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戦略を実行するためには #58

ある研究結果によると、企業において計画された戦略のうち、実行に成功したのは10%に満たないそうです。つまり、企業の実質90%程度は絶えず戦略実行に失敗しているというわけです。

このような現実にありながら、経営のトップ層(以下「経営トップ」といいます)は、「言葉と行動」「発案と実行」とを繋ぐのに必要な接続作業を行うことなく、実行の実務を下のレベルに任せきりにしています。

結果、戦略は誤った方向に傾き、ほぼ確実に意図した通りとはならずに失敗に終わります。

この問題の本質は経営トップのマネジメントにあります。特にサラリーマン経営者の場合は、その傾向が強くなります。つまり、戦略が実行されない問題の多くは、経営トップの戦略への関わり方が大きく影響しているということです。

戦略の実行が失敗する企業のマネジメントは、

戦略を決めて指示を出し、「あとは、頼んだぞ」と現場に任せ、期待した効果が出なければ、「なぜ、できないのか」「もっと徹底してやれ」と担当部署に詰め寄り、叱咤激励する

というものになっていることが多いと思います。経営トップが、こうすることを組織運営のマネジメントだと思っているのです。

本来、戦略が期待通りに実行されないという問題の多くは、組織レベルで捉えるべきものが多いです。目的・戦略の構築まではよく検討されていても、それを実行するためにどういう能力を組織として身に着ける必要があるのかという点が十分に検討されず、戦略のために必要とされる「組織能力」が特定されないまま進められることが多いのです。

この戦略は、既存の組織能力で対応できるのか、足りない組織能力はあるのか、あるとしたら、それは何かを考えることなく、

「経営トップが戦略(方針)を決めれば、現場は実行するもの」

と捉えて、とりあえず目標(KGI、KPI)だけを定めてそのまま進めてしまうのです。ひどい時にはコスト削減を理由に意図せず本来必要なリソースを現場から取り上げてしまうことさえあります。

そして、予定通りに実行できないと、あるいは目標(KGI、KPI)を達成できないと、上層部が現場を問いただし、「できない理由(言い訳)」を報告させて、マネジメントしている気になっているのです。

しかし、現場では自らに必要な組織能力が何かも分からず、その能力形成への経営からのサポートもなく、その中で実行を行うことの納得感もありません。それだけでなく、成果主義の中で、目標(KGI、KPI)を達成できないことの責任も負わされてしまうのです。

現場はそのことへの不満はあるでしょうが、不満を言えば、能力がないとみなされるため、我慢し、頑張ることを受け入れざるを得ません。その結果、現場は疲弊し、士気も下がり、益々戦略が実行されなくなるという負のスパイラルに陥っていきます。

負け組企業の典型ですが、こうなると、経営トップも従業員も、他のステークホルダーも、誰も喜ばない状況が生まれます。

また、戦略が総花的になっていることも原因の一つとして考えられます。戦略があらゆることを要求している場合です。リソースが限られているにも関わらず、あれも大事、これも大事と考えてしまい、焦点の絞り込みができずに広範囲に投資してしまうのです。この場合は、全てが中途半端なので、ほぼ確実にどの戦略も実行されずに失敗に終わります。

戦略では、何をするかだけでなく、何をしないかを決めることも大事なのです。

このようなマネジメントになるのは、サラリーマン経営者の多くが、制約のある中で、現場で結果を出してきた業務能力の非常に高い人、いわゆる仕事のできる人が多いためだと思われます。自分の経験に基づいて現場の頑張りに頼ろうとします。つまり、経営トップが自分の経験以上のマネジメントを学んでいないところに問題があるのです。

それは、言い換えれば、「過去の成功体験」に浸っているということでもあります。これを「成功の罠」といいます。

では、どうすればいいのかということですが、まず、戦略が総花的になっている場合は、経営の基本である「選択と集中」という言葉を思い起こす必要があります。

リソースを分散してしまうとそれぞれの戦略に必要な「組織能力」も構築できません。身の程を知るということが大事になります。

「組織能力」の点については、一言で言えば、チャンドラーの「組織は戦略に従う」、アンゾフの「戦略は組織に従う」を実践することだと思います。

組織には、「経路依存性」があります。今の組織は、これまでの仕事、これまでのやり方に最適化されているものであるために、その組織慣行やプロセスのまま新しいこと(戦略)を始めようとしてもさまざまな軋轢が生じます。結果、新しい取り組み(戦略)は組織に受け入れられず、実行されないことになります。

ここでいう「組織」とは、組織構造や組織文化を含みますが、概念的に言えば、

「仕事のやり方」であり、「仕事に対する姿勢」

のことです。

新しい「戦略」を立案したら、その実行のためにその「戦略」に合った「仕事のやり方・姿勢」に変えていかなければなりません。その上で新しい「組織能力」を獲得していくのです。

ここでいう「組織能力」とは、

組織内の人のつながり方・機能の組み合わせによって生まれる、組織の実行力

のことです。

この「仕事のやり方・姿勢」を変え、新しい「組織能力」を獲得していくためには、経営トップの「意思」と「マネジメント」が必要になります。

これに関しては、トップダウンからの働きかけが原則となります。その上で、その働きかけに対するミドルマネジメントのフォロワーシップ(ボトムアップ)を獲得し、お互いの相乗効果を発揮していく必要があります。

これはいわゆる「組織変革」ということでもあります。口で言うほど簡単ではないですが、それを成し遂げれば、戦略を実行できる10%企業の仲間入りをすることできます。

多くの企業ができていないことだからこそ、やれば大きな差がつけられるのです。

参考文献:
「両利きの組織をつくる」加藤雅則他著(英治出版)
「戦略実行」マーク・モーガン他著(東洋経済新報社)


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