見出し画像

夕方は寂しいもの

学童クラブは六時で預かり終了する。
夕方五時半くらいまでに、ほとんどの児童が引き払う。
六時を回る子は決まっていて、五分程度だから残業ではなく、出勤時刻で調整してくれている。

五時半過ぎ、Aくんが、添え付けのキッチンのカウンターのところで得意の逆立ちを見せてくれていた。

Aくんは一年生、丸眼鏡をかけて、三谷幸喜が小学生になったみたいな、少し風変わりな子だ。

逆さになったAくんが、真っ赤な顔でつぶやいた。

さみしい。


なんと言ったのか、聞き間違えたのかと、聞き直す。
今度はおっさんみたいな体育座りになって言う。

さみしい。

それはいつのこと?と問うてみる。
あまりに唐突で、いつどこで何について語っているのか、わからなかったからだ。

夕方におかあさんがいないと、さみしい。

彼にしては珍しく、直球で返して来た。
Aくんのお母さんは、たいてい明るい時刻にお迎えに来る。
今日はいつもより遅い。

そうだね、夕方になると寂しくなるものだよ。
赤ちゃんも、おじいさんも。

そばにいた一年生の女の子が横から言う。

赤ちゃんもさみしいの?

そう、夕方になると泣くんだよ。

女の子が膝に乗ってくる。

三人で雑談をしていると、車が外の道路に着いた。
Aくんが立ち上がる。

子どもたちは、父母の車の音をかなり遠くから聞き分ける。先生たちは、犬みたいにいい耳だね、と笑う。

Aくんは、玄関をひょいっと見てから、

太ったおばさんが来た。

丸眼鏡が満面の笑顔だ。

太っただなんて、きれいなすてきなお母さんなのに!

そうだよ、美人ですてきなおかあさんだよ。

ランドセルをしょいながら、いそいそと、まるで恋人に会いに行くようなのである。



※ジャングルジムの画像はミチクサ Photo & Jewelry さんよりお借りしています。
ありがとうございます♪



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?