見出し画像

「おもてなし」文化と異文化経営:供給者側価値観とゲスト評価不一致のケース

当方は米国大学教員ですが、大多数が海外勤務や在住経験の無い米国人学生や外国人学生を日本に有給インターンシップで送付する事を既に7年間ほど行っています。受入先の宿泊施設や企業、或いは非営利団体の皆様のお陰で米国大学学生は外国で現地の上司に指示を受けて勤務するという貴重な経験を積ませて頂いています。さて、4年前になりますが、日本にある米国系最高級ホテルで6カ月の有給インターンから米国に帰国した学生がとても興味深い話を教えてくれました。

(1)成績優秀米国人女学生が日本にある米国系最高級ホテルに有給インターン勤務

画像1

日本が世界に誇る歴史的観光地に開業した米国系最高級ホテルに当学部の成績優秀女学生が有給インターンで6ヶ月勤務。そこで米国最高級ホテル運営のスタンダードに相応しい「おもてなし」所作を習得して米国に帰国し、何と米国中西部(コロラド州)にある同じ米国系最高級ホテルチェーンの山岳リゾート物件で3ヶ月勤務をするという貴重な機会を経験しました。当然、女学生は日本の米国系最高級ホテルで倣ったことを忠実に同じチェーンの米国のリゾートホテルでも実践しました。そこで米国人上司が数週間後に米国人女学生である彼女に言った事。

「貴方のサービス、おもてなし(hospitableness = hospitable attitudes) すべて当社の要求する内容を完璧に実現出来ていて、惚れ惚れするほど完璧。貴方が勤務した前の日本のホテル、本当に当ホテルチェーンのマニュアル通りの完璧な内容を実践している。ここまで的確に訓練されている若手スタッフは見たことが無いほどで、その日本のホテルの経営陣には深い敬意を感じる。 

でも、当リゾートホテルに来る米国人のお客さん達には、そこまでやると、堅苦しすぎに見えるから、もうちょっとリラックスして適当にやった方が、感じがいいと思うよ」と。日本で徹底的に米国系最高級ホテルチェーンのサービスを習得してきた背景のある米国人女学生本人は当然に、「え?!」 

同じ米国系最高級ホテルチェーンで同じマニュアルのサービスを同じ人間が提供しているのに、日本では完璧、米国ではやり過ぎという評価になってしまう。これが何を意味するのでしょうか? 

(2)地域的価値感・供給者側の価値観とゲストの要求の不一致=異文化経営の重要性

この外資系ホテルの例を離れて、一般的な議論をします。

日本で日本語で「おもてなし」を力説する方々は、日本人の感性で、日本人ならばこういう事を評価するだろうという想定をしている訳です。顧客が日本人ならばそれはそれで大きな問題ではないかもしれませんが、実は消費者、お金を払ってくれるゲストが評価すべきサービスを供給者(=ホテル従業員側)が勝手な自分の価値感、いや価値「勘」で押し売りしてしまう危険が今までも内在していた訳です。 
今後、2020年前半に一旦ゼロになってしまったインバウンド需要がいずれ復興することは間違いありませんが、では日本人の供給者側が思い込んでいる「これが情熱のおもてなし!」というサービス、それがゲスト、特にインバウンド=異文化の方々に評価されるのかは、きちんとゲストの意見を聞いて調査・確認すべき事項です。(科学的にデータ収集して統計解析実施すれば、尚良し。)

日本の製造物は、欧州、北米、アジア向け等、或いは国別に消費者の嗜好に合わせて輸出品の内容を微調整して来ています。今後、インバウンド獲得で輸出産業として観光業を活用する際には、輸出先(ゲストの出身地や文化)に合わせて微妙に内容を調整する、或いは控える、というワザを各従業員レベルで実施しなくてはなりません。 同じ内容のサービス、おもてなしを実施しても、受け手側が違う文化の方々には同じ評価は得られません。どちらも間違っておらず、どちらも正しいのです。つまり、同じ米国系最高級ホテルチェーンで同じマニュアルを使っていて、日本での徹底したサービスはそれで正しく、米国では敢えて緩くサービスを行うのでも、正しいのです。但し、自分の価値感・判断基準を異文化のゲストに押し付けるのは間違いな訳です。ゲストがどのような期待感を持っているのかを知り、自分の供給するサービスを微妙に変えられればベターという事でしょう。 
異文化経営の世界にようこそ!

