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『黎明歌』/にのみやさをり写真集

にのみやさをりさんの写真集、『黎明歌』に、 やっと自分の手が届いた。

この写真集を見るには、 私にはあまりにも、惑いと 目の開かぬ どす黒さと、 日々 翻弄される 涙と、己が 精神に晴明な 両の足が なかったのだ。

まだだ。
まだ、『 黎明歌』はわたしには 遠すぎる。

黒い 表紙に 細い 1本の 白い線。
この決然とした装丁に、 ただ 白い文字で小さく、『 黎明歌』 と記された写真集は、 長いこと長いこと、 私の手の届かぬものだった。

実のところ、 随分前から 私は時間に翻弄され心身ともに ボロボロで、 あまたある もろもろに翻弄され尽くし、 今日がついに、 壊れた 限界であったのだった。

だからこそ、 光が欲しかった。
黎明の中に 細く光る、 刺すようでいて 大地と海を 割るような、 そんな光が欲しかったのだ。

写真集『 黎明歌』は、 3つの章に分かれていた。

第1章、 地平。 2002年。
第2章、 鎮魂景。 2005年。
第3章、 黎明歌。 2019年。

肉体を裂き、死を希求 しながらも、「 今」 という瞬間の 消えていく記憶に対し、 おずおずと挑むように、 時に 苛烈なまでに戦い、 たどり着いた 黎明には、 圧倒的なまでの「 存在の肯定」があった。

海と雲は 境目が ないほどに、 近く交わり。
高浪の中に、確固として、 彼女は交わり。

広やかな空も海も地も、 そして彼女も、 真っ白な 光の中に、 力強く。

交わり、 贖い、 時に同化し。
彼女は、 どの海よりも、 どの空よりも、 どの雲よりも、 どんな高浪よりも、 はっきりと 強く、 鮮烈に 生きていた。

それを見たとき、 何とも言えぬ感情がこみ上げてきた。

ああ、私は。
私は一体なにに怯えているのだ?

ああ、私は。
なぜ こんなにも 日々に 傷つくのだ?

なぜ私は。
こんな風に立ち向かえないのか?

なぜ私は。
逃げるのだ?

命を賭ける密度の違いに、 自分が不甲斐なくて泣いた。

時間は過ぎて行くのに。
私は老いて行くのに。
立ち止まる暇など、 欠片もないというのに。

彼女の、 戦い 尽くして 立ち得た場所は、「生」 それのみという、 数えきれない「たった今」の 恐ろしい速さであった。

しかして彼女は、その瞬間瞬間に、 一歩一歩、 確実に足跡を残していた。

たった今がはじまりなのだと、 「死」の漂う地平から何度でも何度でも、 彼女は 立ち上がり、 踏み出している。

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