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2020J2リーグ第32節 ツエーゲン金沢 VS 水戸ホーリーホック レビュー「今そこにある危機」

非県民だと言われようが構わない。水戸が好きだ。ツエーゲンのホームタウンの人口の約3分の2の人口、しかも近隣に鹿島や柏という強豪がいる中で、それでもJ1昇格という分かり易い目標を掲げる水戸。その目標の為にクリアしなければいけない様々な数字もしっかりと設定し、今シーズンのスタートを切った。

シーズン前に比較した記事を書きましたのでお時間があればご覧ください↓↓↓

秋葉監督の初年度は順風満帆とはならなかった。31節を終えて14位。「昇格請負人」と自ら新体制発表会で語った秋葉さんの未来予想図はもっと上位だっただろう。昨季7位だった水戸からは多くの有望選手が移籍した。もちろん「補強は300点満点」と豪語したのは嘘ではないくらいのメンバーを獲ってきたが、志知・宮・白井・前・小川航・黒川・清水など水戸最強布陣で臨んだ昨季を超える事、昇格する事を軽く見ていた訳では無いだろう。

群馬での2年で成績不振。そして日本代表ナショナルコーチでの経験。自身に対する期待と不安が交差する中での、水戸での新たな船出だったに違いない秋葉監督。

結果はもちろん大事だが、一年目というエクスキューズが付くのなら水戸のサッカーは魅力的だという事が言えると思う。波に乗ってしまえば手が付けられないほどに勢いつく攻撃。しかし、そうかと思えば次の試合ではそれを忘れてしまったかのように沈黙するチーム。そこが金沢と似ているところかも知れない。

金沢は若いと言われているが、この32節のスタメンの平均年齢で言えば金沢26.1歳に対して水戸は24.3歳だ。数字以上のギラツキがこの日の水戸にはあった。そして金沢に欠けているものが改めて分かった試合でもあった。

前回対戦のレビューはコチラ↓↓↓

スタメン

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金沢のスタメンのポイントは前節右サイドは高安・窪田のコンビだったのが長谷川くんに替わっている事。北九州戦で長谷川くんと相性の良くなかった本塚くんは左で下川くんと2試合連続のコンビとなった。そして今節のFWは杉浦・ルカオの2トップ。だた、ここを単なるターンオーバーだと思っていては試合には勝てない

水戸のポイントは安東・平塚のボランチコンビ。琉球戦以来1か月半ぶりのコンビとなった。少し見ない間にかなり安定度の高いボランチに見えた平塚くん。実際この試合でもアタッキングサードでのプレー時間は多くは無かったが、そのパスの成功率が100%という驚異的数字を生んでいた。

さらにFWが中山くんでは無く深堀くん。今季三度目の先発の深堀くん。疲労骨折でチームを離れる時間が多かった深堀くん。その間に山口・中山の破壊力抜群の2トップが確立。名古屋に復帰する為にはゴールという結果が欲しい。

金沢の守備の問題点①

さて、前半は1-1で終わったわけだが、金沢にはマンツーマンというディフェンスを採用している関係上、対戦相手についていく為に優位な状況を作られてしまうというデメリットがあります。あまり最近、試合画面を使いたくないのですが、これは図で示すより説得力がありますので写真を使います。

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毎度毎度言っていますが、金沢のディフェンスは割と直線に並んでしまいます。そして円のスペースが空くという性質があります。1失点目はこの円のスペースに森くんがドリブルで進入してファールを貰い、山口くんのFKが直接ゴールネットを揺らしました。円のすぐ上に石尾くんがフリーで「残されている」のはそこから動けなくする為だと思われます。石尾くんがそこにいないとまさしくザルな守備になりますから。しかし石尾くんの前に誰かが入ってきて石尾くんが前に出てしまうと、その裏を狙われてしまうので石尾くんの前を誰かが埋めなければいけません。その連携がとれていないのです。

金沢の守備の問題点②

2失点目は北九州戦の3失点目と同じような構造でした。石尾くんがボールサイドに引っ張られ(釣り出されるとも言う)廣井くんと下川くんの間を中山くんが抜け出しゴールをかっさらいます。北九州戦では廣井くんとホドルフォさんの間をディサロさんが走り込んでいます。ボールサイドから遠いSB(サイドバック)がCB(センターバック)のフォローに入るようになっていますが、2人いても中山くんやディサロさんが間に入っていったら止められませんでした。廣井くんからは死角になっているし、ホドルフォさんや下川くんはついていっただけと言われても仕方ないようなポジショニングでした。要するに連携不足です。

ギラギラした外山

少し話は逸れますが僕はこの日、水戸側のSA席最前列で一眼レフを片手に見ていました。水戸から何かを学び取れる気がしていたからです。僕のすぐ目の前でベンチメンバーがアップを始めました。よほどの事が無いと出場出来ないGK松井くんや普段キャプテンマークを巻いているFW中山くんはリラックスした表情、4試合ぶりにベンチ入りしたピットブルさんは早く試合に出たくてうずうずしている様子、その他の4人は良い雰囲気ながらも淡々と試合に出る準備を整えているといった状態でした。

しかし、金沢のウォーミングアップと確実に違うところは、身体をほぐしながら自分ならこうするというイメージを持ってそれを試合を見て話しながら他のメンバーと共有しているという点でした。

