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セカンド・ヴァージン

老いた女を前に、男は「脱がしてあげる」という
「そんなこと・・・っ」
女は内心ぎょっとするが、悟られないよう俯いた
「遠慮しなくてもいいのに」

「遠慮、なんか」

しているわけがない!…思いながらも女は、それでも結局従った
せっかく楽しそうにしている男の機嫌をそぐのもどうかと思われたし、
抗うことが、今さらな気がしたからだ

男は丁寧に服を脱がせ、
ついでのように女の身体のラインを確認しながら掌を回した
女にはそれが苦痛だった
なぜなら、もう触れられなくなって久しい自分の肌が、
埃まみれの置物のように感じていたからだ

のちにベッドの中で、男のなぞった掌が、
あれは「自分が口をつけるところを確認していた」のかと思わせるほどに、男はくまなく女の身体に唇を這わせた

集中できない・・・・!

女の頭の中は冷静だった
冷静ではない川に身を投じたはずなのに、溺れるどころか泳げない

ここまでついてきたことに後悔はなかった
それをすることが自分の為であったし、望んだのは自分だ
なのに、楽しめないとは…

焦がれてやまなかった男の肌が、
触れられたいと思っていた女の自分が、
思いのほか白く頼りない腕の、
静電気を避けるようなたどたどしい流れの、

心もとない動きに気が散る・・・・

男はこれで満足だろうか、男はこれが満足なのか、
満たされることなく放り出される、いつまでも捨てられない女の心


下腹部の傷みだけが正直だった

もはや夢だったのかもしれないと思いかけた帰り道、
電車に揺られ、久しぶりに忘れていた鈍痛だけが現実を知らせる

子宮が泣いている

いたぶられたわけでも、なじられたわけでもないのに
むしろ優しく、腫物でも触るかのような情事のなごり

女は「果たしたのだ」と思った
これまでのひそかな願いを果たしたと…
「叶えた」といえないところが虚しさを誘う
これがしたかったのだろうか、これが欲しかったものだろうか

ただ抱かれたかったわけではないのか
純粋に、ただただ求め、慈しんでほしかった
だれも愛さない肌を、潤したかったわけではないのか
自分でさえ愛せない肌を、もう一度女として愛されたかった

それだけだと思っていたのに満たされない
そのことがどれほどのことだというのか
女とは、こうも無力か

愛されない女もかわいいだろうか
満たされない女も愛しいだろうか
幸せな女と同じに見えるだろうか

本音はもっと狂いたかった
自分を失うほどに溺れたかった
激しくかき乱されるほどに、自分を壊したかった

気持ちがついていかないものとは思いもよらなかった
愛がなくとも感じられるものだと思っていた

老いた女は枯れてしまった自分の女の細胞を憐れむ
乾いた心はますます色あせ、遠い記憶に感覚をゆだね…
終わってしまったのだろうか、自分を価値のないもののように遠く見つめる

老いたとて女、死ぬまで女
いっそ、違うものになれればいいのに・・・・
女を脱いだ、違うものになれればいいのに・・・・


まだまだ未熟者ですが、夢に向かって邁進します