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トドの産業医(1) 初めての懇親会

 産業医を取得したと同時に勢いあまって法人を作ってしまったトドの産業医が、将来本当に独立した産業医事務所に育ちあがるまでの道標を書いていきます。
 今回は初めて新規法人入会者として、懇親会に参加した感想を書いていきます。今後、法人を立ち上げて、同じように懇親会に参加する人に、少しでもお役に立てれば幸いです。


まず最初に結論!

・名刺はたくさん用意しておくこと
・自己紹介の準備をしておくこと
・産業医について簡単に説明できるようにしておくこと
・「産業医」が仕事であるとはっきりわかる社名の方が望ましいこと
・医師といえども新人営業!折れないこと!
・最後に産業医を探している人は必ずいる!

トドの産業医:懇親会に行く

歩いて10分の商工会に小規模企業共済の申請に行った。
その際商工会だから懇親会の一つでもあるやろうと思って聞いてみたが、
どうやらコロナのせいで商工会自体はあまり活発に動いていない様子。

「そうかあ…」

落ち込んでいる汗くさいトドを哀れに思ったのか
たまたま受付のお姉さんが
「私、法人会の運営側にも所属しているんですよ」と教えてくれた。
「実はもう締め切り過ぎているんですけど、すぐに入会してくださるなら10日後の新入会者懇親会に参加できますよ?」

『…まじすか!?』

早速入会申込書を記入し、速達で送付。
締め切りを思いっきり過ぎていたが無事当日を迎えた。
さて会場に40分早く着く。
どうやら懇親会の前に定例の報告会をしているらしい。
開いたドアから覗くと、高そうなスーツを着込んだおじ様たちが神妙そうな顔をして何かを読み上げていた。

自分は時々中を覗いては廊下に戻り
「初めまして、只野トドです。もともと精神科医で…」
と独語をしながら動物園の熊のように行ったり来たりしていた。
あ…今、中のおじさんと目があった…。

すっとそらしたぁ~!!

確かに190㎝のトドがドアの前をうろうろしていたらおかしいですよね。
すごすごと場所をうつしたところでふと気が付いた。
「名刺あったっけ?」
とりあえず鞄の名刺入れに20枚。
改めておじ様たちの人数を数えると…確実に40は超えている!?


どう考えても名刺足らないやん!?

懇親会開始まで後20分。
急いでタクシーを飛ばして、
自宅にある名刺入れをボックスごと鞄に突っ込んだ!
会場に到着するとすでに人混みが…。
なんとか記帳し参加者をみると60社ほど参加しているらしい。
家に取りに帰っていてよかった~。

【結論1】
 名刺は多めにもっていくこと。100枚はあった方が良い。

只野トド、自己紹介する

さて早速会場に入っていく。

新入生は青色のネームカードを渡されて、会社名と名前を書く。
他の方もそれぞれ会社名と氏名を書いているが…絶妙に見えない。
とりあえず端っこの椅子に荷物を置いて周りを見渡す。
自分のように居場所なさげな人もいるが、ほとんどはもう常連という感じ。
なんとなく西医体剣道部の懇親会に新入生で出席した時を思い出した。

ふっと入り口をみるとお姉さまがじっとこちらを見ていた。
これはチャンス…。
「私、トド産業保健事務所の只野トドと申します」
「あ、ありがとうございます。私実は保険の者でしてこの度新しい保険が…」
「あ、保険は間に合っておりますぅ~」
(後でわかったが、こういう場所には企業向けの大型保険の会社員が運営人員といて駆り出されるらしい)

さて逃げ出したところで青タグ発見!
「こんにちは。初めての参加ですか?」
「はい。そうなんですよ。私港区から来まして…」
「港区!?(ここまで丸っと1時間以上かかる)」
「はいこういうものでして…」
すかさず名刺交換すると高額な健康診断を提供する会社だった…すごい。
いや、営業ならばこれが基本なのか?

そんなことをしているうちにいよいよ乾杯の時間が始まった。
赤ら顔でギラギラしたおじさまが上機嫌に今年一年の抱負を話している。
途中「ビールがぬるくなるぞ!」と何度かちゃちゃが入る。
市議会議員様の挨拶やら今年就任した法人会理事の挨拶が続き、
ようやく新入会者紹介になった。
地区ごとに名前を呼ばれ、マイクの前に立って一言ずつ挨拶する。
会社名と名前だけ述べて引っ込む人、
自社商品のアピールをする人、
そしていよいよ自分の番が近づいていく…。
「えっと?次の新入会者の方はトド産業保健事務所の只野トドさんです」
この時、自分の心は医学部1年の4月剣道部の新歓コンパの頃に戻っていた。
大股2歩でマイクの前に立つ。

『失礼します!!』

シーン…。

声が大きすぎてみんなドン引きしてるがな…。

でももう止まらない。
「私はこれまで12年間精神科医として臨床経験を積んでまいりました!」
「その経験をもとにこの度産業保健事務所を設立しました!」
「皆様の大切な従業員さんの健康を支えるお手伝いをさせて下さい!」
「以上です。トド産業保健事務所をよろしくお願いいたします!」

