眠れぬ夜の昔話 其の五
風俗雑誌の編集部(一)
ぶっちゃけ、騙されたわけですよ。
職安の求人では、「地域情報誌の編集」というような内容で、まさか金津園のソープランドの女の娘のグラビアとかインタビューとかが載ってる雑誌とは、全く聞いてなかった。
で、Macが使える人を求人してるらしかったので、「使える」の定義もよくわからないままに、就職活動のために作り込んで、もはや熱苦しいボリュームになってたポートフォリオを抱えて面接に臨んだわけ。
そしたら、その編集部の建物が、入り口入る前から最早カタギの気配がしない、ヤベェ建物だったわけだ。
玄関入って一階が、そのヤベェ気配の根源のようで、例えるならヤクザの事務所。
最初はただの比喩で友達に「いまぁ、今の職場が、なんかヤクザの事務所みたいでさ」と話のネタにできていたんだけれど、実はオーナーがヤクザみたいなものだったというオチまであって、比喩で済まなくなったわけなんだけれど、そのヤクザの事務所のような応接室で、オーナーの奥さん(旦那と比較すると本当に極々フツーの方に見えた。どういう縁で結婚したらのか気になって仕方がなかった)に、毎月手渡しで給料を頂いていたんだけど、単に給料をもらうだけなのにメチャメチャ緊張したのはいい思い出。
話が脱線してしまったので、時間軸を戻すと、そのヤベェ応接室のあった一階の上に、建物の大きさの割に閑散とした編集部があった。
今の僕がこういうのは完全に間違っているけど、ウダツの上がらない風体の五十歳くらいの男性が形ばかりの編集長みたいなもので、その方と面接をした際に、ことの詳細を知らされる。
大枠を聞くと、どうやらソープランドのオーナーが、自己顕示欲を拗らせたために、ソープランドを中心とした風俗店の情報(と、お飾り程度の地元情報)の雑誌を、多分税金対策か何かで発行しているらしい。
職安に求人を出す関係で、あまりシモのスメルを漂わせるわけにもいかず、それで「地域情報誌」なんて五パーセントくらいしか正しくない、それでも全く嘘ではない話になっていたらしい。
面接は、半分くらいはその謝罪と、ポートフォリオを見ていただいて「いつからこれます?」みたいな話をして終わった。
確か、数時間後には「来週から来て」みたいな電話が携帯にかかってきて、「あー、やっと臨んだ仕事につけた」と思って嬉しかった。
単なる編集者なら、別にMacが使えなかったとしても、特に問題なかったんだけれど、この雑誌のスタッフは本当に少なくて、最終的に僕はライター兼編集者兼デザイナー兼インタビュアー兼カメラマンの助手……、みたいなわけのわからない立場になってた。
もう馬鹿みたいに忙しくて、月の半分くらいは家に帰れなかったけど、馬鹿馬鹿しい仕事をワイワイ騒ぎながら進める感じは悪くはなかったなぁ……。
この職場の話は、短い期間なのに濃い日々だったので、何度か繰り返して思い出して書きたいと思う。
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