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インバウンド訪日客の戦略的重要性、再確認

This short essay talks about a reminder of economic importance of welcoming inbound visitors to the nation and regional economy, particularly amid the stalled international visitors in 2020. 

最近機会を頂いて日本のテレビ番組にリモート出演し、国内外の観光消費需要が落込む2020年において観光復興需要を語るというテーマの議論に参加しました。そこで気づいたのが、自分が当たり前と思っていた事が、共通見解として必ずしも多くの人に共有されていないという点でした。故に今回は表題の件について述べます。出来る限り公共のデータを引用して自分の論点を展開します。

1.日本国家経済と観光業

これを読んで頂いている一部の方は観光関連産業に従事されているかもしれませんし、そうでない方も過去に観光客として旅に出た経験がある人が殆どだと思います。観光だけでなく、自宅から離れて出張したり、テーマパークに行ったり、スキーやビーチに行ったという方々も含めて、観光活動はほとんどの皆様が今までに消費者として関与しているはずです。

では、産業としての観光、あえて観光産業、観光関連産業と言わせて頂きますが、それは日本経済にとってどういう位置づけにあるのかを確認してみましょう。大きなイメージをつかむには全体像を見て、そこからズームインするのが有益です。まず日本の経済規模ですが、GDP(国内総生産)で言うと、約500兆円、これは現在世界約190か国中で、第三位の規模です。一位が米国約2100兆円、二位が中国約1300兆円で日本が第三位。

今度は日本国内経済構造を見ると、政府予算が約100兆円とGDPの20%ぐらいです。より詳しく言うならば Y = C + I + G + EX - IM (注:YがGDP、Cは消費額、Iは投資額、Gが上で見た政府支出額、  EXは輸出ですので、これで日本の国富が増える額、 IMは輸入で、これで日本の国富が減る額です) 。これによく書いてあります。

日本国内の観光消費額は2019年度で27.9兆円と、GDP比で5.4%と無視できない産業規模となっているのがわかります。実はこの辺のデータは無料でよいものが沢山見れるのです。(観光庁PDFの3ページ目参照)そのページだけ引用するとこの通りです。

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2.日本の輸出入規模と産業構造

日本には石油や天然ガスのような天然鉱物資源が無いため、皆様が夏は冷房、冬は暖房、そして通年で当たり前のように電気を消費して今現在のようにインターネットで記事を読むという生活を当たり前のように継続するには、それらを海外から輸入しなくてはなりません。通常は海外から物を輸入する際には、その対価として日本が持っている富の一部を切り崩して現金を支払わなくてはならない訳です。

そこで日本が何を輸入して国富を減らしているのか、また同時に何を輸出して国富を増やしているのかをさっと俯瞰してみましょう。

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右側の輸入側を見ると、まさに原油と天然ガス輸入が輸入品目のトップ2です。これが無いと皆様が当たり前に過ごしている生活スタイルが維持できない、貴重なエネルギー輸入です。これが8.9兆円と4.7兆円です。

左側の輸出側を見ると、一番外貨を稼ぎ、国富増大に貢献しているのが自動車産業で12.1兆円を獲得しています。但し、自動車産業に続く産業は第二位の半導体輸出が4.2兆円ですので、現在の日本は自動車産業依存の一本足打法のような構造になっています。米国に居住していると、実はテスラを始めとして、ポルシェも馬力と性能に振った新型電気自動車販売を開始しており、テスラが今までのパラダイムで超高性能車だったガソリン車(ポルシェ、フェラーリ、メルセデスベンツ、コルベット)を軒並みに加速性能で撃破するような性能比較特集が最近の米国メデイアによって組まれていますので、恐らく確実だが突然に訪れるであろう電気自動車時代への変革が起こった際に、日本はこの輸出産業自動車一本足打法で今後10-30年に起こる世界産業変革を乗り越えて、絶対必須な輸入額に見合った輸出額を確保しつづけられるのかという点が心配に見えるのです。

つまり今後21世紀中盤を見越して、自動車産業に次ぐ外貨獲得産業を育成しなくてはならない訳です。(参考ビデオ:電気自動車テスラが超高性能車を次々と加速性能で撃破。電気自動車時代の到来予告編のようです。https://www.youtube.com/watch?v=cv3zYzl0kMQ ) 

