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年賀状を白いポストに入れた。

「へー、世の中には白いポストもあるんやなぁ」

小学生低学年だったいつかの年末。
懸命に一枚一枚手書きした年賀状を投函し、ポストは赤以外にもあることを学んだ。

「ポストは赤」なんてのは、小さな世界の話。It's a Small World。
世界を見渡せばパトカーだって白黒じゃないし、大麻だって合法。各々が思い描く「常識」は、所詮自分の目で見える範囲のものでしかない。

はじめのおつかいよろしく初めて一人で年賀状を投函したことがうれしくて、帰宅後すぐに白いポストの発見を母に伝えた。

「おかあさん。ポストは全部赤かと思ってたけど、白いのもあんねんな。勉強になったわ」



「は?ポストは赤やろ、アホか」

一太刀でぶった斬られる。

なんで大人のくせにそんなことも知らないんだろう。
「常識」の鎖でグルグル巻きにされてやがる。お中元のハムか。


「知らんの?駅前のポスト、白やったで」

「駅前の白いポスト…?

あ…!

え…まさか…年賀状入れたんか?」

「入れたわ!ポストやもん」



「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

涙を流して笑う母を見て、GLAYより戸惑う。

息も絶え絶え、母は言う。

「あれポストちゃうで。






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エッチな本を入れるポストや」


実際のエロ本は見たことなかったが、意味することは分かった。恥ずかしくて顔から出た火で実家を焼いた。


「有害図書追放」

こんな漢字、理解できなかった。
「ポスト」のカタカナを見て、反射的に投函した。
まちがいさがしのまちがいの方に入れた。


止まらない母の笑い声に、いつの間にか流れ出た涙も止まらなかった。

ようやく呼吸が落ち着いた母は

「まぁもう1回書き直したええやん。こんなに笑わせてもろたから、年賀状もっかいあげるわ」

と、出したのと同じだけの真っ白な年賀状をわたしてくれた。

当時はもちろんメールなんてなく、住所のわかる友だちには片っ端から出した。30枚はあった。

あんなに必死に書いたのに、また一からすべて書き直し。
ずっと泣きながら書いた。涙の数だけ強くなれるなら、ルフィだって秒殺できた。

「あんなにがんばったのに、なんでもう1回書かなあかんのや」

つらくて悔しい気持ちをこぼれるほど抱えたまま、再び30枚を書き上げる。

合計、60枚を書き上げた。


どん底まで沈んだ気持ちで年を明けたが、お年玉をもらったり、みんなからの年賀状を読んだりしてるとだんだんと元気になった。追加で書いた年賀状は、ちゃんと赤いポストに入れた。



「白いポストに年賀状を入れたことなんて友だちにはバレへんし、もうどうでもええわ」

そう思い直し、冬休みが終わるころには上手に気持ちを切り替えることができた。

3学期がはじまる。

たかだか2週間ではなにも変わらないのだが、学期のはじまりはなんだか少し緊張する。美容院に予約の電話を入れるときみたいだ。

2学期のはじまりにはふつうに「おはよう」だったあいさつも、3学期のはじまりは格好つけて「あけましておめでとう」なんて言いたくなる。

教室に入る。
ひさしぶりに会った友だちを見つけて、少し照れながら大きな声で言う。


「あけましておめ




「なんで年賀状2枚くれたん?」


「オレも2枚来たで」
「わたしも2枚」
「ぼくも2枚」
「ぼくも2枚」
「オレも2枚」
「わたしも2枚」


膝から崩れ落ちた。

そう。
エロ本を回収してくれる業者さんが


「おいおい、大量のエロ本の中に小学生の書いた年賀状が混じっとるやないか。とんでもないアホがおんねんな。わしが赤ポストに入れ直しといたろ」

と、

ご丁寧に再度ポスト(赤)に投函してくれたのだ。


白ポストより真っ白になった頭を抱えて、そのあとどんな言い訳をしたか記憶にない。


あれから20年以上の月日が流れたが、新年を迎え、年賀状が届くたびに思い出す切ない記憶はいつまでも色あせない。

電子機器が普及し、時代はペーパーレスになった。
現在、白いポストは絶滅危惧種に指定されている。

もし、みなさんがどこかで白ポストを目にしたときは、ここに年賀状を入れて号泣した男がいたことを思い出してほしい。


明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

2020年 元日 仙豆


*このnoteは白いポストに投函したため、配達に時間を要しました。

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