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お金持ちになったら、ひのきのお風呂がほしい。

台風が近づいてきた。
低気圧にめっぽう弱いので、頭が重くて首がこる。

「不必要な外出は絶対にやめてください」

とあらゆるメディアは警告しているが「これは必要な外出なんだ」と午前9時半、片道10分の距離を歩いてセブンイレブンまでいった。自分の全神経を集中させて機械を操作したけど、どうしても手に入れたかったトークライブは1分で売り切れてしまった。完全な無駄足と沈んだ心を引きずりながら、まだそれほど強くない雨風に打たれて家に帰った。

帰ってきてからどんどん雨風が強くなり、もうどこへも行くことはできない。ダウンロードしたドラマを見たり、借りてきた本を読んだりして過ごしていたが気分は一向に上がらない。目から情報を入れるのにつかれて、部屋を真っ暗にして三四郎のオールナイトニッポンを聴きながら昼寝をした。ゲストで来たアンガールズ田中さんはどの現場でも自分を活かせるからすごい。

小一時間の昼寝から目覚め、少しすっきりしたのでMacBookの液晶だけが明るく光る部屋でこの文章を書きはじめた。

こんなどんよりした気分のときには、あったかいお風呂に入りたい。
できるだけ熱くて、できるだけ大きいお風呂がいい。


小学生のころ、佐賀県でサッカーの合宿を行った。
どんな練習をして、試合に勝ったのか負けたのか覚えていない。
覚えているのは気球に乗せてもらって、大隈重信の記念館にいったこと。

それと、泊めてもらったお家のお風呂が立派なひのきの浴槽だったこと。

佐賀のチームのご好意で、せっかく遠くまで来たんだからといくつかの家庭でぼくらを数人ずつ宿泊させてくれる段取りだった。
ぼくとコウイチくんが泊めてもらった家は、すごく大きくて立派だった。実家の倍くらいありそう。2人くらい増えてもこの家はなにも変わらないんじゃないか。なんならぼくらのチーム丸ごと泊まれそうだ。

そんなことを伝えると

「ど田舎だから、土地も家も安いお金で買えるだけだよ」

とお父さんから返事がきた。(ほんとはやさしい方言だった)

晩ご飯には「子どもは美味しくないだろうけど、食べてみて」と言われて、つくしの佃煮を出してもらった。「美味しいです」と嘘をついた。

夜になって、ぼくとコウイチくんと、佐賀のサッカー少年、そしてその兄弟みんなで風呂に入った。

大きなお風呂は木でできていて、すごくいい匂いがした。

「これ、ひのきっていう木なんだよ」

とその家の子が教えてくれた。ほんとうかはわからない。
風呂嫌いだったぼくは、このお風呂ならいつまでも入っていたいと思った。
あったかくて、いい匂い。お湯の中に溶けそうだった。

この経験をきっかけに、ぼくは風呂が大好きになる。
どこか一人で旅行にいけば、宿泊費を浮かすためではなく、大きいお風呂があるからできるだけカプセルホテルに泊まる。
休みの日に時間があれば、すぐ銭湯に足が向く。
東京に来てからも、家から自転車でいけそうな銭湯はもうすべて網羅した。
先日もひとりで浅草の銭湯までいってきた。

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ぼくは、高い買い物に興味がない。
持ち家もほしいと思ったことがないし、ハイブランド製品や高級車にもまったく興味がない。服はUNIQLOが主力でいいし、車も軽自動車で十分。

でも、もしお金もちになることができたら、ひのきのお風呂がほしい。
あのお家にあったような、できるだけ大きいやつ。

嫌なことは全部お湯に溶かして、いい匂いを嗅ぎながらたのしいことばっか考えられる、大きなひのきのお風呂がほしい。

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