3.日本の輸出入構造と観光インバウンド産業の特異性

2020年夏季の現時点では、地元客・国内観光客需要の復興に皆様の関心があるのは当たり前です。国内客は日本国内観光消費の約8割を占め、その観点では、ゼロになってしまったインバウンド客需要を見て「ほらみたことか、インバウンドは外国語話さなくてはならない分面倒だし、そんなもの要らない」という論調の人が出てしまうのも理解は出来ます。

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「輸出産業としての外貨獲得・国富増大」

インバウンド客受入は輸出産業として外貨獲得・国富増大効果がある点が、日本人観光客受入と決定的に異なる点です。日本国内で日本人が旅行してもそれは国富が国内で移動しているだけで、国富は増えていないのですが、日本国内にインバウンド客を誘致すると、彼らが往訪して観光消費してくれた地域が経済的に潤うだけでなく、日本国の富が増えるという輸出産業としての経済効果がある点が、国内客向け観光客受入と決定的に異なる点です。

地方で旅館・ホテルを経営されている方からすると、例えば一泊1万円を消費してくれる客が来てくれたら、それが日本人だろうと外国人だろうと同じと感じられるでしょう。管理会計上は同じです。しかし、その地方、例えば東京や大阪から高知県、山形県、島根県に日本国内の富が移転したのと、世界から高知県、山形県、島根県と同時に日本国に富が移転した経済効果は国家レベルで見たら決定的な差がある訳です。

上の表で「旅行消費額の推移について」という表がありますが、2019年にはインバウンド客の日本国内観光消費額は4.8兆円ですね? 2011年には0.8兆円で日本国内観光消費総額の3.6%だったインバウンド客消費額は2019年には17.2%に成長し、絶対額で見ると静かに日本の輸出産業第二位の半導体輸出額の4.2兆円を既に超えているのです。オーストラリア、マレーシア、カタール等から輸入した液化天然ガス支払代金総額4.7兆円以上を、日本はインバウンド客受入で稼ぎ返したという状況です。「爆買いうざい、過剰観光うざい」と言っている(が、日本に無い原油・ガスで作られた冷房暖房電気を当たり前のように使っている)方々もいる中で、インバウンド客観光消費は2019年、静かに輸出産業第二位の地位が達成出来ている点、やはり大きな社会経済の枠組みや世界の中で、少子化高齢化の進行する日本はどうやって21世紀中盤に向かって国民生活の質を維持向上していくのかという視点で俯瞰する事が大切だと思います。

4.インバウンド客受入、今後の戦略と課題

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観光産業奨励の目的ですが、政府の場合は「地域住民の生活の質の維持または向上」のために観光産業を奨励する訳です。(日本ではこれがブレるのでややこしくなるようですが、それはまた別途議論します)

TV議論にて木村太郎さんが指摘されていた「インバウンド客の客数の議論はダメだ、量から質への転換が必要だ」という点、当方も司会の方に振って頂ければ大賛成と言いたいところでしたが、北朝鮮問題に振られてしまったので、ここで述べます。観光奨励の目的が「地域住民の生活の質の維持または向上」ならば、「インバウンド客数」は直接の関係が無く、「観光消費額」の方が直接に役立つ訳です。確かに量(インバウンド客数)を追及すると、過剰観光問題にも悪影響があります。では質を上げるとは「観光消費額を上げる」という事ですが、それはどうすれば実現出来るのでしょうか? これを考える事が、今後の日本インバウンド戦略形成に役立つわけです。

「如何に消費額を向上させるか? 自宅からの旅行距離と滞在日数・観光消費の相関関係」

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JNTOのデータを引用しますが、現在の日本は過半数のインバウンド客が近隣東アジア諸国出身者です。漢字文化圏の人達。東南アジアを加えるとほぼ8割が近隣アジア諸国民の観光消費に依存している状態なのが一目瞭然ですね。さて、世界の観光学術研究では、自宅から観光先までの距離と旅行の観光消費額に相関関係があることが確認されています。距離は滞在日数と正の相関関係があるので、結果として観光消費額が増える訳です。

