「JKと住職」第1話

<あらすじ>
 霊掃寺(れいそうじ)は、由緒正しき除霊専門の寺である。先人は皆、霊視と除霊で活躍してきたが、新たに住職となった龍山由太郎(27)は、祓うことができても実は霊が全く視えない人だった。なんとかごまかして視えているフリをしていたが、由太郎は初仕事で早くもピンチを迎えていた。心霊番組のロケの休憩中、突然現れたJKにこう囁かれたのだ。「視えてないでしょ、おじさん」
 霊が視えるJKと弱みを握られたおじ…住職の物語。

登場人物
〇龍山由太郎(たつやまゆたろう)(27)独身
 父親の跡を継ぎ住職となった。霊が視えないから不安しかない。住職といっても坊主でなく、私服を着ればただの一般人。
〇龍山権太郎(たつやまごんたろう)(55)
 霊掃寺48代目の住職。最強の除霊師と呼ばれた人。引退してからはハワイに移住し、悠々自適な生活を送っている。
〇鍵谷るり子(17)
 霊が視える女子高生。


<第1話~新住職、ピンチ~>

大声で談笑しながら記者と龍山父が廊下を歩く。その後ろで由太郎もついて行く。由太郎は「疲れた」以外の感情を置いてきた表情。記者「いやあ、龍山住職、今回も取材に応じてくださりありがとうございました」
深々頭を下げる記者に、龍山父は笑顔で手片手を上げる。
龍山父「なんのこれしき。みなさんと霊がそれぞれ行く道を示すまでです」
記者「流石です。またお仕事、一緒にさせてくださいね」
龍山父「そのことなんですがな」
龍山父が振り返ると、記者も一緒に振り返る。目が合った由太郎が頭に?を浮かべる。
龍山父「そろそろ引退して息子に継がせようと思いまして」物凄い笑顔
由「はあああああああ⁉」

【霊掃寺(れいそうじ)…それは、霊視と除霊で超有名な霊専門の寺だ】
【先祖代々受け継がれてきた龍山の血…その中でも父・龍山権太郎(たつやまごんたろう)は霊掃寺1000年の歴史の中で最強と言われた除霊師でもあった】
【そしてその息子――俺、龍山由太郎(たつやまゆたろう)は】
霊掃寺の境内で、因縁物を眺めている龍山親子。権太郎は厄介なモノを依頼されたな、という顔。
権「どうじゃ、この邪悪な気配」
由(なんっっっにも視えねぇ感じねぇ)
【なんにも視えない】
由「お、おう…どの祓い方をするか迷うぜ。アレか、アレか…ソレ」
権「ふむ…アレ、か。悪くないのう」
由(…ドレ…??)冷や汗をかきながらも一応真剣な顔。
記者「息子さんもやはり龍山の血が流れてますね」固唾を飲んで見守る記者。
【そんな俺でも、一応…祓えはする】
由「『龍山流:ソーン・ナカンジ』!」※本人は自分の念力も視えてません
権「ふぉっふぉ、狙いが定まってないのお。乱射しすぎじゃ。でも、出力は大きくて良い」
由「あっはっは、親父には敵わねえなぁ」(どこにいるかわかんねーから、適当にデカいの放つしかないだろ)冷や汗ダラダラ
その他の僧侶「流石由太郎さん…」「格が違いますねぇ」ひそひそ
由(ひええええ)
【なんとか数々の危機を乗りこえ胡麻化してきた俺だが…】
由(ついに住職に…)げっそり
場面が切り替わり龍山父の肩をもみながらへらへらする由太郎。
由「親父殿、まだまだ現役じゃないですかい」
権「いやいや。歳には敵わんて。由太郎も27…今や立派な除霊師…思い残すことはない」由太郎、撃沈。
由(祓えないわけじゃないんだ…だから今まで通り、そのあたりに除念の力を放っておけばいいか)
一応決心した由太郎は腕に力を込めた。肩を揉まれていた権太郎は悲鳴を上げたのだった。

