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出し抜かれそうになった話

字の如くな体験がある。

と言っても、政治家でもエリートサラリーマンでも白い巨塔にお住まいの方でもないので、ありふれたよもやま話ではありますが。

中学一年の秋の校内マラソン大会で、一年女子の二位になった。

ブラバンでシロフォンなんか叩いている、冴えないメガネをかけた、ややぽっちゃりのこの私が、並み居る運動部員を抑えての堂々二位である。

山奥の、全学年まとめて数人なんて規模の中学校ではない。
一学年はひとクラス四十名ほどで5クラスあったので、女子はざっと計算して百人、その中の二位だから、悪くないと思う。

ちなみに一位はバスケット部の背の高いひとだった。あまり差がなかったから、ゴール直前後ろを気にしているのが見てとれた。
あとに続く上位十人くらいは運動部で占められていたと思う。

小学校では特に顕著だけれど、あまり勉強ができなくても運動能力が高いと尊敬を集める。

私は球技が全くダメだけれど(ピンポンすらできない)、陸上と水泳は選抜されて市の対抗試合に出場した。
だから、まったくの運動オンチというわけではなかったが、校区の関係で大多数が別の中学に上がり、知名度が無かったのだと思う。

身体の成長が早かったので、六年生の終わり頃は、走ると胸やお尻がユラユラ揺れるのが嫌だった。
中学で陸上をやる気はなかった。

マラソンといっても距離は短いが、校庭をぐるぐる何周もするのではなく、学校近くにあった競技場をスタートして、隣接している高低差のある大きな公園内や一般道もコースに含まれていた。

特にがんばらなくともよかった。というか、どんな時間配分をすれば良いかなんて知識もなかったし、そもそも試走しておらず行き当たりばったりなのだ。

はじめは最後尾だったが、周囲が勝手に脱落した。
気がついたら前にほとんど人がいなかった。
当日見学の同級生が沿道で応援してくれるのに手を振った。

そんな余裕があるならスピードを上げろ、という体育教師の声がした。

✳︎


二年次にクラス替えがあり、同じクラスになったナオコとよく話していた。

ナオコはテニス部で、成績もまあまあ良くしっかりしたかわいい女子だ。

私は友だちを固定しないタチで、どうしても馴染まないクラスタ(野球部やサッカー部の男子と仲良くしている、生徒会をやっているような、それと何を話したら良いのかわからない暗い地味目な)以外の同級生とほぼ平均に付き合った。

だからナオコには別に親友がいて、私は何番目くらいかの友だちという位置づけだ。

そしてまた、校内マラソン大会の季節がやってきた。

ナオコは、マラソンが苦手なので、今度の大会で一緒に走ってほしいと頼み込んできた。

軽い気持ちで、いいよ、一緒に走ろう、と応じた。

さて当日。
仲良く並んでスタートした。

しかし、ナオコは遅い、遅すぎる。
私のほんの少し後ろを、ぜいぜい言わせながらついてくるので、先に行きすぎないようにペースを合わせた。

当然、前を走る人が増えてくる。
ピッチを上げようとナオコを振り返ると、哀願するような目で私を見ている。

置いていかないで…
と言われているような気がした。
こうなったら二人一緒にゴールしよう…

私はレースを諦めた。

いよいよゴールが目の前となった瞬間
後ろのナオコが少し前に出て横についた。
とするや否や、私を追い越した。

え。

キツネにつままれるとはまさにこれである。
まさかの展開につんのめりそうになる。

気を取り直し、ナオコを追い越し振り切ってゴールした。
何人かぶっちぎって抜いた。

27位。

レース後ナオコは涙ぐんで、ありがとう!と言った。
去年よりはかなり順位が良かったらしい。

知るかよ!

※小学生のマラソン大会の画像はあんこさんよりお借りしています。
ありがとうございます♪


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