特に外山くんから良く声が聞こえた気がしました。会話は良く聞き取れませんでしたが、「○○はいつも左から抜け出す」と言ったような会話。多分、後半に出場する事は分かっていたのでしょうから、自分が入ったらどうすればいいのかを考えていたのだと思います。

金沢のウォーミングアップも良く目にしますが、真面目に身体を動かしている選手が多い一方で、試合を充分に観ているかと言えばそうではありません。

そのギラギラした目でウォーミングアップしていた外山くんが一緒にアップしていた中山くんのゴールをアシストする。二人が前半に気が付いたCBとSBの間のスペースに目を付けた、と考えるのは不思議ではないと思います。

チームの自然な修正力

そして3失点目には水戸が後半に入って修正した事が表れていました。

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これは前半で退いた水戸の山口くんのヒートマップです。色の濃いエリアが山口くんのより多くいた場所になります。ちなみに次のヒートマップは深堀くんのものです。

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深堀くんは76分まで試合に出ていたので、山口くんと純粋に比較はできませんが、山口くんが左サイドに濃い色が目立っていたのに対して深堀くんは右サイドに濃い色が目立ちます

要するに前半は山口くんが左サイドで深堀くんが右サイド、と両サイドにスピードタイプを配置してサイドでの攻防に活路を見出そうとしていた水戸。その方向性は維持しつつ(左:外山・森 右:前嶋・山田)前線でボールを収める事が出来るFW中山くんを後半に投入。

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ゴールを決めた際のゴールエリア前のボールタッチ以外は、ほぼPAの前でボールを受けています。これが金沢の3失点目の要因となります。

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水戸右SB前嶋くんからボールを受けに来た水戸FW中山くんに廣井くんが釣り出されます。

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中山くんから水戸左SH森くんへパスが出ます。

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森くんと長谷川くんが対峙し1対1の勝負。この時、廣井くんはマーカーの中山くんがそばにいる為に戻りきれません。深堀くんには大橋くんが、山田くんには石尾くんがマークに付いていました。

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森くんが勝負を仕掛けた瞬間に、山田くんが深堀くんを追い越して前に出ます。もちろん石尾くんもついていきます。大橋くんが二人の動きとボールの行方を目で追う。その一瞬の隙に深堀くんは大橋くんの死角に

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森くんが長谷川くんを抜き切る前にシュートを打ちます。白井くんが早い反応で左へ弾きますが、そこには深堀くんが詰めていました。大橋くんが振り向いたら、もうすでに深堀くんがシュートを打つ時でした。

ここに金沢左SB渡邊くんが走り込んで深堀くんをケアしていない事も失点要員の一つです。

中山くんがボールを受けてサイドの上りを待つ。前半に見られなかった動きがプラスされた事で生まれた得点。水戸の秋葉監督の采配や控えの選手のモチベーションの高さがもたらした快勝と言えると思います。

 水戸の4点目に関しては山田康太くんが上手いというべきか、白井くんのポジショニングが悪かったというべきか。苦しい時間帯(後半30分以降の得点は総得点45得点中4得点)で得点出来ていない金沢。いかにそこを乗り越えるかも課題の一つ。

恭平・藤村ここにあり

攻撃のほうは杉浦恭平くん2ゴール、藤村くん2アシストという比較的金沢の中ではベテランの二人(他の選手が若すぎるのです)が気を吐いた。久しぶりのコーナーキックからの得点と、高い位置でボールを奪ってカウンターという金沢らしい形だったが、こういう形での得点がどんどん決まらないと上位浮上は難しい。

闇はもっと深い。思うより大きい力の差

守備面での連携も課題だが、攻撃面でのイメージの共有も大きな課題だ。例えば先発したルカオ・杉浦のコンビでは両サイドからのクロスは有効で、セカンドボールもシュートに繋げられていたが、山根・加藤になった試合時間残り28分でもクロスを供給。山根167㎝・加藤178㎝に対して住吉181㎝・ンドカ183㎝では分が悪すぎるし、クロスの精度もそこまで良いわけでも無く、二人の一番のチャンスだったのは90分30秒の長谷川くんからのロングカウンターだった(サムネの永遠くんのシュート)。

もっと言えば、水戸は後半、前半よりビルドアップを後方から繋ぐ事回数を意識的に減らしている。それは前半高い位置でボールを失いクロスを上げられていたからだと想像できる。

味方と相手の状況を見て戦い方を変えるそれが出来ているチームと出来ていないチームの差。ただ4失点したわけでは無い。そこにはしっかりとした力の差があった。

試合終了

ハイライト

感想

「次節の甲府戦を含めた180分を考えてマネジメントした」という秋葉監督。奥田くんは完全オフ。山口・中山も45分で抑えて、松崎くんも短時間で終える事が出来た。長崎・福岡に敗れてのアウエー2連戦の初戦を勝てた事は大きかったであろう水戸。

かたや6戦勝ち無しとなってしまった金沢。次節は20位の群馬をホームに迎える。前回0-5で快勝しているとはいえ、甲府・千葉などに勝利している事を考えると、決して簡単な相手ではない。残りあと10試合。金沢は何位で順位を終え、来年の勝負の年を迎えるのか。落としていい試合など一つも無い。

ちくしょう。


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