見出し画像

ケルトンがやって来たヤァ!ヤァ!ヤァ!  ステファニー・ケルトン講演会潜入記

というわけでMMTの代表的な指導者の一人であるステファニー・ケルトンの講演会に行ってきた。

画像1

twitterで呟いて、それを後でtogetterでまとめようかと思ったが、あまりに長くなってしまうので、この場を借りて当日のメモを復元しながら後付でルポタージュしていこうと思う。『』内はメモに記した当日のケルトンの発言であり、そこに補足説明とか個人的な感想を加えたものである。飽くまでこれは個人の備忘録であり、聴き違いや事実誤認があるかもしれないが、その点はご了承頂きたい。

Lesson① What is MMT?

『MMTは実は新しくなく、いくつかの経済学の要素の組み合わせである』
『ワシントン・ポストの図式はちょっと違うかな』
『MMTにはそこに流れ込む何人かの経済学者がいるが、とくに重要なのは、アバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキー、ワイン・ゴドリーだ』

画像2

(Dylan Matthews, Graphic by Marianne Seregi/The Washington Post February 17, 2012より。 源流の一人であるゴドリーが居ないし、なによりも立役者の一人であるビル・ミッチェルがいない!)

画像3

(左からアバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキー、ワイン・ゴドリー)


Taxies drive money (租税貨幣論)

『貨幣の源泉は国家によって位置づけられる。税金によって「国民の貨幣化」が図られた』

ここでケルトンが例に挙げてたのが、イギリス植民地下のアフリカである。
ケルトンによれば、イギリス政府は、植民地のアフリカ人に「貨幣」を押し付けて、それを「税金」として回収することで貨幣が回ったとする。これについては、チャーネバ「独占マネー:価格設定者としての国家」が最良の入門になっていると思う。そういえば高木久史『通貨の日本史』にも江戸幕府がアイヌ人に寛永通宝を納税手段として「押し付ける」ことで寛永通宝を蝦夷地で流通させようとした話があった。こちらは失敗したようだが、これについては調査を今後行いたい。

『アバ・ラーナーの見解は非常に重要である。ラーナーは「貨幣とは国家の創造物である」と言った』

ここでクルーグマンをおちょくる画像が画面に出されてて笑ってしまった。(スクリーンの写真はモズラーの本を持ってるクルーグマン)

画像4

(I Learned that Here!私はこれで学びました!)

『大学の時にクルーグマン&オズフェルト「国際経済学」を使って学んだが、クルーグマンはカレンシーレジームの重要さを認識していなかった。彼はモズラーの本を読んでようやく理解できた』

ここでケルトンがちょっとドヤ顔なのがなんか可笑しかった。ケルトンは「自分たちMMTerたちが誰よりも金融オペレーションについて理解している」と自負しているとか。

政府支出、政府赤字、クラウディング・アウト

『政府支出をしようとした政府は中央銀行に指示を出す。中央銀行は政府のエージェントであり、中央銀行が決済を行う。ドルは何処から来るのか? 例えばNY連銀のキーボードから発生する。支出と課税は数字の上げ下げという意味でしかない。政府の支払いは常に生産される。デトロイト市、家計、企業は破綻する可能性があるが、貨幣の発行体たる国家は「破綻」しない。MMTは「限られた資金を巡って競争が起きるので、貨幣の発行者である政府の赤字がクラウディングアウトを起こす」という事は誤っていると主張する。なぜならば、政府支出(政府赤字)はどこかの銀行の数字を増やし、政府赤字は銀行の信用を増やすからである。その結果、準備預金が増えて金利(アメリカではフェデラル・ファンド金利、日本では無担保コールレート(オーバーナイト物)を下げるからである』

つまり『クラウディングアウト理論は正しいはずがない

ここでふと前方を見たら、見慣れた人物が。山形浩生氏だった。何やら高速でスマホを弄っている。どうやらtwitterで実況をしてたようだ。(ここを参照) それにしても山形氏、スマホを弄りすぎであった。

貨幣ヒエラルキー

ミンスキーの名言『誰でもマネーを作れるが、それを誰もが受け取ってくれるとは限らない

『国家が貨幣の計算単位を決定する。その貨幣が税金の支払手段として使われる。このような貨幣をソブリンマネー(sovereign money)と呼ぶ』
※Sovereign: 主権者、元首、君主、国王という意味を指す。

『ソブリンマネーが様々な貨幣によって構成されるピラミッド(貨幣ヒエラルキー)の頂上を支配する権利を持つ』(画面に貨幣ヒエラルキーの図)

