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噛み合わない

視覚しょうがいの方に付き添い、低料第三種郵便物を出しに郵便局の窓口を訪れた。

視覚しょうがい者のとある団体が発行している会報誌を会員に送付するためである。
私はこの会報誌を発行する作業を支援するボランティアをしている。
局に付き添ったのは今回が初めて、付き添いはもう一人いるが、送付手続きそのものは発行者の団体の幹事である視覚にしょうがいのある方がされる。

窓口に、その特殊な郵便物(封書入りの会報誌の総数は160部ほど、重量で料金が変わるので、数種類に分かれる)と、予め承認を得ている旨証明する書面を入れた紙袋を提出していた。

窓口の方は以前にも受け付けたことを覚えていたようで、
「あ、あと、私が代筆したのとですね。」と言った。
私は詳しい手続きを知らないが、窓口に今回送付する郵便物の明細を記載する用紙が備えられており、そこに記入するらしかった。

しかし、送付する本人は、知らないのか(何度となく送付手続きの経験がある)忘れているのか、言っていることの意味がわからない様子。
挙句「私はこの他に持ってくるものがあるのですか?」と尋ねる。
すると窓口の方は「いえ、ありません。」と応える。
それは窓口に置いてあるものだからだ。
けれど、本人は何を代筆すると言っているのか腑に落ちないらしい。
見えないから、数を数えてそこに記入していることがわからない。
種類別に用紙に書くだけでなく、レジのような機械に入力しているから、かなり手間取る作業だが、当然何をしているのか分からない。
次第にイライラし出す。

私は、窓口の方は相手が見える見えないに関わらず、それではこれを書いてください、と言えば良いのにと思った。
代筆してもらうか、付き添いに書かせるか本人が決めれば良い。

やがて提出された郵便物を数え終えて記入が終わり、会計が済んで、先ほど提出した、承認を証明する書面の入った紙袋を本人に返す。

ところが、紙袋で渡したものがクリアケースで返ってきたから、本人は違うものを渡されたと思い、これは違うと言う。
クリアケースは紙袋の中に入っていたが、窓口の方は全て一度出したのち、そのことを忘れているらしかった。
一部始終見ている私ももう一人の付き添いも、クリアケースに証明書が入った紙袋が挟まれているのは分かっている。

しかし、仮に、それはあの紙袋ですよ、と本人に伝えても本人は納得しない。
そういう、見えている人の何気ない行為が、いかにいい加減で間違いの多いものか、嫌というほど思い知らされているからだ。

彼女は、自分の手で触って確認したことしか信じない。
その上、私たちの手出し口出しをピシャリと撥ねつける。
自分でできることは自分でする、それは彼女の尊厳に関わる大切なこと。

クリアケースは一旦窓口の方に戻され、元のように紙袋に納めて返された。

一件落着と思いきや、一枚のメモが釣り銭などを入れる皿に残っていたのを、窓口の方が、これはどうしますか?と尋ねた。
封書の数をメモしたもので、すでに不要だ。
本人は、あなたがお預かりすると言ったから渡したのだから、私は知りません、と答えた。
これは、いささか筋が通らぬ、と思った。
自分が持ち込んだものである。
お預かりしたのは、提出されたものをとりあえず全て受け取ったからに過ぎない。
それが不要か必要かの決定権は提出した本人にある。
窓口の方にしてみれば、何が大切で何か不要なのか分からない、分からないからどうしますか?と尋ねているのだろう。
そんなもの、窓口にはもともと全く必要なかったし、今後も必要ない。
お客様がお持ちになったものです、と窓口の方が言った。
それならください、と本人が受け取った。

窓口の方は始終にこやかに応対していたが、本人には見えない。

本人はだいぶ手こずらされたように感じたらしく、窓口の見送りに応えず背を向けた。
私は窓口の方を振り返り目を見て
「おせわになりました。」
と言った。

こんなことに30分もかかって…とかなり不服そうだった。
私は次からの機会にはすべからく実況が必要に思った。


※ヘッダー画像は 稲垣純也さんよりお借りしています。
ありがとうございます♪


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