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旧日立金属事件など/(中国)最高人民法院知財法廷5周年典型事例に

一昨日、2月22日付で、中国の最高人民法院で知財事件を専門に審理する知的財産権法廷から、「最高人民法院知的財産権法廷設立5周年100件の典型事例」が発表されました。

1.知的財産権法廷とは

知的財産権法廷は、2019年に設立され、これまで技術がらみの事件の第二審の審理を担当してきました。それにより、この5年間で、下級審も含めて全体的に、特許権侵害等の技術関連事件の審理水準が向上してきたという印象を私は受けています。
もっとも、設立当初は、特許権、実用新案権、営業秘密侵害訴訟の第2審は全て知財法廷で審理することとなっていたのですが、昨年、司法解釈の改正があり、審理対象が絞られることになりました。
具体的には、特許権侵害訴訟の第二審は、引き続き知財法廷で審理されるのですが、実用新案権や営業秘密侵害訴訟については、全部ではなく、一部の案件、つまり、重大で複雑な案件のみが審理対象となり、そうでない一般の実用新案権侵害訴訟などは、従前どおりに各地の高級人民法院が審理する、ということになりました。その背景には、案件数の増加(年度報告を見ると、実用新案権侵害訴訟が多いようです。)による審理負担と、上述のような、全国的な審理水準の底上げがあるのではないかと思っています。

最高人民法院からは、毎年春頃に、前年度の統計データや典型事例が発表されるのですが、設立5周年の今年は、これらに加えてさらに、
①「最高人民法院知的財産権法廷設立5周年 十大影響力事件
②「最高人民法院知的財産権法廷設立5周年 100件の典型事例」
が発表されました。

2.最高人民法院知的財産権法廷設立5周年 十大影響力事件

この5年間で15710件の技術系知的財産事件と独占禁止事件を審理した中での10件ですから、どのような事件が選ばれたのか、興味津々です(私は)。

ざっと見て目立ったのが、10件中4件が営業秘密侵害事件であること。
このうち、バニリン事件は、現在、改訂作業中の下記の「中国における営業秘密マニュアル

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/besshireiwa.pdf

でも取り上げましたので、公開されたらぜひご覧ください。
バニリン事件は、判決当時、最高額の1.59億元の賠償金が認められた事件として注目を集めましたが、その後、同じくこの十大影響力事件に選ばれた別の営業秘密侵害事件により、記録は塗り替えられました。
賠償額だけに着目されたり、また、今回の十大影響力事件の発表に当たっての最高人民法院のコメントだけを見てしまうと、訴訟で解決できるとの安易な誤解を持たれてしまわないか、私は心配です。
このバニリン事件もそうですが、事案自体がかなり特殊であることに加え、解決に10年以上も要していることに注意しなければなりません。やはり何よりも予防が肝心なのです。

その他、日本の中外製薬が敗訴した、初のパテントリンケージ事件も選定されています。この事件における禁反言の論点に関しては、以前、このブログでも少しお話しました。
それ以外の2件の特許権侵害事件については、私はノーマークだったので、判決を確認し、特に、機能的クレームが争点となった事件の方については、今年の知財協の講演などでお話しようと思います。

3.最高人民法院知的財産権法廷設立5周年 100件の典型事例

昨日発表された最高人民法院のコメントを読んで、まず目についたのが、旧日立金属の事件が選定されていたこと。
昨年、中国の著名な大学教授が、和解したようだとの話をしていたのを私は聞いたのですが、実際には、旧日立金属が二審で逆転勝訴したようで、そのアナウンスが同社から出ていました。

この件についての最高人民法院のコメントは、
「『レアアース永久磁石材料特許』に係る市場支配的地位の濫用事件において、特許権の行使と独占禁止の関係を適切に処理し、関連市場を科学的、合理的に画定することにより、原判決を破棄し、外国の権利者による特許ライセンスの拒絶は独占行為に当たらないと認定した。 良好な法治による商業環境を構築する。」
です。
争点には外国権利者か否かなどは直接関係ないのに、「外国権利者」の事件であることに触れた上での最後の一文・・・外資企業の引き止め、誘致強化の動きと重なるものを感じました。

その他、日本企業との関係でいえば、SEP(標準必須特許)のグローバルライセンス条件を、中国の裁判所は審理できると判断した、シャープv.OPPOの事件も選定されています。

特許、実用新案権侵害事件を中心に読み進め、適宜、秋の知財協の講演や何らかの形で、重要なものをお伝えしたいと思っています。

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