改造詩人伍号「幻惑庭園」

むせ返る花の匂いに包まれた 幻惑庭園

血のように赤いチューリップ

小さな葉が輪を描くガーベラ

はにかむようなマーガレット

物言わぬコスモス

その頭上には 

濃度の高い空が 嫌というほど広がっている

極彩色の蝶が羽ばたく その複眼は色を知らない

森の中で息を潜める池では

人魚が自分の鱗を剥がしている

巨大な屋敷の一室で 少女が人形と戯れている

テーブルにはケーキと 甘いミルクが湯気を立てている

陽の光が部屋に差し込み 陶器のウサギが白く輝く

水差しに活けられた薔薇の枝を 芋虫が這っている

その柔らかい肉を 無数の蛆が内側から貪っているが

羽ばたく日を夢見て その身をよじらせている

人形遊びに飽きた少女は 

真鍮の駕籠に閉じ込められたカナリアを 短い指で弄び

窓の向こうの青空が 音を立てて割れたらいいのにと思った

テーブルから落ちたティーカップのように 音を立てて

巨大な空の破片が 花を引き裂き

巻き上げられた土が 植物を押しつぶす

極彩色の蝶は木っ端微塵になって

細い脚や触覚が ひらひらと地に落ちる

そうして死んだ花畑の上を

少女は思う存分駆け回りたいと思った

大地に刺さった空の破片を覗き込めば

自分の顔はどんなふうに映るのだろう

テーブルにはケーキと 甘いミルクが湯気を立て

いつまで経っても世界は終わらない




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