日本在住の方ならば、韓国には2泊3日で行っても、米国の最果てフロリダ州を含む米国本土に旅行したら、2泊3日よりも長く滞在しますね。すると、今はあまり取れていない「欧米豪+その他」の訪日客をより多く誘致すれば、来日時滞在日数が長くなり、結果として日本での観光消費額が高くなるだろうという事が論理的に推測できます。

簡単に考えて見ると

観光消費額一人当たり15万円 X 31.8百万人 = 4.8兆円 (1)

観光消費額一人当たり20万円 X 40百万人 =  8.0兆円 (2)

観光消費額一人当たり25万円 X 60百万人 =  15.0兆円 (3)又は

観光消費額一人当たり30万円 X 50百万人 =  15.0兆円(3’)

です。これらが何を意味するのか?(1)は2019年の実績、(2)は達成困難になりましたが、2020年の政府目標、(3)はまだ実現出来る可能性十分ある2030年の政府目標、(3’)は同じ2030年目標の代替手法案。つまりこれから10年で現在の自動車産業を上回る外貨獲得産業として集中育成しておけば、万一自動車産業の国際競争力が低下した場合でも、プランBとして、21世紀の日本国家の輸出による外貨獲得の長期リリーフ役は出来るようになり、そこで稼いだ時間で21世紀の次の花形輸出産業を模索・育成するという国家戦略が形成できます。

5.地方創生政策とインバウンド奨励政策の関係

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現在、日本で深刻な高齢化少子化による人口減が進行しているのは地方です。人口減は地方自治体の税収減をも意味します。ではそのような日本の各地方で、外貨獲得出来る輸出産業が新規に育成できるでしょうか、という観点で考えると、インバウンド客受入による外貨獲得と経済創生が消去法で残るという場所が多いと思います。金利や為替予想は外れますが、人口予想はほぼ当たります。上記国土交通省作成資料を見て頂くと、日本地図はほぼ真っ青ですが、これは今後30年で人口が半減以下になる地域です。すなわち、インバウンド客に訪日して貰い、長く滞在して観光消費を青い地域の地方経済に落として、地方創生してもらうには、日本の各地方に深く回遊してもらう事が必要です。つまりインバウンド奨励政策と地方創生政策は親和性が高いのです。

但し、税収減が予想されるような地方自治体で箱物投資による長期負債負担は避けなければならない状況で、如何にインバウンド客を地方に回遊させるかというと、既存の観光資源である歴史・文化・遺産・社寺仏閣や固有のストーリーを英語で発信させることが必要であり、故に、現在日本政府はDMO(Destination Marketing Organization: 観光地奨励組織)の創成・育成を観光立国戦略の一環としての戦術案として奨励し、立ち上がり期の予算を付けている訳です。上記観点や戦略戦術を考えると、DMOはまさにインバウンド客の地方回遊の中心組織として地域経済の創成のための起爆剤としての役割を期待されていることが理解出来ます。

またその役割と期待を正確に理解すればするほど、英語での業務が必須であるDMOの業務内容は英語で勉強しておくべき問題だという事を理解できると思いますが、この話題も長くなるので別の機会にします。

6. 自組織利益・個人収入・地方創生と国富増大のベクトル一致 (追加分)

上記の記述で気が付かれた方も居られると思いますが、日本の地方、特に上記日本地図の青い部分にインバウンドを回遊させるための業務、これは大企業というよりも、野心や冒険心ある人達(老若男女全て、何ら年齢性別の差別や不利無し)が起業家精神で引っ張っているケースが多いかと思います。今後、東アジア以外のFIT(Free Independent Traveler) 中心に世界各国から訪問客を日本の奥深くに迎え入れてあげる場合、英語は最低限で必須となります。異文化理解が出来てある程度の英語理解出来る人材の必要度が日本全国で高まる訳です。同時に少子化による人口減少が進行している、、、これら連立方程式は何を意味するのでしょうか?