そして、新・住職として一発目の仕事は、心霊番組のロケだった。
由(親父め…この仕事終わらせてから引退すればよかったのに)
人とかかわるのが下手だと自覚済の由太郎は、取材やロケは苦手意識があった。権太郎のように朗らかに笑えるわけでもないし、視えない分何を話せばいいかも分からない。
父親への取材を横から見ていたことはあるが、実はロケは、同伴含め初めての由太郎。権太郎に愚痴をこぼしつつも、心の隅では、テレビで見ている有名人に会えるのかと若干ワクワクし、気持ち髪の毛にワックスを乗せる。
由(おし、いっちょやりますか…!)
ついにロケが始まった。
小型カメラを持った女のタレントが不安そうな顔をして、トンネルの中を歩く。既に先ほどの勢いがなく、ただただげっそりとしている由太郎。
由(ここに霊とか…いるのかな…)不安
タレント1「なんか、夏場なのにここだけすっごく寒いです…」
由(え、そうなの?俺暑いけど)
芸人1「ほんまや…気分が重いって言うか…」
由(そ、そうなんですか…)
そう言っている彼らの奥――カメラに映らないところから、ディレクターが合図を出す。それに気づいた由太郎は慌てて咳払いをする。
由「ん゛…んん゛…」
由「…ここには霊気が溜まってます」(知らんけど…)
芸人2「うわー、マジですか」大げさな嫌な顔
タレント1「もう、ここだけ別世界って感じがしますもんね」震え

タレント2が突然止まる。
タレント2「えっ、なんか今」
芸人1「なになになになに⁉」
タレント2「誰か僕に話しかけました?」
タレント1「もぉ~勘弁してぇ」半泣き
スタッフの視線を感じた由太郎は眉を潜めて口を開いた。
由「えー…えーっと。危険な霊がいます」(知らんけど)
由「これ以上進むと霊の怒りをかうので、一度みなさんひきましょう」
由(俺の見てきた心霊番組はこんな感じだったな)(テロップは『危険な探索の為ロケ中止の事態に!』とか)
カメラマンの満足げな表情をちらりとみた由太郎は、タレントたちに清めの塩を振りまきながら、簡単なお祓いをする。
由「コーン・ナカンジ、ダイタ・イソレ、ダ・イジョブ、グ・ジョブ」
由(これでなんか憑いてても、一応いなくなるだろ)
休憩中、スタッフ2人が由太郎に近づいてきた。
スタッフ1「お疲れ様です。権太郎さんの突然の引退には驚きましたが、息子さんである由太郎さんも、流石龍山家という感じですね。いつもご協力ありがとうございます」感謝感激
由「は、はあ…」困惑
スタッフ2「やっぱり、曰くつきのトンネルでしたね!いやあ、僕も耳鳴りとかしてたんで、清めてもらってよかったです」
由「ほ、ほお…」困惑
スタッフ1「それで、次のロケは、町中にも潜んでいる霊的現象ということで、隣町の××商店街に」
由「は、はあ…」困惑
バスに揺られながら、隣町の看板を横目にため息をつく由太郎。
由(こんなんで、いいのかなぁ、俺)

××商店街に着いた一行は、商店街にまつわる怪談話を商工会の人(A)から聞きながら歩く。
A「いやね、俺も驚いたんだけどよ。あの人形だけは何をしても戻ってくるんだ」
タレント1「具体的には…」
A「20年前だったかな…当時、俺の親父が店の雰囲気を変えようっつって、人形も処分しようとゴミにだしたんだよ」「ゴミを出して帰ってきたら、店の棚に座ってたんだって」
芸人1「こわあああ」大げさなリアクション
芸人2「それはあかんわ」顔に手を置く
由(あかん…よなあ)こめかみをグリグリと押して困った顔
A「その他諸々の怪現象もあり……というわけで、龍山住職に霊視を」
由(ですよねぇ)「はい」即座に顔を真剣な顔に戻す
件の人形の前に来たロケ組。芸能人が集まってカメラを回しているのもあり、少し野次馬が集まっている。スタッフが交通整理を静かにしながら、収録は着々と進んでいた。
由太郎は「怖い」だの「不気味」だの言うタレントたちの後ろから、じっと目を凝らして人形を見ていた。タレントたちの感想を聞き終えたAが由太郎に話を振る。
A「それで、どうでしょうか」
由太郎は険しい顔でため息をつく。
由「やはり…」(ワカリマセン)
由「この人形には相当な呪いが込められていますので、大変危険ですね」(タブンネ!)

