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短編小説

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TAGOが執筆した小説作品。ホラー、SF、恋愛、青春、ヒューマンドラマ、紀行文などいろいろ。完全無料。(113作品 ※2022/10/1時点) ※発表する作品は全てフィクションで… もっと読む
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#物語

『黒い羽の鳥』(短編小説)

気がつくと、宙を舞っていた。 「わっしょい、わっしょい」と胴上げをする連中の掛け声には、男だけでなく女も混ざっている。無数の手の平が、私の全身を投げ上げて、受け止めて、また投げ上げる。 胴上げの一行は間違いなく少しずつ移動している。体が高く上がった瞬間、進行方向の先に水平線が見えた。群青色の海が日の光にきらきら輝いている。彼らが一歩一歩向かっている先が断崖絶壁であることに気づくまでに時間はかからなかった。嫌な予感しかしない。 両手両足をバタバ

とうとうバレた。「noteで変な小説書いてますよね? 」と後輩から言われてしまった。

「私ね、実は知ってるんですよー」 「何の話? 」 「先輩、noteで変な小説を書いてたりしますよね? 」 「えっ・・・・・・」 彼女のその口調は、まるでこちらのすべてを見透かしているようだった。 そう。ぼくは、noteで小説を書いている。この一年でかなりの数の作品を投稿した。これまで、たくさんのスキとコメントをもらった。でも、それはインターネット上の話であって、知り合いの誰にもそのことは話していない。 いい歳した男が、ヘンテコな小説を書いている。それが

『キミとボクの間にある途方もない距離』(超短編小説)

窓から見える校庭は、銀杏の黄色で埋め尽くされていた。 季節が変わっても、授業の退屈さは一年中変わらない。そんな気怠さにつつまれて授業を受けていると、突然、誰かの強い視線を感じた。 教科書から目をはずし、教室内を見渡してみると、窓際に座る花沢さんがボクのことをじっと見つめていた。 「あ・・」 一瞬目が合ってから、花沢さんは照れ顔ですぐに目をそらした。ボクはなんだかすごくドキドキした。 花沢さんは単なるクラスメイトだ。当然、普段からお互いを

『通り雨』(短編小説)

「また雨か。ああ、最悪や」 明日の天気予報を見た風花はそう呟いた。気象予報士のお姉さんは、雨予報の時は暗い顔で話し、雨のち晴れ予報の時は無表情に話し、晴れ予報の時は明るい顔で話す。風花は、雨が大嫌いだったから、暗い表情で話すお姉さんも大嫌いだった。 「なあ、おかん。新しい傘買って」 「え、あの傘まだ使えるやろ? 」 「あの傘、無地の紺で地味やし。傘の内側が青空になってるやつあるやん? 私あれほしいねん」 「そんな変わった傘、いったいどこに売ってんの? 」 「ほら、

『私の愛おしい宇宙人』(短編小説)

私の彼氏は、宇宙人だ。 こんなことを言うと、たいていの人が一瞬固まる。この子は不思議ちゃんに違いないという目をする。でも、本当の話。宇宙人なのだ。 その証拠に、彼氏はいつもテカテカ光るシルバーの服を来ている。謎のペンダントを首からぶら下げている。大きなサングラスみたいな眼鏡を必ずかけている。本人はいつもこう言う。宇宙人なのだから、それっぽいファッションをするのは当然だ、と。 彼の見た目は三十代の日本人男性だ。しかし、ある時から心が宇宙人になった。

『迷宮』(超短編小説)

「お金ってさ、ないよりあったほうがいいじゃない? 」 すぐ後ろの席から、胡散くさい会話が聞こえてくる。 「不労所得って聞いたことある? うん。あっ知ってるよね、うんうん。ね? そうだよね」 男は慣れた口調でハキハキ喋っている。おとなしそうな若者Aと、人の良さそうな若者Bが、黙って話を聞いている。もはや、会話ではなく、一方的な演説だ。 男はなかなか通る声の持ち主で、聞きたくなくても耳に侵入してくる。耳障りだったため、僕はそのカフェを出ようかと思ったが

『いいことを言いたい男』(超短編小説)

