2020 J2リーグ第24節 ツエーゲン金沢 VS ヴァンフォーレ甲府 レビュー 「一度きりのチャンスとたった一度のミス」
今節からアウェーサポーターの入場が可能となり、また日常に一歩近づいたスタジアム。後は応援する「声」を出せるのを待つのみですが、声援は出せなくとも野次は聞こえてきます。言いたい気持ちは分からんでもないです。しかし僕に言わせれば、ただの犬の遠吠え。クラブや選手に迷惑がかかるだけ。言いたい事があるならレビュワーになる事をおすすめします。
スタメン
金沢の変更は1点。作田→廣井。三試合連続で山根永遠くんがベンチスタート。ベンチが埋まっている事も日常化して安堵ですね。ちなみに6人しかベンチ入りしていなかった頃に作ったTシャツは税込み2200円で絶賛販売中です(笑)
そして甲府の変更は今津・小柳以外は総とっかえというターンオーバー。えーっとウチがもしそれやろうと思ったら出来たっけ?と有り得ない事をちらっと考えてしまったのでありましたが、よっぽど強い完成度の高いチームならそれだけのターンオーバーはやっても良いと思ったのですが、良くなってきつつあるチームがそういう事をやってくるのが金沢戦。なめてもらっちゃ困るよ(なめてないんだろうけどね)。
中銀で行った前回対戦のメンバーは4人しかいません。「うちにはバホスが居なかった」というセリフが懐かしい。
試合開始、面白いぞ甲府の放棄プレイ
最近は、前半の特に水分補給前まではペースを握られる事の多い金沢。しかしこの試合に関しては前半はほぼ、甲府ペースでした。甲府は守備時は5-4-1の守備ブロックを敷き、人とボールの入り込む隙間を塞ぎます。
守備ブロックの間でボールを受ける、いわゆる「間受け」の上手い選手が前線にいない金沢にはかなり効果的な守備でした。裏への抜け出しを図る加藤陸次樹くんが何度かオフサイドの網にかかっていました。
そして甲府の攻撃は、ほぼ最終ラインから始まります。中盤でボールを奪ったとしても、ほとんどを最終ラインに戻していました。これは思うに守備→攻撃の間の局面のポジティブトランジションを放棄したやり方と表現してもいいかと思います。
要するに甲府としては守備→攻撃の間の局面でスピードを上げて途中でボールを獲られる事は避けたい。だったら、自分達の攻撃をCBから始めれば高い位置でボールを奪われる確率は少ないと考えるわけです。これは別に相手が金沢で無くても効果はあります。
甲府はWB・IH・FWがポジションレスに出入りしています。もしポジショナルプレーに基づいて動いているならポジショニングの3つの条件を満たした動きをしようとするはずです。(ただ僕もこれがポジショナルプレーだ!と断言出来ないのですが、とにかく優位性を保つ事だという事ですかね(-_-;))
完成に近いものなら、金沢ほど「お得意様」になるチームもいないでしょう。極端ですが例を挙げてみます。もし、金沢がゾーンディフェンスで守ったら
なぜ守備ブロックの前にスペースがあるか。それは甲府の両WBがタッチライン際まで開いている(幅を取っている)からです。金沢のSHが迂闊にWBを捕まえにいくと、金沢のCHとの間が空きすぎて進入を許してしまいます。
この時、重要なのは全員が前に動いたりしない事です。必ず前に行く選手がいたら戻る動きをする選手もいる。そうする事で混乱を生じさせます。ゾーンディフェンスであっても、ある程度相手についていかないと簡単にパスを入れられてしまうので守備陣形は崩れます。
戻る動きをする選手は同時に、ボールホルダーの逃げ道にもなります。ですから無理してボールを前進させる必要はありません。
それを繰り返し相手の守備陣形を崩していくのが甲府のサッカーです。
では金沢のマンツーマンに対してはどうだったでしょう。これも極端な例ですが
前半しばらくして、マークにつく相手が定まった金沢。確かに自分のマーカーについていく事で、完全に崩されたわけではありませんでしたが、ゲームは支配されていました。
甲府のミス誘発を狙い、激しくプレスに行きます。
ここでも出たり入ったりという動きが加わりますが、マンツーマンで動いている金沢は、相手が動かないと自分達も動けません。予測して動く事も可能ですがかなりリスキーです。結局甲府の動きについて行った結果、今までいたスペースは空き、別の甲府の選手が入ってきます。