一度休憩になった。このあと、お祓いシーンを撮影することとなる。タレントたちは、化粧直しの為に一度席を離れた。由太郎は、暑くて重い袈裟をどうにかしながら用を足し、現場へ戻ろうとする。
すると、目の前に一人の女が現れた。茶髪ロングで制服を着ているところを見ると、おそらく高校生である。耳に髪をかけるネイル、その髪から見える光るピアス、心もとないスカート丈。由太郎は、今どき(??)の高校生なのだなと冷静に分析した。
目が合ってしまったので、由太郎は社交辞令で軽く礼をして横切ろうとする。そのとき、
JK「視えてないでしょ、おじさん」
由「⁉」思わず立ち止る
由「んなわけ」冷や汗かきながら振り返る
JK「だって、言ってることめちゃくちゃだもん。あの子、あたしに違うこと言ってるし」
由「お前には視えてるのか?言ってることが分かるのか⁉」(親父でも心情までしか汲み取れないのに)
JK「で」
由「?」
JK「視えてないこと、みんなにバレたらまずいよねぇ」
由「うっ」
JK「よくわかんないけど、凄いお寺の人なんでしょ?」
由太郎はこんな女子高生に振り回されるのもバカらしいので咳払いをする。
由「いや、俺は視えている。南無南無」「君も人形の呪いにかかりたくなかったら、この場を去りなさい」すました顔
JK「あほくさー」「これ、録画してるから、アンタの『お前には視えてるのか?』もバッチリだよ」
由「なん…だと」
狼狽える由太郎に、JKは悪い顔をする。
JK「黙っててあげようか」「ただし――」
由太郎の顔から汗が噴き出す。

スタッフ「そろそろ撮影再開しまーす」「あれ龍山さん、その子――」
撮影現場には、冷や汗かいている由太郎と笑顔のJK。
由「えと、あの…俺の遠くの親戚みたいな。知り合い的な…えー、今回の心霊現象を解決に導くために急遽きてもらいマシタ。名前を…」
JK「鍵谷るり子でーす。17でーす」ピースをする
由「デス」
スタッフ「ありがたいですけど、そういうのは先に言っていただかないと。ギャラが発生するんですから…親御さんから映る許可などもいりますし」
る「あ。あたしはなんかあったとき用のサポなんで。よろしくでーす」
由「…デス」
 ~回想~
由太郎に条件を出するり子。
る「ただし、ちゃんと念仏させて。何言ってるか教えるから」
由「ねん…?成仏のことか?」
る「ん~そんな感じ」
由(大丈夫か、コレ)
 ~回想終わり~
撮影再開。
A「先ほど、相当な呪いとおっしゃいましたが…」
タレント1「どんな呪いなんですか」
由「えー、そうですね。これは…ん゛ん゛」
由「る゛、ん゛ん、かぎっ、や!」(るり子‼)
るり子、カメラ外で携帯ポチポチ。由太郎の必死な咳払いにやっと気付き、手招きする。由太郎はすました顔をして、一同に軽く頭を下げる。
由「私の力が強すぎて、人形を刺激するかもしれないので――ここまで距離を置いて解説しますね」るり子の近くまで移動する
タレント2「なんか今までの撮影と違って厳重警戒というか」
芸人1「相当ヤバいんでしょうね」

るり子、由太郎にぼそぼそ伝える。
る「なんかぁ、好きピがいなくて、無理ぽだって」
由(ぴ…ピ………?)
由太郎、全然ゆかりの無い外国語を聞いた気分となって、情報を処理しきれずに、適当に言葉を輩出する。
由「この霊は……か……柿ピーが食べたいと…ムリポダッテ」
一同「?????」
る「チッ…おじさんキモ…」由太郎の背後で盛大な舌打ちとため息
由(霊より女子高生の方が怖い…!)半泣き
由「うっ…」
タレント2「龍山住職、どうされましたか」
由太郎は体を傾けて、具合の悪いフリをする。
由「す、すみません。みなさんに害が無いように力の影響を強く”引き受けて”しまったみたいで」「少し、”この子”とこの先の対処について相談します」
る「えー、超だるいんだけ――」
由「ははは」
由太郎はるり子の言葉を遮って笑う。そしてるり子に振り返って威圧をする。
由「ね。超だるいくらい”霊の力が強い”デスネ‼」大声
由「では!」るり子の背中を押してフェードアウト

誰もいない控室にるり子を押し込んだ由太郎はるり子に詰め寄る。
由「おい!なんだよ意味不明な外国語使いやがって」
る「はあ?外国語てなに」「てゆーか、おじさんこそ、キモイこと言ってんじゃん」
由「俺はおじさんじゃない、まだ27だ!」
る「クソおじさんじゃん」
由「クッ…何歳からおじさん論争は一度おいておいて……」「さっきなんて言ったのかもう一度教えろ」
る「だからぁ、好きピがいないんだって。だから気分が萎えて、念仏無理ぽなの」
由「念仏=成仏しかわかんねぇよ!」キレ気味
控室の扉にノック。その音に飛び上がる由太郎。
スタッフ1「龍山さん、大丈夫ですか?」
スタッフ2「収録も押してるんで、そろそろ…」
由「大丈夫デス!もうすぐで対処法決めますンデ!」焦り
返事をする由太郎を白けた目で見るるり子。由太郎はるり子に向き合い、凄い形相で詰め寄る。
由「スキピってなんだ。萎えるは分かる。ムリポ?」
る「ゲゲれカス」
由「!」光明が見えた顔

