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短編小説

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TAGOが執筆した小説作品。ホラー、SF、恋愛、青春、ヒューマンドラマ、紀行文などいろいろ。完全無料。(113作品 ※2022/10/1時点) ※発表する作品は全てフィクションで… もっと読む
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2019年8月の記事一覧

『タピオカと魔法使い』(超短編小説)

「そうだ、タピオカだ。タピオカの映え写真しかない」 タイムラインにリア充自慢と意識高い系の投稿が延々と並んでいるSNSを眺めながら、私は思いついた。 来週ついに三十歳になる。年齢と彼女いない歴が同じ数字のまま、大台にのるのだけは避けたかった。ネットの伝説によると、このままいけば、あと一週間で“魔法使い”に変身するらしい。 生誕三十周年をダーマ神殿で迎えるのは嫌すぎる。(ダーマ神殿とは有名な転職の聖地である)私は私のままでいたい。魔法使いになんてなりたく

『鳥かご』(超短編小説/ホラー)

春彦が、おもちゃよりゲームより大事にしているもの。いつも肌身離さず持っている一番の宝もの。それは、鳥の図鑑だ。 分厚い一冊は、鳥の絵と写真で埋め尽くされている。赤、緑、青、黄、黒、白・・・色とりどりの鳥たちを眺めているだけでいい気分になって、空を飛べるような気がした。 春彦は学校の誰よりも鳥に詳しかった。知らない鳥なんてほぼなかった。中でも特に好きな鳥はケツァールだ。世界一美しい鳥と言われていて、コスタリカという国にいる。小学校の文集では、将来の夢の欄に

『境界』(超短編小説)

長い参道に沿って露店の明かりが延々と続いている。 ミヤコは父に連れられて、年に一度の稲荷神社の夏祭りに来ていた。参道の先が全く見えないくらい、人でごった返している。浴衣を着た同級生の女の子、恋人同士のお兄さんとお姉さん、団扇を持って歩く大人たち・・・。 父の手をしっかり握り、人ごみを縫うように歩いていく。自分より背の高い大人と大人の狭い隙間を抜けていくのは、人間の木でできた森を探検しているみたいだった。たまに父の手が離れそうになるが、そのたびに指先に力を

『第三の説』(超短編小説/550字)

「空が回っているんだぞ」 「違う。地面が回っているんだよ。僕たちは丸い地面の上にいるんだ」 「嘘つくなよ!コッペ君」 「プット君こそデタラメだろう」 プットとコッペは、朝から、天動説と地動説で言い争っていた。それを見つけたロズウェ先生は、二人に向かって言い放った。 「はははっ、プットもコッペも間違っているぞ」 「えっ?」 「先生までデタラメ言わないでよ」 「本当だ。お前たちが話しているのは、宇宙図鑑13718巻の第211章に載っている太陽系にある地球というチッポケな

自選短編集(3)

短編小説を書くときは一日でまるごと書き上げるスタイルです。最近は、このやり方に色々な意味で限界のようなものを感じ始めています。文章や物語の精度に自信が持てないまま投稿するのではなく、推敲・ブラッシュアップを重ねた作品を週に一度くらいのペースで投稿する方がいい気がしてきました。只今どうするべきか検討中です。 さて、これまで75編の短編を書きました。ホラー系、不思議(異世界)系、感動系、恋愛系、ほのぼの系、童話系など、様々な方向性に挑戦しました。中にはギャグテイストの物語も含ま

『遭遇』(超短編小説)

旅客機は深夜のシベリア上空を飛んでいた。 窓を隔てた向こう側はマイナス40℃の世界だ。窓際に座っているせいか、外の冷気が肩のあたりに伝わってくる。地上にかすかに明かりが見えるが、都会のそれとは違って数えるほどだった。 昨夜パリを発ち、東京まであと六時間。ほとんどの乗客が寝息を立てている中、私の目は冴えるばかりだった。やることも特になく、窓の外の闇をじっと眺めていた。 ふと気づく。はるか空の果てに何かが飛んでいる。その飛行物体は青白い光を放っている

『蟹の城』(超短編小説)

黄色の大きな蟹が砂浜を歩いていた。 その時、私は知った。蟹には赤以外の色がいることを。蟹は足跡を残して波打ち際をゆっくりと横切っていく。そうだ、私は昔、蟹になりたかったんだ。 蟹は椰子の木の根元にある巣穴に入っていった。近づいていくと、十歳の私が好奇心にあふれた眼差しで穴の中をのぞいていた。 二十歳の私は、十歳の私に声をかけた。 「ねえ?」 「ん、誰?」 「きっと未来のキミさ」 そう答えると、驚いた表情で「そんなはずはない」と取り乱し、

『くまのポッチョ』(超短編小説/ホラー)

会議が始まってから4時間を過ぎようとしていた。 意見や内容をまとめるべき立場の人間は、一向にまとめようとせず、さらなる可能性を追求する。 「なるほどね。いや、ちょっと待てよ。そういう意味ではこういう考え方もあるな。となると・・・」 会議中の課長はイキイキしている。そして会議は毎回のように長い。一番ひどい時は、30分で終わりそうな議題であっても6時間かかった。課長に悪気がないのはわかっているが、メンバーたちは辟易としていた。これまでに長い会議の成果が出た

『花火と同調圧力』(超短編小説/850字)

一気に複数の火の玉が空に上がっていく。爆音とともに、空いっぱいに赤と青と緑の花が咲いた。 「すごーい!」 「おおっ!すげーっ」 「ふーん」 「すっげーっ!」 「わあ!」 大学の読書サークルのメンバーたちが空を見上げながら感嘆の声をあげる。間髪入れずに、次の花火の上がって、ニコちゃんマークが夜空に描かれた。逆さだったけれど、かたちがはっきり見えた。 「おおっ!スマイルだー」 「かわいーっ」 「すごーい」 「ふーん」 「ニコちゃんマーク!!」 休むことも

『枕元のどろろん』(超短編小説/950字)

「それはそれは暑い夏の夜のことでした・・・・」 時計は夜9時をまわろうとしていた。6才の健人は布団の上で母の肩にひっついていた。人一倍恐がりなのに、お化けや妖怪のお話が大好きだったから、今日もまたちょっと怖い絵本を読んでもらっていたのだ。 絵本の表紙には不気味な赤鬼が描いてあった。 「河童、化け猫、唐傘お化けなど数え切れないくらいほどの妖怪たちが参道を行進していました・・・」 お話をじっと聞いていると、母の声に、変な声が混ざり始めているのに気づいた。