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繊細さん一人で飲食店に入れない

皆さんは「団体行動」と「単独行動」どちらがお好きだろうか。
私は、団体行動は気を使うので疲れるが、単独行動も得意ではないという、これまた面倒くさい性質を持っている。

ライブ会場や映画館には抵抗なく一人で行けるのだが、私が苦手な単独行動の代表格として「飲食店に一人で入る」が挙げられる。

ライブや映画だと、受付でチケットを出せば後は放置されるので気が楽だが、飲食店となると(注文したいけど、店員さん忙しそう)とゆう気後れから始まり(ドリアを食べたいけど、店が混む時間帯だから、調理に時間がかかって迷惑かも)などと、厨房事情にまで気を遣ってしまう。
こんなにクヨクヨしながらご飯を食べるぐらいなら、自宅でカップ麺でもすすってる方が百倍マシだ。

数年前、夫が神戸出張に行く際、私も仕事を休めたので出張について行ったことがある。

夫は当然、翌日の朝から仕事なので私はホテルに一人。
仕事に向かう夫を見送った後、部屋にポツンと取り残された私は(あれ?こんな見知らぬ土地で、どうやって今日1日を過ごしたら良いんだろ)と途方に暮れてしまった。

一人で飲食店に入る度胸が無い上に、私はとんでもない方向音痴なのだ。
もしも神戸で迷子になり、宿泊先のホテルに戻れなくなったら大変だし、私にはその可能性が高い。
警察のお世話になりたくないし、かと言って勤務中の夫に電話で助けを求めるなど迷惑千万ではないか。

部屋でテレビを見ながら悩んでいるうちに時間は刻々と正午に近づき、ついに空腹のピークがやって来た。
覚悟を決めた私は、ホテルのロビーに置いてある「近隣のエリアマップ」を握りしめホテルから出てみたものの、神戸の街の華やかさや賑々しさに圧倒されるばかり。
エリアマップを眺めても、どこに向かえば良いのか皆目見当がつかないのである。

困り果てた私は、ホテルの隣にある「銀だこ」を目印に、とにかく真っ直ぐ進むことを決めた。
一カ所も道を曲がらず、直線距離で歩ける区間内に私でも入れそうな飲食店を捜すという「迷子にならない究極の作戦」である。
真っ直ぐ歩いてご飯を食べ、真っ直ぐ帰ってくるだけなら、方向音痴の私でも無事にホテルに戻れるわけで、これ以上安全なルートは他に無い。

ただし前述したように、私は一人で飲食店に入って食事をした経験が殆どない。
生まれ育った地元ですらこの有様なのに、初めて訪れた土地で、見たことも聞いたことも無い飲食店に飛び込むとゆう大胆不敵な行動ができるはずが無いではないか。

そこに加え、お洒落な神戸市民達に(コイツ、観光客だな)と悟られたくないという妙なプライドが芽生えた自意識過剰な私は、ホテルから持ち出したエリアマップをこっそりポケットに隠し、ひたすら直進すること15分。
ついに直線道路が途絶え、私が恐れていた「行き止まり」にぶち当たってしまったのである。

私は、行き止まりの路上でしばし考えた。
そもそもの問題として、私は「飲食店に一人で入る度胸」が皆無なのだ。
もし、この道を曲がった先に素敵な飲食店を見つけたとしても、結局私は一人で入店することが出来ないまま徘徊し続ける事になるであろう。

これ以上、飲食店を捜し歩くのは迷子になる危険性が高まるだけだし、時間と体力の無駄だという結論に至った私は、来た道を真っ直ぐ戻ることにした。

そして、再び歩くこと15分。
無事にホテル前に辿り着いた私は「銀だこ」でタコ焼きを一人前、テイクアウトした。
そこの銀だこでは、うまい棒を1本おまけしてくれるキャンペーンをやっており、私は熱々のタコ焼きとチーズ味のうまい棒を握りしめ、ホテルの部屋に戻ったのである。

部屋の中で一人、熱々のタコ焼きと、うまい棒を堪能した私の心は空しさで一杯になった。
せっかく神戸まで来たのに、見所満載の神戸の町並みを往復30分歩いただけでホテルに戻ってくるなんて、あまりにも勿体ない話である。

結局、その日私が発見したのは「銀だこは、全国どこで食べても美味しい」という1点だけ。
せめて飲食店に一人でも入れる度胸が欲しい…と痛烈に感じた出来事であった。

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