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最強のラブソング「千年メダル」ザ・ハイロウズ公式

すでに解散したけれどTHE HIGH LOWS が好きだ。
ライブにも何度か出かけたことがある。


県民会館のライブは、小さなライブ会場と客層が異なっていた。
スーツを着てアタッシュケースをかかえたサラリーマンが、縦ノリで身体をゆすりながら時々ジャンプしたりしていた。
だから、夕ご飯に作り置いてきたカレーの匂いがする小太りのおばさんがいても、それほど違和感がなかった、と思いたい。

運良く最前列の席が取れた。
23番、あと何列か右だったら、機材を見に来たようになる。
ステージのヒロトからは遠いけど、マーシーが目の前にいた。
興奮した客がステージに上がり込むのを防ぐためなのか、黒っぽいスーツを着た強面の男たちが前に立ち並んでいた。

どの曲か忘れたけれど、マーシーが舞台前方にせり上がってきた。
最前列の客が強面の男たちをすり抜けてステージの裾に駆け寄った。
左隣の、若い二人連れの女性も駆け寄っていた。
私も駆け寄って、マーシーの色あせたジーンズの、やぶけた膝のあたりをタッチした。
なんだかとても申し訳ないことをしたような気がした。

またまた曲名を覚えていない(覚える気がない)が、笑顔を顔に貼り付けたまま聴き入っていると、目の前になにか飛んできた。

わずか数秒の出来事だった。
ちょうど胸あたりをめがけて飛んできたそれを、つかもうと腕を伸ばしたときに、左側の女性のほっそりときれいな手がそれを奪い取った。

私はキッとした目で睨みつけたはずだ。
なんだかわからないけど、これは私に向かって飛ばされたと確信していたのだ。
根拠はないけど、目の前の取りやすい位置に飛んできたのだから。

すると、若い女性は両手をあわせて拝むような形にして、ごめんなさい、という口の形で私に詫びた。
細い指の間には、ピックが挟まれていた。

私はとっさに、マーシーが私に向かって投げたピックを、この女性が横取りしたのだと思った。
だから詫ているのだ。

悪いと思っているなら返してほしいと思った。
同時に、返すわけがないと諦めた。

私は年長らしく、保護者のような優しい気持ちになって、いえいえ、いいですよ、と微笑んだ、つもりだ。

若くてきれいなお嬢さんだった。
文句などつけたら、おばさんが若い子をいじめてるみたいだもの。

そののちもこの情景を反芻し、あれは惜しかった、と人に話した。

話すうちに、ふとあることに気づいた。

あのピックはあの女性が受け取るものと決まっていたのではないのか…
あの若く美しい女性はマーシーのファンで、もしかしたらファンクラブに入っているのかも知れない。
マーシーとは顔見知りで、今度のライブのこの曲のときにピック投げるねーとかなんとか、約束をかわしていたのではあるまいか…
ところが、演奏中のことでもあり手元が狂って隣のおばさんの目の前に飛んでしまった…
のっけから、このシーンでピックが飛んでくることを知っていた彼女は、マーシーの手元を離れる前からピックの行く先を目で追っていたからこそ、あの素早い動作だったのかも知れない。

そうだったんだ…
いやそうに違いない。

私は本気で、マーシーが私に向かってピックを投げたと一瞬だけ思った。
そのくらい、ど真ん中だったのだ。


さてこの「千年メダル」
冒頭から「永遠に君を愛せなくてよいか」である。
そのあと「思い出す 忘れない 僕はずっときみのこと 考えてるところ」と続く。

私はこの曲から、高校時代に読んだ、寺山修司が監修した詩集にあった、マリー・ローランサンの「鎮静剤」を思い出す。

私がこのラブソングを支持するのは、夫はこれまで「ア・イ・シ・テ・ル」と言ったことがないし、死ぬまで言いそうにないからである。

それはお互い様ですが。

※イチョウの画像は岡勇樹さんよりお借りしています。ありがとうございます♪


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