現場に戻ってきた由太郎は笑顔だった。るり子は再びカメラから外れた、クーラーの下を陣取り、携帯を触っている。
由「お待たせしました皆さん」
スタッフの指示通りに、芸人2が由太郎に話しかけるところから収録がスタートした。
芸人2「ほんまに、この恐ろしい人形に対応できるんですか」
由「恐ろしい…その表現は適切ではないですね」
芸人2「??」
由「人形が、泣いてるのです」ドヤ顔
スタッフ1・2(さっきと方向性違うーー⁉)絶望した顔
スタッフ1がすぐさま画用紙をめくり、文言を書く。それをチラ見したタレント1が拾い上げて言った。
タレント1「相当な呪い、って言ってましたが…」
由「あ゛……」しまったという顔
由「いえそれは、相当な”愛”という表現として言ったのデス」
芸人1「愛、ですか」
由「はい」キリッ
由太郎は人形の頭を撫でて言う。
由「この人形は、スキピ…もといAさんのお父様が大好きだったのです」

由「しかしお父様が無くなられたことを未だに知らず、ずっと――帰ってこられるのを待っている」「だから、人形自身も、ずっとその場所に居続けなければと」しんみり
 ~控室回想~
由「スキピ…ああ、好きな人ね」「この人形誰が好きだったんだ」
る「さあ。人形からどんな顔の人かイメージ送られてくるけど」
由「なに⁉ どんな人なんだ」
る「おじさん」
由「お前の世界は『おじさんかおじさんじゃないか』しかいないのかよ!」
る「もーうるさいな」
由「絵だ!絵を描いてみろ。特徴が――」紙と鉛筆を両手に持つ
壊滅的な絵。
由「……」撃沈
由「いやでも…この禿げ方…」「Aさんの父親か!」
 ~回想終わり~
A「親父のことを待っていたなんて…」
芸人1「なんか」
タレント1「ちょっと感動しちゃいました」
現場がほっこりムードになって来た。予定していた方向性と違ってきたスタッフだが、これはこれでいいのでは、と周囲で目を合わせて頷く。
A「人形さん…ごめんな。親父は死んだんだ。今度墓参りに連れってってがるから…」
タレント1、涙をぬぐう。

 {テレビ画面に映る由太郎}
由「コーン・ナカンジ、コーン・ナカンジ」ポクポク
テロップ【後日、龍山住職のもとで人形はしっかりと供養されたという――】
放送予定のシーンを見た由太郎は満足げに頷いた。
由「ありがとな、るり子」「お前のおかげでなんとかなった」
対面ではるり子がパフェを様々な角度から写真を撮っていて、なんにも聞いてない素振りだった。由太郎はパソコンを閉じて席を立とうとする。
由「じゃ!」
る「は?」写真を撮る手を止める
由「なに?」
る「お金は?」
由「いや、もちろんここは俺の奢りだ」親指を立てる
る「じゃなくて、人形の時のお金」
由太郎、一瞬何を言われたのか分からなかったが、時間差でるり子の言いたかったことを理解する。
由「おま、金をとる気か」
る「逆に聞くけど、ほーしゅー払わないおじさんの方がヤバくね?」「あたし、今回のことベックスで呟こうかな~」
由「わかったわかったわかった」「俺が悪かった」
る「ん」「5万でいいよ」
由「エ゛」
る「なに?」
由「いえナニモ」
今回は確かにるり子のおかげで乗り切ったのだ。それで無報酬はない。しかし、5万が簡単に飛んでいくのは、由太郎にとって大誤算だった。そして――
金を受け取ったるり子は、由太郎がまだ席にいることに舌打ちをした。
る「おじさん早く帰って。カメラに写んだけど」
由(女子高生こえええ…)
る「あ、次のじょれーも、あたしを呼びなよ。おじさん」
由(うそだろ…)
さらなる大誤算は、これからもこの女子高生と関わらなければならなくなったことだった。


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