親も
弟も
いたはずですが。


<15>

やっぴー:どこにもいけない。

つきあたり、

はいつくばって、

それでも。それでも それでも?

再生のイメージ

脱皮できたらいいのに

わたしもきれいなちょうちょに

ひらひらひらひらひらひら

ゆめをみるのも、もう飽きた


<16>

(東京:ひらひらひらひらひらひら(くりかえし))

田口・齋藤:指輪が欲しい

やっぴー:んーーー? なんでもあげるよ

田口・齋藤:そういうんじゃなくて、
  約束が欲しい

やっぴー:やくそく。約束は、できないなあ

田口・齋藤:なんで?

やっぴー:ぼくは、きみより先に死ぬから。

田口・齋藤:今日死ぬの?

やっぴー:今日じゃないけど。

田口・齋藤:じゃあ、いつ死ぬの?

やっぴー:(笑)死んで欲しい?

齋藤:死んでほしくない。

田口:死んでほしくない。
  死んでほしくないから、なにかが、欲しいの

東京:死んでほしくないから、なにかが、欲しいの


<21>

齋藤:

いつまでも

ぼくのそばにはだれもいなかった

風が吹いていた

ぼくは、なにかことばを発してみようとしたけど、だれも、だれもいない、

むかし、のこととか、
みらい、のこととか、
だれか、のこととか、
きみのこととか、
なにか、
なにかをしゃべりたいんだ

という音でもいい

風の音がする、
風に乗って行く、

という音とか、

という音とか、


そうだね、愛ということばがあったね、これはむかしのことなんだろうか、
みらいのことなんだろうか、きみに届くんだろうか、風に消されるんだろうか、ぼくの声は、とてもちいさすぎて。


<20>

やっぴー、東京:

花を。
花を、
咲いた花を、摘んで、
このどうしようもないせかいに捧げる、
たくさん、
わたしの手には持ちきれないくらいの、
花を、
いっぱいに咲いた花を、
花束を、
抱えきれないくらいの、
野原に、山に、庭に、川原に、
咲いた花を、
流して、
海に、川に、
花を


<23>

やっぴー:

もうすぐどこかに行ってしまう

とにかく君の言っていることはぜんぶウソだ

自分自身のための狂い

あたまいっぱいのおんがく

自分を分け与える

キリスト

わたしの肉であり 血であり

消えて、いなくなる

そういうの、ほとほといやになっちゃったのよ

どこにもないことば

ありふれたことば

あなたが選んだことでしょう?

目をつぶったときに見えるもの

そうか、これは怒りについての物語なのだ

あなたが死ぬまで信じつづける

器は絶えず壊れ絶えず修復されなければならない


<9> 

田口:

きみの欠損について話をしよう、
きみはずぼらで、
約束を守らない、
掃除も嫌いだ、
体力もない、
ひとの悪口は言わないが、
自分自身を責め続ける、

起こったことは起こったこと、
でもきみの脆い精神は
耐えられないのか、やり過ごす方法を持たないのか、
ぐじゃぐじゃになって、
雪解けのように、

霜柱を踏んでみる。
ぐしゃ、という小さな音がして、
小さな世界が、壊れる。
おいおい、きみの世界は、
ほんとうにそんなに脆いのかい?
もっとたくさん食べたらどうだい?
滋養になるものを。
人間でもいい、なにか肉肉しいものをさ。

きみが格好つけてるあいだに、世界はどんどんきみを置いて行ってしまうよ。
あんたのことは、だいきらいだ、と言ってしまってから、くちをゆすげばいい。


<22>

東京、田口
齋藤、やっぴー

A :きみのことがわからない

B :わたしのことがわからない ?

A :ものすごく好きなのに

B :好き?好きってなに?

A :わからないものは怖い

B :わたしも

A :わからないものは怖い

B :そうだね

A :きみのことが怖い

B :わたしのことが怖い。

A :うん

B :うん そうか。

A :ほんとうのこと

B :うん

A :ほんとうのことなんてないから、怖い

B :わたしのことが、怖い?


<25>

田口:

あたまのなかで

くりかえして

てがふるえる

がたがたする

ぜんぶが

でもはなれられない

はいりこみたい

すごいみじめでもいいのかもしれない

やさしく

すべてをゆるして?

あたしたちは別れるために出会っているのにほかならないから。

100パーセントの正直さなどありえない、
だってあなたに好かれたい、
ねじまげて、
変形して、
ぬりたくって、
それでみじかいじかんでも、
あなたにあいされたい、
なんかすごくいいことばがみみにはいったようなきがするけど
それもまぼろし、
わたしは正直ではないのだもの


<26>

やっぴー、東京・齋藤

女子: 第1問。
わたしには性欲があるでしょうか?

男子: はあ?
せいよく。

女子: うん。
じゃあ第2問。
おんなには性欲があるでしょうか?

男子: それは、あるでしょう。
…それは、あれ? あの
フェミニズム、とかのあれとかのなんか?

女子: フェミニズム?

男子: いやーまあなんかああいう、

女子: じゃあ第3問。

男子: はい。

女子: いや、第3問は、
ない。


<27>

田口、東京:

ほんとうは
ぼくの
たったひとりは
きみなのだ

複雑なものを複雑なまま扱う。

当然みたいに無料でセックスする。

失くすためのもの たとえば手袋。

もろい精神で世界をサバイブする。
フリキル。
振り切る。
降り切る。


<17>

4人: 夢を見なくなってから10年経った
あの打撃は大きかった
裏切り、なんてうすっぺらいことばで、
向こうが見通せるくらい薄くて、
ぼくがほんとうに必要としていたのはなんだったのか、
よくわからない。
きみのことも忘れた、
ときどき思い出す、
ふわふわして静電気を帯びやすい髪の毛、
闇のなかの寝息、
しっかりとした笑顔の骨格、
ときどきほんとうにさわれそうな気がするくらいだ
もう会うことなんてできないのにね。

齋藤: 欠損は、違う欠損を埋めることができる

田口: 不思議だけれど、ぼくのいいかげんさは、
いまの妻がどうにかしてくれているんだよ、
妻にも欠損がある、もちろん
きみには言わないけど。

(同時)東京: 欠損は、違う欠損を埋めることができる(くりかえし)

(同時)やっぴー、田口(齋藤): ビールを飲みたいね、
いっしょに
青い空の下で
たくさんの缶をどんどん空にして
それで
抱き合うんだよ
そんな、夢も、見なくなった。

(end)

ここから先は

0字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?