(3)異文化経営への準備はどうするの?

これもよく聞かれます。実は準備はそう困難ではありません。普段から組織内のdiversity を高めておけば良いのです。ダイバーシテイというと「女性の昇進の事か」、という短絡的な反応をする人が日本には多いですが、性別だけでなく、「年齢、学歴、社会階層、人種、宗教、国籍、居住地、性的嗜好等」、いろいろな要因で、組織内に多様性を増やしておくことが最大の準備です。日本の多くの組織は基本的に「日本人中高年男性の価値勘と判断が組織全体の文化を牛耳る」というビジネスモデルで長年動いてきましたから、それを敢えて意図的に緩めるだけでも、感性を研ぎ澄ませば組織内からもいろいろな視野や価値観、発想が見えてきます。

あるホテルで顧客が半分女性ならば本来はホテル会社経営陣も半分女性であるべきですし、DMOが欧米客を招致したいならば、営業部長職に欧米人を据える事で、周囲や配下の日本人スタッフは「ああこういう発想なのね、この人たちは」という留学と同じような成果を体感できます。当学部生複数を受け入れて貰っている日本のホテル会社群やホスピタリティ産業企業は多様性に関しては、日本で最先端レベルにあることを実際にわたくしも体感しています。従業員離職率を下げ、インバウンド客の満足度とリピート率を上げるには、企業戦略、人事制度、組織文化をきっちりと多様性確保に向けないとなりません。

これはホテルだけでなく、これから立ち上がっていく予定の日本のDMO(観光地奨励組織)はまさにそうです。売る対象顧客の趣味嗜好が理解出来ずに、観光地が効果的に売れるわけないからです。

画像2


日本は今後は来日客数での評価でなく、輸出産業として外貨獲得=国富増大効果があるインバウンド客による年間国内観光消費総額を2019年の4.8兆円から今後8兆円、そして15兆円と増加させて、地方に回遊してもらって少子化高齢化人口減に苦しむ地方で観光消費をしてもらい、その経済効果で21世紀中番を乗り切るのだという量から質という正しい観光立国・国家戦略方向性が出ています。その実現のためには、異文化経営という、歴史的に日本企業・組織体には困難な課題を正面から取組むべき時期です。今回のケースはその課題の重要性をはっきり提示しています。

最後に、この女学生は、オーランドにある同じ米国系最高級ホテルチェーンの管理職になっています(笑)。

画像3

I had an intriguing discussion with a student who had worked at a US luxury hotel in Japan and later at the same hotel chain in USA. She was kind enough to share her real story when she worked at the same luxury chain hotel in a resort in the USA.
She was told that (1) her service and attitude are perfect to the hotel's required standards (thanks to excellent training in their property in Japan) and that (2) such attitude of perfection, however, creates an impression of "being too formal" thus relax a bit to meet the general tastes of guests at a mountainous resort property. She provided the same hospitableness and respect to guests, and yet they were perceived differently!
This is one of the best real cases of "hospitality management across the culture" where great hospitableness (hospitable attitudes) would be shaped by the perceptions of guests which are inherently different across cultures. Our students are learning something that textbooks and teachers are not as good at teaching as their own experiences outside of classrooms. Welcome to an issue of cross cultural management and I am so proud and pleased that future leaders of hospitality industry are learning from their precious experiences of working in foreign nations, in this case - Japan. We are extremely thankful for our hosts' generosity to provide these experiences to our students.

大変恐縮でございます。拙文、宜しくご笑納頂ければ幸甚です。原 忠之(はらただゆき)