インバウンド層受入による地方創生国家戦略を推し進めていくと、少子化で供給側が先細る英語・異文化経営可能な人材への需要が地方で高まり、当然に需給関係に起因してそれら人材の価値が高まるーー>それら特性・専門性を持つ人材の年収に上昇圧力が発生する、という事です。これは日本社会の構造で、同能力でもより低い評価や年収だった女性人材、及び定年等で構造的に終身雇用システムから外れてしまった熟年人材、及び若手人材にとっては、このインバウンド分野は明るい機会があると思います。

DMOやDMC,或いは個人特殊ツアーや通訳を含む語学専門者等の個人事業者がこれほどまでに自己実現出来る産業セクターは今後10-30年見越しても他に余り無いという分野になると思います。そして画期的な事は地方にインバウンド客を回遊させる業務は自組織利益・個人収入・地方創生と国富増大国家戦略のベクトルが一致するという、珍しいビジネス機会になります。

富岡製糸場、八幡製鉄、長崎造船所、前述グランドホテル群、日本が外貨獲得に必死だった時代にそれら組織に努める方々は国家・地域・自分(と家族)のために勤務していたエリートですが、現在21世紀前半の日本にとっては、インバウンド観光客誘致はまさに同じで、社会的意義が高い、国家を支える業務な訳です。如何でしょうか、「インバウンドなんてほら見た事か!」「爆買いだ何だでうるさいのが居なくなって清々した」等の攘夷派の雑音を爽やかに聞き流す心意気になられましたでしょうか(笑)。

「最後に」

DMO問題は別途議論しますが、恐らく「え、インバウンド客の単価20万、30万?そんなの無理ですよ」という声が聞こえてきそうなので、元気が出そうなニュースで議論を締めます。

本文一部引用します。「経済効果を押し上げた海外からの観戦客は24万2000人で、欧州が54%を占め、オセアニア22%、アジア9%、北米7%と続いた。ラグビーW杯は試合間隔が長いため大会日程も44日間と長期にわたり、滞在日数は平均17日間、消費額は1人当たり68万6000円に上った。訪れた都道府県は平均4.8で、外国人観光客全体の平均2.5を上回り、国内を広範囲に移動したことがうかがわれる。 」

今はあまり取れていない「欧米豪+その他」の訪日客をより多く誘致すれば、来日時滞在日数が長くなり、結果として日本での観光消費額が高くなるという事、のイメージが湧きましたでしょうか? このセグメント(層)は漢字全く読めませんので、現在7割程度の漢字圏東アジア諸国民来日客のように、放っておいても、あまり受入側の自分達が英語出来なくても日本の文化・慣習・移動方法等、判ってくれるという甘えは通じません(笑)。

皆様には広く、1868年の明治維新後、明治政府が奨励したインバウンド政策を初心わするべからずという事で喚起します。日光金谷ホテルが出来たのは明治維新後5年の1873年、富士屋ホテル(箱根)が1878年、万平ホテル(軽井沢)が1894年、奈良ホテルが1909年です。外貨不足の環境下、外国から鉄道や各種機械、軍備等を輸入して近代化を図るために、とにかく外貨獲得しようと富岡製糸場が操業開始した1872年という同じ時代に外貨獲得を主眼とするホテルを建設した訳です。それらクラシックホテル群はすべて近代化産業遺産に指定されていますが、最大公約数はまさに輸出産業としてのインバウンド層向け観光だった訳です。

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いかがですか、当方は日本を海外から眺める生活が30年弱継続している米国博士観光学者ですが、日本は年間来訪インバウンド客数80百万人、年間観光消費額20兆円程度は行ける潜在力は充分あると感じています。中東勤務時に英連邦諸国のチームメイトとラグビーしていたので、欧米客は一度来日すればその滞在日数や消費パターンからして十分に地方創生経済効果を感じられるほどに日本各地に好影響を及ぼす事は確信しています。

インバウンド事業関連の方々、短期的には厳しいでしょうが、日本は米国ほどの打撃も受けていないので、より早く世界の観光客の復興需要が取れると思います。大丈夫です。迷わず、ブレずに、日本にとって戦略的に重要な輸出産業であるインバウンド関連事業を進めてください。米国や欧州では既に訪日へのPent-up Demand(行きたくて仕方ないという圧力)が着実に積みあがっています。現時点でそれら先行需要者層を対象にしっかりマーケテイングをしておくと国境再開放時にさっと戻ってきます。

終 bye for now! 






大変恐縮でございます。拙文、宜しくご笑納頂ければ幸甚です。原 忠之(はらただゆき)