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模する

炎天下、今日も作業服を着て道端で棒振る。スーツの初老のサラリーマンが面倒そうに私にイチベツして通過していく。工事現場付近の住人らしき老婆は、訳のわからんことを言いながら絡んでくる。
時間の経過を祈りつつ、交通安全の定義について想いを巡らす。

そんなこんなで、日が暮れたら家に戻り、汗も流さず缶ビールにありつく。ツマミに先ずは枝豆を茹でて、晩酌をスタート。

ぷち、ぷちぷち。プチっ。プチ。

これを30分続けた。飽きた。
いやそれにしても腹が満たされない。

ミドリ色の物体を眺めると動物のような産毛がビッシリ。骸からはクリアパーツのような、スライムのような物体がニュルッとはみ出ている。こいつを食べて腹は膨れないと思った。

机の上に散乱している殻の隣には甲殻類の箸置きが転がっている。

「カラでカラカラ。おれの人生はカラマワリぃ」

突然、口を突いて人生数回目のラップがでてきたze。


カニを食べたい。とれとれピチピチなやつ。
コンビニに行ってみよう。足取りは軽い。

道中、ふと思った。
蒲鉾という練り物を好物として挙げる人は多くない。
白身魚を練って作った白いキャンバスが、様々な色を付けられたり、形に固められたりされている。食べ物で遊んではいけませんと教育をされたのは、全世界共通なはず。おれの目当てのカニカマは、タブーを冒してでも白身魚を練って着色して蟹に見せたかったエクストリーム中年の仕業なのだろう。

ちなみにチョコレート作りにはテンパリングというカッコいい技がある。あれはパフォーマンスではなく、安定した細かい粒子に結晶させて融点を同じにするために温度調整をしているらしい。手際とリズムが心地よい。
ちなみに私は仕事で毎日テンパリンぐです。

コンビニでお目当てのカニカマを購入し、家まで待ちきれずに歩きカニカマをかましてやった。
道ゆくサラリーマンにまたイチベツされる。

しかし、このカニカマってやつは珍奇な食べ物だ。
卵焼きやミルフィーユのような構造をしている。
だけど味は蒲鉾。カニなのか?いや白身魚。

模倣をしようとしていない模倣品なのか。

もし、この模倣品をすき焼きにしたらどうなのだろうか?焼いてみたらどうなのか??


模倣という叡智の結晶に夢を膨らませながら、アパートの外階段をカンカンとうるさく登った。

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