ブレトンウッズ体制(1944年~1971年)では、世界の貨幣ヒエラルキーは頂点に金が位置し、次にドル、その下にその他の貨幣がひしめき合っていた。所謂、金ドル本位制である。ブレトンウッズ体制はドル以外の貨幣がドルに、ドルが金に固定されている固定相場制の時代だった。

モズラーの彗眼
『1998年のモズラーの本で早くもユーロ危機が予言されていた』

Lesson② 機能的財政論、SFCモデル、そしてJGP

機能的財政論 (Functional finance)

アバ・ラーナーが提唱した。完全雇用と物価安定を目標とした財政論である。以下はケルトンが語ったラーナーの教えである。

『政府は、予算目標ではなく完全雇用と整合性のある財政を目指すべきだ』
『完全雇用はFRBの責任ではなく、連邦政府の責任である』
『連邦の予算は定額ではなく、変動すべきである』
『増税の目的は、予算獲得ではなく支出する力を経済から除去するためだ』
『債券を売る目的は、金利目標をサポートするためである』

1940年代に上記の事をアバ・ラーナーは理解していたとケルトンは述べていた。やはりラーナーは恐るべき慧眼の持ち主だったというべきか。ラーナーはやはり凄い!完全雇用について補足しておこう。1946年にアメリカで雇用法が制定された。この法案において、「雇用・生産・購買力を促進するための」あらゆる実行的手段を行使する際の連邦政府の法的義務を明確化した。ここではFRBの立場は政府のサポート役であったが、1977年の連邦準備改革法により、FRBに雇用の最大化と物価の安定という義務が課せられた。いわゆる「デュアル・マンデート」の制定である。私見によれば、金融政策による経済のファイン・チューニングを前提とする、マネタリスト全盛期の1977年に制定された連邦準備法により、雇用の義務化が連邦政府からFRBに「丸投げ」され、これは「雇用の義務化」において大きな後退であったと考えている。フレデリック・ミシュキン元FRB理事は「最大限の雇用」に対する目標を定めることは「誤っている可能性がある」と述べているようで、これには同意である。

Secter Balance AnalusisとSFC(ストック=フローコンシャスネンス)モデル

ゴドリーが主に提唱したモデルである。海外要因を除いた、政府と民間の資金循環を見ると政府赤字と民間黒字はいつでも噛み合っている。つまり、「政府の赤字=民間黒字」である。当時、クリントン政権下でFRB副議長と経済諮問委員会委員長を務めたイエレン&ブラインダーは、「良い政策&悪い政策」の中で財政黒字化は「偶然」だと断りを入れつつ、喜んでいたのは確かである。日米問わずに多くの経済学者も同じ認識を持っていた。しかし、ゴドリーはこれに警告を発していた。なぜならば、

政府の黒字は民間の赤字化の結果であるからだ

クリントン政権下の財政黒字は民間の債務増加を促し、それが後の世界金融危機につながったとする。この辺の認識はミアン&サフィ「ハウス・オブ・デット」に似た話ではある。もちろん、ゴドリーはこの事実を数十年前に気づいてたわけだけれども。

ジョブ・ギャランティ・プログラム(JGP)

政府は職を必要とする人には誰にでも雇用保証ができる。財源はキースロットで数字を入力するだけである。政府は『最後の雇い手』(Employer of last resort:ELR)としての機能を持つ。今、アメリカでは連邦最低賃金を7ドルから15ドルに引き上げることが議論されている。


JGP (job guarantee program) とは、『最後の雇い手』である政府が職を必要とする人々に誰にでも職を提供する制度だ。不況時には最低限保障の賃金固定でその雇用量を増やせばいい。財源? 繰り返しになるが、政府は
キースロットで打ち込むだけ。JGP賃金が社会全体の賃金の「底」となり、フロアーを形成する。好況時には民間の賃金が上がることでJGPから人材が自然と民間に流れていく。つまり、JGPは労働の「プール」として機能する。

画像5

(いらすと屋を使ったポンチ絵)

質疑応答の前にケルトンから会場に向けて一つ問いかけがあった。

インフレがなぜ起こるのかちゃんと理論化できる人はこの会場に居ますか?

