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【エッセイ】部屋の片隅に、在りし日を想う。

そこには猫がいました。
黒っぽい猫で、あんまり鳴かなかったし、あんまり遊ばなかった。
そんな猫が老いたもんだから、そりゃもう余計に動かなくなった。
一日中寝て、三度の食事と幾度かのトイレにだけ起きる。そんな生活を半年くらい過ごした後で、すうっといなくなってしまったんです。

きれいな最期でした。嘘じゃなく、本当に眠りについたみたいに亡くなりました。

亡くなったのは日曜日で、その日のうちに猫の家だの爪とぎだのをすっかり片してしまって、10年ぶりくらいに広々としたリビングで過ごしました。
だけど、そのときは本当に、本当に寂しかった。
彼がいないことが痛いほどわかりましたから。

部屋の片隅を見ると、無いと思っていた想い出がぽつりぽつりと出て、いっしょに過ごした十数年が、たった1平方メートルに詰まっているみたいに思えました。

ありがとう、うちに来てくれて。
ありがとう、ともに過ごしてくれて。

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