「なんだか、いいことを言いたい気分だなあ」 突然、ケンが何か言い出した。 「なにそれ」 「ほら、今の俺たち、むちゃくちゃハッピーじゃない? この雄大な大自然の中で、木々のざわめきと川のせせらぎをBGMにして、最高に贅沢な時間じゃない? 俺、いつもはソロキャンプだからさー、いいこと言いたくても独り言になっちゃうんだよ」 晩秋のキャンプ場は、夜になってかなり冷えこんでいた。吐く息も白くなる。湯気の立ったぽかぽかのコーヒーを口に運んでから僕は言った。 「マジやめて

『真夜中のおとん』(100文字ドラマ)

アパートで暮らす冴えない独身男35歳。深夜に突然インターホンがなる。ドアの覗き穴から外を見ると、ウェディングドレス姿の親父が立っていた。「何も言うな・・お前が言いたいことはわかる」「お、おやじ・・・」 #100文字ドラマ #物語 #ストーリー

『言の蟲』(短編小説)

彼は私をぐっと引き寄せ、強引に唇を奪った。 「えっ、急に何を・・」 突然のことに頭が真っ白になった。でもそこには強く拒まない自分が確かにいた。嫌ならば、はっきりと拒否して彼の肩を押し返せばいい。でも、できなかった。抵抗しようとする素振りも見せていても、心は強く彼を求めていた。彼の荒い鼻息が私の首元を熱くする。次第に全身の力が抜けていく。 許されない恋とわかっている。ずっと気持ちを押し殺してきた。自分に嘘をつき続けてきた。 「ま・・待って」 図

『渋谷』(超短編小説)

一向に人の列が途切れない長いエスカレーターを降りると、目の前には、渋谷のカオスが広がっていて、今にも私を吸い込もうとしていた。 私はたまに、突拍子もない世界を想像してしまうことがある。 もし大きな隕石が、渋谷のど真ん中に落下したらどうなるだろうか。このスクランブル交差点を行き交う人間も、あの犬の像も、ギャルの聖地も、全てが塵のように粉々になるだろうか。再開発で日々進化するこの街に巨大クレーターができるだろうか。トランプ大統領がツイッターで「お悔やみ申し上

『漂流』(短編小説)

私は「文庫本」である。 背中には値札シールの剥がし跡が残っている。そう、私はブックオンの百円コーナーで売られていた「ロマンチな接吻」というベタなタイトルの小説である。そんな私は今、なぜかチベットのポタラ宮にいる。なぜ、ブックオンの百円コーナーにいた私がチベットにいるのか。これから始まる話は、私がこの地に辿り着くまでの壮大な物語を記したものだ。 * 私は新宿の大型書店で初めて日の目に晒された。初版ではなく中途半端な第3版として「話題作コーナー」に平積みに

5ヶ月間で80本の短編小説を書いた私が、この2ヶ月で3本しか書いていない話。

ここのところ、小説を書いていない。 「書けない」というよりは、「書きたいという気持ちになれない」といった方がしっくりくる。前にも記事で触れたけれど、一度書かなくなると、なかなか新しい一行目が踏み出せない。 80本の短編小説を書いた約5ヶ月間。あの密度の濃い日々は、明らかに“脳の体質”が変わっていた。一文字目の動き出しが早かったし、夢中になって書いていると気がつけば3,000文字を超えていたりした。 今は、脳の運動不足のような状態。やっぱり筋肉と一緒で定期的に鍛えないと徐

『葬られた遊び』(短編小説)

アパートの前の通りで、十歳くらいの少年たちが何やら変わった遊びをしている。ビニール傘を天に掲げながら地面から勢いよくジャンプして空中で数回転。着地の時にポーズを決める。回転数と着地のかっこよさを競う遊びをしていた。 気になった僕は少年たちに声をかけた。 「ねえ、それなんていう遊びなの?」 「・・・つむじかぜ遊び」 「へえ。なんで傘を持っているの?」 「傘があると空中に浮きやすいんだよ」 「そうなんだ」 「次は兄ちゃんの番なんだ。ほら見ててっ!」 どうや

『境界』(超短編小説)

長い参道に沿って露店の明かりが延々と続いている。 ミヤコは父に連れられて、年に一度の稲荷神社の夏祭りに来ていた。参道の先が全く見えないくらい、人でごった返している。浴衣を着た同級生の女の子、恋人同士のお兄さんとお姉さん、団扇を持って歩く大人たち・・・。 父の手をしっかり握り、人ごみを縫うように歩いていく。自分より背の高い大人と大人の狭い隙間を抜けていくのは、人間の木でできた森を探検しているみたいだった。たまに父の手が離れそうになるが、そのたびに指先に力を