もちろんここで危険だと感じたらCBに戻しても構いません。それは味方の身体の向き、立ち位置、特徴などにもよりますが、上の場合ポストプレーが得意なラファエルさんが、自分の方向に敵を背にして寄ってきたとしたら迷わずパスを出しても良いでしょう。そして白い矢印のようにパスを出して前を向いてパスを受けられるようにします。
その間も動いている訳ですから、空いたところに入り込む事が出来ればチャンスが生まれるという具合です。
ただ、なかなか優位性を保ちながら相手を動かし、ゴールを奪うというのは難しい事です。動きが被ったり、パスの精度が低いとボールを失うからです。まだ未完成だからボール支配率もそれほど高くない(別に支配率が高ければ良いわけでも無いですが)のだと思いますし、それほど高い位置でボールを奪われなければ、失点もそれほど多くはならないという事だと思っています。
しかし、甲府の失点シーンはここぞとばかりのカウンターで甲府が金沢陣内へ入り込みます。ですがパスミスでボールを失いました。要するに今まで守備→攻撃の局面のポジティブトランジションを放棄していたのをチャンスと見て利用し、まずいボールの失い方をしました。下は36分00秒の図です。
金沢のCKからのクロスをはじき返し、甲府がカウンターで金沢陣内へ入ってきます。太田くんから山田くんへのパスが合わず金沢のSB長谷川くんに渡ります。そして長谷川くんがパスを出した36分07秒
今までの甲府は、攻撃の局面で山田くんがリスクマネジメントを請け負う役割をしていたため、大きく崩れる事はありませんでしたが、今回だけはカウンターで前へ出ていました。そういった時に誰かが気が付いて山田くんの代わりに後ろに残っていれば良かったのですが、だれも気が付かなかったようです。それを陸次樹くんは見逃さずパスを貰いにいきました。そしてスルーパス→頼盛くんのゴールとなります。
金沢1-0甲府
さて、失点後からの甲府はビルドアップの仕方が変わります。
真ん中のCBだった新井くんが一列上がり4-1-2-3のような形へ。しかもボールが金沢のディフェンシブサードにある時はハイプレスでボールを奪いに行きます。ミドルサードにボールがきたら変わらず5-4-1でセット。
結局前半は金沢はシュートが1本しか打てていませんでした。甲府は最後のパスの精度の低さや、シュートが入らないだけで試合の主導権は握っていただけに、正直やり方を変える必要を感じませんでした。敵ながら何故殴り合いをしにくるのか不思議でした。殴り合いになるならこっちにも十分勝機があります。
金沢1-0甲府で後半開始
甲府は後半頭から太田→ドゥドゥ。長谷川くんにとってドゥドゥさんは約1年半前にマッチアップして退場させられた因縁の相手。今の甲府がポジションレスとはいえ、自分のところに来たら負けない気持ちでいたでしょう。一応、今まで太田くんのいた右IHの位置に中山くんが、中山くんがいた左IHの位置にドゥドゥさんが入りました。個人技もある、パスやフィニッシュの精度も高いドゥドゥさんの投入。それはある事を意味していました。
そして甲府は早い時間で同点に追いつきます。後半開始して左から右へと2度、サイドを替えて攻撃してきていました。そしてまたもう一度同じ事をしてくると思った瞬間、小柳くんの無回転ドロップシュートが金沢GK白井くんの手前で落ちました。
杉浦恭平くんの寄せが遅かったと言ってしまえばそれまでですが、小柳くんのシュートを褒めべきでしょうね。白井くんの動きを見れば最後までボールを目で追っているのがわかります。そして手前で急にボールを見失った事も。
金沢1-1甲府
この後も完全にとはなりませんでしたが甲府ペースで試合は進みます。スピートを生かして左サイドをえぐるドゥドゥさんは、高さとポストプレーに長けたラファエルさんを使い金沢ゴールへと迫ってきます。しかし、完全にとならなかった訳は、前半とは違い守備→攻撃の間の局面のポジティブトランジションを受け入れざるを得なかった事でした。
前半とは違い、後半の甲府は後ろにパスを出す本数が目に見えて減少しました。それはドゥドゥさんを生かす為に、金沢のディフェンスが下がってしまう前に、後ろのスペースを使いたいという意図があったのだと思います。浮き球のパスも増えました。