シーン…
遠くの方で「おーなんか元気なのが来たなあ」という声が聞こえた。

【結論2】
 新入会者の場合、皆の前で話す可能性が高いです。
 ドン引きされない程度に、自己紹介の準備をしておいた方が良いです。

只野トド、名刺交換を始める

さて、乾杯が終わったところで早速名刺交換を開始。

1人目。隣に座っていた。70台の男性。
「初めまして。私トド産業保健事務所の只野トドと申します」
さっと名刺を取り出す。
「あーはいはい。名刺これね。なんだっけ?お医者さんでしょ」
「はい。精神科医として10年以上になります。」
「で、クリニック?産業保健てなに?」
「産業医って言葉を聞いたことはありますか?」
「なにそれ?」
「会社と働く人が安全に働けるようにアドバイスするのが仕事なんですよ」
「なに?コンサルみたいな?」
「従業員が50人以上だと選任する義務が生じるんですけど…」
「あーうちは不動産でね。そんな従業員いないのよ。バイバイ。頑張って」

これでおしまいである。
その後は経営者仲間と仲良く酒を酌み交わしていた。
でもトドはあきらめない。

2人目 次は自分が所属している地区長に挨拶にいく。
地区長。ケンドーコバヤシを脂ぎらせてオラオラにした感じである。
とりあえずドリンクコーナー前でホテルのおねーちゃんに絡んでいる。
「初めまして、〇〇地区で新しく法人をたちあげましたトド産業保健事務所の只野トドと申します」
「ああ、そうなんや。こんにちは。」
すかさず名刺交換。
「精神科の先生でしょ。」
「はい、ただこの度は産業医を行うために事務所を立ち上げました」
「産業医?ああ産業医」
「聞いたことはございますか?」
「そうねえ。名前だけはねえ。」とその時ケンドーコバヤシが市議会議員の姿をとらえた
「産業医と言うのは…」と話かけると同時に私はもう、ケンドーがこちらのことなど全く目に入れていないことに気づいてしまった。
「あ、それではまたお困りのことがございましたらどうぞよろしくお願いいたします。」
「あーはいはい。あ、〇〇先生!」
とケンドーは市議会議員の後をおいかけた。

この日は全部で40人ほど経営者の方と名刺を交換したが、
まず8割の方がそもそも『産業医』という言葉を知らなかった。
「初めて聞いた」
「産業医?それ何科?」
「会社の精神科医ってこと?」
「何をする人なの?」
二言目にはこれである。
2割の方がかろうじて『産業医』という言葉は聞いたことがある程度。
福岡出身の経営者の方が「あー北九州に大学があるよね」と答えただけである。
でも結局その人も含めて『何をする医者なのか?』は誰もわかっていないことがわかった。

また、これは自分の反省だが
「産業保健事務所」という社名もいまいちだと思った。
結局一目見て「何をするか?」が相手に伝わらないのだ。
精神科の医師がなぜクリニックではなく産業保健なのかもわからないし、
行う業務も「産業医」でこれもよくわからない。
よくわからないことを2重に説明しなければならず、
結局話がなかなか深まらなかったような気がする。

【結論3】
・産業医について30秒程度で簡単に説明できるようになった方が良い。
・社名は「産業保健事務所」よりも、「産業医」とはっきり明確にわかる方が良い。

只野トド、心が折れかける

さて、そのままぶっ通して瓶ビールを片手にすべての卓を回って、
名刺交換をひたすらこなしていた。
額にだらだら脂汗を浮かべながら190㎝のトドがのそのそ歩きまわるのである。はっきり言って大迷惑だったと思う。

それなりに覚悟はしていたつもりだがなるほど、
新社会人がなぜ営業を嫌がるのかよくわかった。
一見すると「お医者様」なので話は聞いてくれるが、
絶妙に「邪魔なんですよね」
「あなたの話、興味ないんですが?」という雰囲気を醸し出される
のだ。
もちろん私がこれまで一度も営業の経験がなく、
ごり押しのスタイルだったのが原因なのもあるのだろう。
それでも飲まず食わずで配り続けながら、
上記の雰囲気と対峙し続けるのはなかなか堪えた。
卓の上を見ると自分が渡したはずの名刺がビールでべとべとになっている。
その横には同じく新規法人を立ち上げた1級建築士の名刺が2-3個放置されていた。

例え資格や肩書があっても、今の僕らはまだ実績も信用もない。
ただの胡散臭い邪魔な営業マンに過ぎない。
それを嫌と言うほど思い知らされる。

ただその一方で得られたこともある。
「昔うちの従業員でこういう風に困ったことがあったよ」
「役員がうつ病になったときは大変だったなあ」
「顧問料は払えないけれども、先生とは10年前に知っておきたかったなあ」
そういってくださる経営者の方もいた。
本当にありがたいと思った。
50人未満の小規模の事業所でも、
メンタルヘルス不調に対応してほしいというニーズは確かにあるのだ。

同時に法人会、商工会に登録している産業保健事務所がほとんどないこともわかった。

一番救いになったのは、いよいよお開きになる直前。
「先生!先生探していたよ!産業医探していたんだよね!」
「あ、ありがとうございます。」
「はい名刺!じゃあ後日メールね!」

一瞬で終わったけど、とにかくアポに繋がる出会いがあった。

結局この事業所とは契約面で合わずに流れてしまったけれども、
この時確信した。
仲介会社を利用しなくてもいい。
「産業医がここにいる」ということを知ってもらえれば、
きっと仕事は来る。

【結論4】
・医師といえども外ではただの人。
 実績も信用もない会社の素人営業の1人。
 邪険に扱われてもめげないこと!
・産業保健のニーズは確かにある。
 重要なのはいかにその存在を周知してもらえるか?

以上です。今後も独立して食べていけるようになるため、
適宜トドの動きを報告していければと思っています。

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