挙手者なし。twitterで「MMTにはインフレ理論がない」と下々の者に教授されている「数学に自信ニキ」の某天才数量政策学者なら回答できたかもしれないが、会場に不在だったのが誠に誠に残念である。ケルトンによれば、インフレは企業のマークアップが要因であり、コストプッシュがほとんどが原因であるとしている。インフレ圧力に利上げや増税で対応しようとしてもあまりうまくいかないと語っていた。

質疑応答

講演後に、飯田泰之、井上智洋、松尾匡先生といったニュー・ケインジアン経済学者からの質疑応答。松尾匡先生は世間では数理マルクス主義者として有名だが、ここではニュー・ケインジアン左派を自称していたのが印象的だった。三人の質問はどうもケルトンとあまり噛み合っておらず、悲しいすれ違いに終わったというのが正直な感想である。以下、箇条書きで回答に付属したケルトンの見解を書いていこう。

金利について

『中央銀行が金利を調節して景気を動かすことは不安定である。MMTは政策金利の引き下げが本当に民間の借入を促すかどうか断定はできない
自然利子率なんてものはそもそも存在しない
マネーサプライの定義は難しい

金利調節を「パブロフの犬」に例えてたのが面白かった。80年代アメリカの例を挙げて、例え利子率が高くても不動産屋はビルを建てまくっており、大いに不動産業は賑わっていたとの事。「金利調節は、ベルを鳴らして犬が涎を垂らすような条件反射のようなものではない」と語っていた。マネーサプライの定義の難しさは翁邦雄氏も「ポストマネタリズムの金融政策」の中で語っており、内生的貨幣供給論者は似たような結論に至るなと一人で納得していた。

ベーシック・インカム(BI) vs ジョブ・ギャランティー・プログラム (JGP)

井上先生絡みの質問。意外だったのがケルトン本人は必ずしもBIには全面的に反対はしないと語っていた。BIを常日頃から罵倒しているビル・ミッチェル先生とは少し姿勢が違うようだ。ただBIについては問題点が2つあり、賛同者ではないのは確かである。問題点として、

1.インフレになりやすい。2. 不平等を拡大させる

ことを挙げていた。株や不動産を持っている富裕層と日々の生活に困る貧困層に三万ドルを与えるとすると、貧困層は消費に回すが、富裕層は消費に回さずに投資に回してしまう。結果として富裕層はますます富むことになり、不平等が拡大してしまうことが問題だとしていた。

JGPについて。JGPの運用は各自治体に任せる、地域ごとにJGP Bankを設立して各地域ごとに必要な仕事を溜め込んでおいて、地域社会で使うのが最善だと語っていた。

スタグフレーションに対する対応

「MMTは1970年代に起こったようなコストプッシュインフレについて政府はどう対応すれぼ良いと考えているのか?」という会場に居たsorata31氏からの質問。ケルトンは「良い質問です」と褒めていた。自分もこれは質疑応答で一番鋭い質問だったと思う。これに対するケルトンの回答がとても面白かった! 80年代のアメリカのスタグフレーション鎮圧に関して、通説では当時FRB議長だったポール・ボルガーによって強引な利上げによって鎮圧されたとするが、その通説には疑問が残るようだ。ケルトンが言うには、ボルガーの裏に当時の大統領だったジミー・カーターによる天然ガスの規制緩和があり、それが石油カルテルの瓦解につながったとする。歴史ヲタとしては、この話を興奮して聴いてた。これについては後で色々と調べようと思う。昨日、こんな資料を見つけたので参考にして欲しい。

キャロル・スターン『米国におけるエネルギー政策の歴史 ―ニクソンからカーターまで―』

以上が講演会のルポである。講演後に懇親会が行われてケルトン本人も参加。自分は友人の知り合いと松尾匡先生と今日の感想を語りあっていた。ケルトン本人はネットMMT四天王の二人と色々と語りあっていたようだ。それはまた別のお話。

ステファニー・ケルトンのレセプションQ&A / JGPに関する議論

画像6

講演会を完走した感想として、藤井聡氏や中野剛志氏のような京都レジリエンス派の「富国強兵」型MMTとは相当距離があるなといったところである。「MMTで日本大復活で米中に対抗していく!」といった「富国強兵」型MMTではなく、もっと弱々しく経済変動に対して受身的ではあるなと感じられた。失業問題についてはどの経済学派よりも真剣に考えており、プロレタリアートにはとても優しい。血なまぐさい革命を望まなくても社会変革はできるなといったメッセージを個人的には受け取った。

画像7

(懇親会後に某東欧酒場での二次会で書いた寄せ書き)

ケルトン本人は多忙だったが、最後に日本旅行を満喫したようでなによりだ。来日する機会があったらまた聴きに行ってみたいものである。(了)








この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

32
経済・経済学関係がメイン。あと書評とか。