ただ、そこでボールをロストすると攻撃→守備の間の局面であるネガティブトランジションが待っている事を意味します。
金沢が前節より10分早く、切り札を投入したのはここが好機だと思ったのだと思います。
金沢 60分 ルカオ・山根・金子 IN 加藤・杉浦恭・島津 OUT
そしてそのすぐ4分後に窪田→高安と交代し、いつもの前線4枚替えが完了。
甲府も69分にラファエル→松田、荒木→泉澤と交代。ドゥドゥさんが1トップで右WBに松田くん、左WBに須貝くん、左IHに泉澤くん(右IH中山くん)という並びになり、簡単な交代カードは決して切らない伊藤監督。
69分24秒、追加点への予行練習
69分24秒、甲府右WBに入った松田くんからドゥドゥさんへの浮き球のパスを廣井くんが弾き返しました。多分、裏抜けするタイミングが合わなかったのでしょう。そのボールが金沢左SB渡邊くんへ。今度は渡邊くんから浮き球のパスがルカオさんへと出ます。ルカオさんはヘディングで自分を追い越していった山根永遠くんへ。このボールは甲府の今津くんがタッチラインの外へとクリアしました。この一連のプレーは金沢の追加点のプレーととても良く似ています。
低い位置(最終ライン付近)からボールをFWへと出す事。2トップの片方がもう片方を追い越す事。たぶん、普段から練習していると思います。これが身を結んだのが73分36秒からのプレーです。
しかも、この直前に1トップに入ったドゥドゥさんへなかなか良いボールが入らず苛立っている様子が見られます。少し2列目との距離が離れてしまった感のあった甲府。ドゥドゥさんのパスミスで金沢がスローインを得ました。
いつの間にか前へ
①で低い位置からFWにロングスローでボールが出ます。
②でルカオさんが反転し永遠くんを追い越します。
③永遠くんが右足のアウトサイドで自分の後ろを横切るであろうルカオさんにパスを出します。
金沢のFWが二人とも相手を背負っていたのに、いつのまにやらパスが通り置き去りに。最後はGK岡西くんの股を抜くシュート。しっかりキーパーを見てボールをコントロールして股抜きをしました。
金沢2-1甲府
元・金沢のメンデス、もしかして・・・
残り10分で金沢に15、16年に在籍したメンデスさんを1トップに置いた甲府。小柳くんの恩返し弾があったので、もしかしてと思いましたが、誰もが思った「パワープレー要員」という訳では無かった様子でした。何故なら試合終了直前に、CKからのヘディングをしたくらいしか高さを生かしていなかったからでした。
一度きりのチャンスと一度だけのミス
ラファエルさんを早くに下げ、ドゥドゥさんを1トップにした事でドゥドゥさんと他の選手との距離が拡がってしまいました。ですので、メンデスさんをラファエルさんの代わりに入れ、ドゥドゥさんをもう一度IHに戻したのだと思います。
最初のプラン通りにポジティブトランジションを放棄し、攻撃していれば試合に勝ったかもしれなかった甲府。勝因は前半に一度しか訪れなかったチャンスに得点した事と、失点した甲府がたった一度のミスからプランを変更したことにありました。
試合終了 金沢2-1甲府
ハイライト
次の5連戦に向けて
金沢は福岡に負けた試合から始まった五連戦を、結果的に2勝1敗2分で終える事に。長崎戦から愛媛戦まで勝ちが無かったのが痛かったですが、24節を終えて9位となりました。次の五連戦は町田・山口・磐田・千葉・岡山。そっくりそのまま前半戦の勝敗を重ね合わせると、分・勝・負・負・負となってしまいます。特に磐田と千葉には完敗、コロナ禍前の岡山でもほとんど良いところはありませんでした。次の五連戦は借りをすべて返して後半戦の台風の目になって欲しいです。
そして次の町田戦はわが「RED TAG」主催の観戦会があります。
約1年ぶりのKENTAさんとのダブル解説。今から楽しみです。大好きな町田ですが今回は金沢が勝たせてもらいますよ。しかし、試合はみんなで一緒に観ると、喜びも倍になるし悔しさも和らぐのです。多数のご参加是非お待ちしています!
ツエーゲン金沢応援集団「RED TAG」運営費用としてありがたく使わせていただきます