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短編小説 西瓜【BL】15年後の同窓会 その7
これまでの話は、こちらのマガジンにまとめてあります。
***
その日は、日曜日だった。
朝夕はわずかに過ごしやすくなったものの、日中はまだまだ厳しい日差しが照り付けている。
休日だが、唯志も憲司も、これといって予定はない。
エアコンの効いたリビングで昼からビールを飲みつつ、ぼんやりとテレビを見ていた。
「あー、昼間から飲めるって幸せやなぁ」
くいっと缶ビールをあおり、唯志はソファに深くもたれる。
「それは言えてるな」
憲司も冷蔵庫から缶ビールを取り出し、唯志の隣に座った。
「あー…めっちゃ気楽」
唯志は缶ビールをローテーブルに置くと、ごろりと上半身を横に倒し、ソファの肘掛けに頭を乗せた。
「おい。どうせ寝転ぶんやったら、こっちやろ」
憲司が、自分の膝をポンポンと叩く。
「やっぱりそうなる?」
照れたように微笑むと、唯志は体の向きを変え、その膝に頭を乗せた。
「こんなん、やったことなかったな…」
唯志が、しみじみとつぶやく。
「なんで?前の嫁さんとかに、やってもらったりせぇへんかったん?」
大きな手が、さらりとした黒髪をなでる。
「ないない。だいいち休みの昼にビールとか、ありえへんかったしな。休みにダラダラしてたら、『だらしない』て怒られたわ」
当時を思い出したのか、唯志の顔がわずかに歪む。
「そか。それはキツイな」
苦笑しながら、憲司は愛おしそうに小さな頭をなでた。
と、その時。
「ピンポーン」
インターホンが、来客を告げた。
「…何やねん、せっかく唯志とまったりしてるのに」
少々苛立ったように、憲司が立ち上がる。
玄関の引き戸を開けると、立っていたのは同級生の井上加奈子だった。
白いワンピースを身にまとい、手に大きなスイカを持っている。
「これ、おすそわけ」
にっこり笑うと、加奈子はスイカを差し出した。
「同窓会の時、約束したやん?今、うちの実家でスイカ育ててるから、できたら持っていくわ、て」
加奈子は、満面の笑みを浮かべる。
自分の美貌をよく理解しているのだろう。
ぱっと花が咲いたような微笑だが、どこかわざとらしい。
「そうやったっけ?」
憲司は首をひねる。
実のところ、そのような約束をした記憶が、ない。
あの時、憲司の頭の中には、唯志のことしかなかったからだ。
それでも、スイカをもらうだけもらって、すぐに帰すのは申し訳ない、と憲司は考えた。
「井上、ちょっと上がっていく?スイカ切るし」
憲司は心の中で舌打ちしながら、加奈子をリビングへと招き入れた。
「ま、どうぞ」
一人がけのソファを指す。
ワンピースの長い裾をひるがえし、加奈子は腰を下ろした。
その時。
加奈子の目が、ソファに寝転ぶ唯志の姿を見つけた。
「あれ!?岩下やん。なんでここにおるん?」
「ええと…井上、か。どないしたん?」
少々眠かったのだろう、唯志は目をこすりながらソファに座り直す。
「スイカができたら持ってくる、て北浜と約束してたからさ」
「ああ、そうなんや」
唯志は頭をかきながら、テーブルに置いてあった缶ビールを飲み干す。
「てかなんで、岩下がここにおるん」
加奈子は、憲司が一人暮らしをしていると思っていたのだろう。
目を丸くしながら、ソファでくつろぐ唯志の顔をまじまじと見つめた。
「今、一緒に暮らしてるねん」
答えたのは、憲司だった。
手に、麦茶が入ったグラスを持っている。
それを、どうぞ、と加奈子の前に置いた。
いただきます、と短く言って、加奈子は麦茶を口に運ぶ。
「一緒に暮らしてる?北浜と岩下が?また、なんで?」
不思議で仕方がない、とでも言いたそうだ。
「同窓会で久しぶりに会ってさ、唯志も一人暮らししてるって言うてたし。この家、じいちゃんから譲り受けたもんやから無駄に広いし」
憲司はそこまで言って、唯志の隣に腰を下ろした。
「それやったら、一緒に住めへんか、て俺が言うたねん。唯志やったら、気心も知れてるしな」
「そういや、あんたら昔から仲良かったなぁ」
きれいにアイラインの引かれた目が、ちらりと唯志を見る。
わずかに険が含まれているように見えるのは、気のせいか。
「おかげさんで、今は気楽にやってるよ」
そう言って、唯志は立ち上がる。
「ん?唯志どうしたん?」
「ビール、取ってくる」
冷蔵庫に向かおうとする唯志に、憲司が声をかける。
「それやったら、ちょっとスイカ切ってくれへん?俺、料理は嫌いとちゃうけど、包丁仕事は唯志のほうがうまいからさ」
唯志は一応、調理師の資格を持っている。
「わかった」
短く答えると、唯志はキッチンへと向かった。
***
すとん。
小気味のいい音が、まな板に響く。
スイカを切りながら、障子の向こうのリビングを振り返った。
加奈子は、楽しそうに憲司と談笑している。
大輪の花のような、笑顔で。
その姿に、唯志はわずかな苛立ちを覚えたが…
気のせいだと思うことにして、皿に乗せたスイカを手に、リビングへと戻った。
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