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英文査読付学術研究論文の基本形式

[Basic Research Framework] I know I am not the best person in the world to guide you on this topic but different people in Japan asked me the same question time after time, so I write about the basic structure of academic research, elaborated in Japanese. Thus, it is a bit long. If you are a researcher, please do not worry, you are not missing anything here. 

(注意:世界で研究者になりたいという方以外は読んでもつまらないです)この話題は、常にいろいろな所で別々に同じ質問を受けるので、簡単に説明します。理系の研究者は当然によくご存じな内容ですが、米国では日本で言う文系学部でも理系研究者と同じ形式で研究を英文査読付論文学術誌に投稿しなくてはなりません。


(1) 何故、英文査読付学術論文が重要か?

世界中の研究者は、共通の言語で世界中の研究成果を出し合い、少しずついろいろな方向に研究を進めています。日本では博士号無くても凄い研究者が居られますが、世界的には博士号がないと、以下に述べるような研究の共通枠組みや世界ルールを知らないのではと想定されてしまいます。インターネット普及でますます加速されましたが、英語が世界共通研究言語な事は間違いありません。英語母国語の人は世界で5億人強、世界人口は78億ですが、英語を勉強している人が15億居ます。故に20億人の共通言語です。日本語は127百万人の日本人と日本語勉強している人が海外に3百万人、故に英語利用者2000百万人対日本語利用者130百万人というのが現実。英語論文ならば15倍の人が読み、引用してくれる訳です。いや、現時点では世界中の研究者が母国が何であれ、英語査読論文勝負という土俵がどんどん膨れている状態です。日本でも理系の研究者は昔からよく理解されているはずです。日本語を理解してくれるのは世界人口の1.7%のみ。98.3%には直接届かないという現実が、日本で日本人と日本語話していると見えないし、98.3%が何を考え、何を研究しているのかも見えません。観光レジャー・ホスピタリテイ経営分野での国別世界ランキングを添付しておきます。

https://www.scimagojr.com/countryrank.php?category=1409


(2) 何故、先行研究を調査するのか?

日本の研究者と共同研究すると、先行研究ゼロでいきなり自分の研究の話になる論文を見かけます。「わたしの情熱的な考えを披露します!」「わたしの思うアイデアがあって、それを知り合いの人何人かに面談して、正しいことを証明します」という発想。これでは絶対に英文匿名査読者を通過しません。世界の知見は世界の皆が情報交換して少しずつ積み上げて現状になっているのです。万里の長城をレンガひとつずつ積み上げている感じ。同僚に「あそこ先行研究の隙間がありそうですが、私のレンガで埋めていいですか?」と聞いて、ダメだとかいいよとかの回答をもらってやっと一つのレンガ(=英文査読付論文)を積み上げることが許される世界です。

ところが企業やコンサルタントの報告書や小説や随筆のように、先行研究無視して、とにかく自分の作業をする、自分の発想をとにかく文章にしたい、という癖がついている人には、この先行研究調査は苦痛の様です。それでは今までに同様の研究がなされたかとか、そこはもう結果が複数検証されているというのが見えない、壮大な無駄になってしまうわけです。「英文学術論文」といわゆる「報告書」・「随筆」の最大の差と言え、国際的研究での必須のエチケットと言えます。


(3) 何故、データ収集・解析が必要なのか?「わたくしの経験ではこう思う」ではダメなのか? 「知識移転」と「知識創造」の違い?
英文学術論文は随筆ではありません。ダメです。自分の経験というのはあくまでその会社、その地域・国、その時期に標本数=1の経験を観察したという事ですね。それでは「対外的普遍性」が確保されていない訳です。業務経験豊富な方はモチベーショナルスピーカーとしては学者より優れています。間違いないです! 

但し、「対外的普遍性」external validity を確保するためには、きちんとしたデータを集めて統計的に有意な結果で仮説を検定する等、現時点では統計学を利用した分析手腕は必須です。理系では伝統的に当たり前の手法(医学や工学等)で社会科学の諸問題を解いていく事が人類の新たな知識構築への貢献である「知識創造」knowledge creationに繋がります。それは研究者が作った知識をいち早く他の人たちに紹介する引用行為である「知識移転」knowledge transfer とは異なります。先ほど言ったように日本語の知見は世界と比較すると小さいので、英語での知識を日本語に翻訳して移転する「知識移転」でも日本国内では生きていけますが、そのビジネスモデルでは大元の知識創造者を超えることはありません。ビジネスに関した「知識移転」を集中的にやるのがMBAだ (そこでは「知識創造」手法は教えない)と言うとわかりやすいでしょうか。


(4) 英文査読付論文形式
多少の差はありますが、基本は以下の通りです。この形式に沿わないと、英文査読付論文の査読通過はほぼ不可能と考えて頂いて結構です。
(I) Introduction
何故、この研究を行う価値があるのか、何故、同僚研究者はこの論文を読む価値があるのかを説明。
(II) Literature Review
先行研究の羅列と分析。それで先行研究の残した点を浮き彫りにして、当該研究の必要性を正当化する。
(III) Methodology and Data
どのようにデータを収集したのか、そこにバイアスはないのか、研究対象総体と標本を見て、標本はしっかりと全体を表出しているのかを説明。次にどのような統計手法を利用して何をどのように検証するのかを表明。
(IV) Analysis
統計解析結果の議論。仮説検定ならば、どの仮説が肯定、反駁したのかを詳細に説明。
(V) Discussion
上記分析からもっと詳細にこの研究全体に重要な、あるいは対外的普遍性を確保した新たな知識創造の可能性があるならばそれを議論
(VI) Conclusion, Limitations, Future Research
当該研究の要約、重要点再俯瞰、そして謙虚に当該研究の限界を告白。そして当該研究ではカバーしなかったが、将来の研究対象になりえる分野を特定して紹介。世界の同僚研究者にそれを推奨。
米国では(つまり世界では)修士号論文でもこの形式が強く推奨されますが、博士課程だとこれ以外は不可。また最近は修士号論文でも統計解析を入れて定量的な実証研究に導く指導が過半数だと思います。 欧州は米国ほど厳しくないので、修士レベルならば、情熱の随筆でも逃げ切れます。

日本人で世界で研究で勝負してみたいと思う皆様、世界人口1.7%の日本語世界から98.3%の世界で読まれて引用される英文査読付論文で勝負して頂きたく思います。最近は電子データベースで世界中の研究者の発表論文がさっと検索できるシステムが複数あります。 英文査読付論文で無いとそこに出てきません、という時代に既になっています。 世界の匿名査読者(=当該分野の専門研究者群、つまり同僚)から多くの批判を受け、改善を重ねてやっと数か月から3年程度の査読という試練を経て、やっと論文掲載してもらうという、禊に近い世界の研究者儀式、理系分野の方は全てご存じの内容ですが、いわゆる文系(社会科学)分野の方々からもっとガンガン「知識創造」の結果を世界に英文査読学術論文の形で発信して頂きたいと願っています。 それは日本の大学世界ランキング上昇やインバウンド留学生増加に着実に繋がると思います。

最後に、米国・世界を目指す、博士課程研究者及び若手研究者の方々へのアドバイス。米国学会では例え査読があったとしても学会発表の評価点は査読付英文学術論文掲載点よりはるかに低いです。1/4-1/10ぐらい。学会発表実績のみでは欧米でテニュアトラックの職を確保するのは困難です。厳しいし、ストレス溜まりますが、英文査読付学術論文を積み上げるという王道以外に道は無いです。Good luck!

大変恐縮でございます。拙文、宜しくご笑納頂ければ幸甚です。原 忠之(はらただゆき)