仮装ポチ袋(1)
2010年2月。その日、私は展示会に来ていた。
各社がこぞって選りすぐりの自社製品をPRしている、その様子を眺めながら歩いていた……すると、急にそのアイデアは降ってきたのだった。
いきなり思いついたアイデア
その頃は「tokka」というスタンプや封筒を中心とした雑貨のブランドを立ち上げて数年目で、「何か新商品のアイデアはないか」と常に頭の片隅で考えては書き留めていた。この日も展示会の会場で思いついたアイデアを急いでスケジュール帳に書き込んだ。これがそのメモだ。
スケッチの横には「ヒゲ、メガネ、ねじりはちまき、水引、仮面舞踏会、モザイク、のし」と書かれていた。具体的にどうするかはまだ未定だが、とにかく「中に入れたお札がなんらかの仕掛けで見えるポチ袋」を思いついたのだった。
一家団欒のお正月、子どもにとって最大のイベント「お年玉」。
これを盛り上げる、ユーモアあるポチ袋。紙幣の絵柄(人物)をデザインに生かした、金額がバレてるポチ袋。めっちゃおもしろい、最高のポチ袋ができる! そう確信した。
というわけで、仮装ポチ袋の開発はスタートしたのだった。
思いついたものの……。
思いついたところまではよかったが、仮装ポチ袋の開発は難航を極めた。
まず袋の形。
このポチ袋の要は、紙幣の顔を生かすことだった。
紙幣の顔に何らかの仕掛けを施すのだから、ポチ袋の中心に主役となる紙幣の顔がきちんとよく見えることが絶対条件だ。
ふつうポチ袋は長方形をしている。長方形の袋に紙幣を入れようとすると、四つ折りか三つ折りにしなければいけない。袋の中心にちょうど顔がくるように、顔の位置に注意しつつ紙幣を四つ折り・三つ折りにするなんて面倒なこと、みんなやってくれるわけない。
しかし、二つ折りならどうだ。
これなら誰でも、説明抜きでできる。
紙幣も二つ折りにしたらちょうど正方形の真ん中あたりに人物がくる。
そこで、ポチ袋の形は「二つ折りの紙幣を入れるのにちょうどいいサイズ」の正方形にした。できてしまえば単純なことだが、紙幣を何度も折って入れて顔の位置を試して、やっと決まったのだった。
ポチ袋の形が決まり、いよいよ具体的な図案を考える。
ポチ袋の素材は、中身が透けて見えるトレーシングペーパーのような紙を想定していた。
まずはお年玉は「縁起物」と考え、安直に「だるま」の絵をトレペに印刷してモックを作ってみたのだが、これがぜんぜんおもしろくなかった。だるまの顔と紙幣の偉人たちの真面目で精密な顔が全く合わないのだ。
次に試したヒゲメガネ。これもおもしろくない。
まず、紙幣がほとんど見えてしまうデザインはダメだと感じた。お金を封入する入れ物としての品格に欠けるし、見えすぎていると、いくらなんでも使いにくい。それに、イタズラ書きのようでお札の偉人たちへの畏敬が感じられず、茶化しているように見える。これは子どもにあげるものとしていただけない。
さらに当たり前だが、紙幣によって人物の目の位置が変わるので、同じ柄をすべての紙幣に使える仕様にするのは不可能だと分かった。それぞれの紙幣専用に、3種類の図案を考える必要がある。
ということは、もっと自由に! 紙幣ごとの人物を生かしたポチ袋に仕立てることができる!
そこで、例のメモ書きにもあった「仮面舞踏会」の登場である。
よし! 偉人をそれぞれ素敵に仮装させよう。
テーマは「仮装」に決定した。
このとき、真面目そうで清楚な一葉さんが一番の変貌を遂げるとは、まだ想像もしていなかったのだった。
次回につづく
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