仕分けバイトにいた孤高の新人
職場には色んな人がいる。同じスペースにおじいちゃんと若い女の子、おばさん、おじさん、お兄さんが同じ目的を持って力を合わせるという、とにかく体験できないコスモが広がっている。
私は物流が好きだ。多大なる人の力が必要なところ、人の力の素晴らしさがわかる場所、そこが物流の現場だ。
機械はどんなに頑張っても、多くの荷物の中から探し物をしたり、間違った物を見つけることはできない。人間はその点、気づくことができるしすぐに変更ができる。ミスを差っ引いても私は人間の方が機械より優れていると思えてならない。
早朝仕分けは1日の始まり。
私は『朝だからいいっしょ』と思い、マスクを言い訳に顔も洗わず上下のスウェットで初出勤した。どうせ汚れるし誰も見ていないだろうし、朝早すぎるしという理由で。
早朝仕分けには短期バイトさんという契約で、たった1か月ほど来られるたくさんの鼓笛隊がいる。
その鼓笛隊の中にいた『孤高の新人』。彼女は朝っぱらから異彩を放っていた。
まず、たくさんのピアスにド派手なカラーリングの髪、採用規格を外れているがおそらく人手不足の中、外見だけでは切れなかったのだろう。無事採用となったからこうしてここにいる。
彼女はまず初日から誰と話すでも、目を合わせるでもなくスマホを弄っている。朝5時台にだ。こんなに朝早く、どんな情報が更新されているのだろうか?メールもLINEも届くような時間ではない、まだ空には星が出ている。
もしかして、一刻を争うオークションにでも参加しているのか?デイトレーダーでもやっているのか?と思うくらい、不自然な行動だ。
もしかして、この人は新人じゃなくてベテラン?私は次にそれを睨んだ。私より余裕で仕事を知っているなら申し訳ありませんでした…そう思った。
仕事がスタートした時、やっぱりベテランなのか?と思った。悠然と一個ずつ荷物を所定の位置に運び、焦る素ぶりもない。まるで『能』を観ているかのようだ。
そして、誰かに仕事を聞いている様子もないし誰にも声をかけられていない。ドライバーさんに間違いを指摘された時も『はい』と言って、目を合わすこともなく荷物を受け取っていた。あぁ、やはり経験者だったか、と思った次の瞬間、私に向かって『これ、どこに置くんですか?』と聞いてきた。
新人やないかい、そう思った。
そう、私も新人なのだ。私は鼓笛隊よりも一週間早く入っただけで、全くの新人なのだ。私は職場への馴染み方がハンパないのだが、君とほぼ同期なのだよ、、と思いながら知っているから対処した。
であれば、朝礼の時のあの態度は何なのだ。
5時台にスマホを弄っているのは『私に話しかけてくれるな』という意思のあらわれか。あまりにもプライドが高すぎるではないか。仕事も知らないのに。
きっと、採用されたことで少し自尊心が満たされたに違いない。私はオファーされたのだと。だから何故だか朝っぱらから上から目線でいられるのだ。
その割に、ドン!と私にぶつかった時、謝った。
私はガタイがいいので当たった人が跳ね返るのだが、彼女は跳ね返りながらちゃんと謝っていた。一体どういう人なのだ?
私の中で勝手に『孤高の新人』と呼ばれている彼女。でも、よく考えたらバッチリメイクで身なりも私よりキチッとしているではないか。何時に起きたらその仕上がりなるのか。お尻に穴の開いたスウェットを着ている私の方がよっぽど意識低い系ではないか。
そう思うと、彼女は実は仕事に対して気合いが入っているともとれる。
それを隠そうとしてわざわざ気だるい、偉そうな態度をとってしまっているのかもしれない。20代前半の様相なので私とは世代が違う。確か、今の若い子は意外に真面目だと聞いたことがある。
仕事場でナメられたくない、自分を貫きたい、という思いと、早朝に体を動かすガテン系の内容とがミスマッチなだけかもしれない。
これだけ朝早く、大急ぎで終わらせなければいけない業務内容の場合、こういった『気取り』は何の意味も無さない。たった3時間という中で壁を作る方が面倒なのである。
一個ずつ、能のような動きで悠然と運ぶのももうやめい。ここでは数を捌いた方が優秀な人材なのだから。
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