デザインルネサンスの時代がくる? Figma Config2024キーワード5選
サンフランシスコで開催される毎年恒例のFigma主催のデザインカンファレンス「Config」。2024年6月下旬、tactoのデザインチームが現地参加してきました。
Config2024は、Figmaの新機能発表をはじめとする60以上のトークセッション、75人以上のスピーカーが登壇し、約1万人もの参加者が集う大規模なイベントです。
事前準備として、参加にあたり何を学びたいのか、自分なりの視点や仮説を持ち、数多くのトークセッションから最適なものを各自が選択しました。
本記事では、各メンバーがおすすめするセッションを、印象的なキーワードとともにご紹介します!
デザイナーが直面するデザインルネサンス
*セッション
The design renaissance
(Reginé Gilbert, James Weldon Johnson, New York University)
*執筆者
Kaname Suzuki
デザインを目先の数年の価値観だけでなく、百年スパンで捉え直すことができるパワフルなセッションです。
レジネ・ギルバート氏はニューヨーク大学のUXデザインの専門家です。現代をイタリアン・ルネサンス、インダストリアル・ルネサンス(産業革命)、バウハウスムーブメント、ハーレム・ルネサンスに系譜的に続く「The design renaissance」だと定義しています。この視点が、まず面白い。
しかし、それが具体的にどのような時代なのかについては、あまり説明がなく、よくわかりませんでした(笑)。そこで私なりに定義してみました。
他のルネサンスと並べると、共通点が見えてきます。
当時「世界で最も先進的な場所」で発生している
直前に「価値観を変える世界的災害」がある
「社会を一変する技術」が広まっている / 大規模な “民主化”が起きている
過去のルネサンスの「主義」をアップデートし、引き継いでいる
これに「The design renaissance」を当てはめると...
「インターネット」で発生
直前にCOVID-19の世界的大流行があった
AIの進化 / “デザイナーの民主化”が進行中
協同主義 (with AI)
「主義」については、「個人主義」や「人間中心」のコアコンセプトは変わらずに、AIを含めた「コラボレーション」の概念が拡張されたと言えそうです。
だからなんだ!と言われると、まあそうなのですが、こういった切り口を元に、今は過去のルネサンスと同等以上の変革期であり、大きなパラダイムシフトが起きているんだと認識することが大事だと思っています(デザインやAIにまつわる情報の受け止め方も変わってくるのではないでしょうか?)。
その他にも「コーヒーマシンは、バリスタを消さなかった」という話や、「AIにできない3つのこと」など、皆さんの興味を満たすはずの話題もありました。
一見の価値があるセッションです。
自然に立ち返る
*セッション
Finding inspiration in nature: the science of creature design
(Simon Green)
*執筆者
Kazuya Sakamoto
世界中のデザイナーがどのように着想を得て、それを形にしていくのか。この創造プロセスを探るべく、Config2024に参加し、「着想を形にするまでの思考方法を探る」というテーマで臨みました。
Simon氏によるこのセッションは、自然からインスピレーションを得ることの重要性を生物学、進化論、そして自身のクリーチャー制作プロセスから解説。
自然のデザイン原則というものは、現実的なデザイン・効果的なデザインを作成する上で役立つ一連のルールであり、世のデザインは自然界のどこにでもあると述べています。
ザトウクジラのヒレの構造がプロペラに、サメの鱗の構造が医療器具に応用されている例を挙げ、自然界に存在する解決策の豊かさを示しました。さらに、古代ギリシャでの象の頭蓋骨の誤解釈がサイクロプス神話の起源となった例を通じて、人間の創造性と自然の密接な関係性を説明しました。
特に興味深かったのは、UIデザインにも自然の原理が適用できるという指摘です。現代のデザインで頻繁に見られるカラフルで光沢のあるハイライトカラーのボタンは、人間の進化的な本能を巧みに利用していると言います。
初期の霊長類が果実を探すために発達させた優れた色覚が、現代人のUIへの反応にも影響を与えており、鮮やかなボタンへの注目は、果実を見つけた時と同様のドーパミン反応を引き起こすのだそうです。
どんなデザインでも、それを見た時の感情は生物学的な本能に基づくものが多いため、自然から着想を得ることは理にかなっていると感じました。さらに自然淘汰により形成された生態系には、環境に適応した機能が備わっており、これらが様々な問題解決のヒントとなります。
このセッションを通じて、自然の偉大さを再認識し、デザインにおける自然との新たな向き合い方を考えるきっかけとなりました。
デザインシステムの次は、AIデザインシステム
*セッション
Building an AI design system at scale
(Phillip Maggs, Creative Director, Superside)
*執筆者
Ayaka Mita
Phillip Maggs氏による、AIを取り入れたデザインシステムの実現についてのセッション。
ブランド固有のデータを学習したナレッジグラフの構築により、デザインプロセスが劇的に変化する可能性があると言います。
このセッションで紹介されたデザインシステムは、ブランドの本質を深く洞察し、ロゴやUIデザインから写真、さらにはキャンペーンコピーまで、ブランドの個性を反映した多様なクリエイティブ制作を自動化できるようになる。それにより、時間と労力が大幅に削減され、クリエイティブプロセスの効率が飛躍的に向上すると期待できるとのこと。要するに、AIがブランドの全データを学習し、専属デザイナーのように機能する未来が来ると。デモでは、簡単な選択肢入力だけで、AIがFigma上にブランド独自のメルマガデザインを自動生成する革新的なプロセスを披露していました。華麗すぎる。。
このセッションを通して考えたことは2つ。
ブランドデータの一貫性確立が急務
AIに学習させる準備段階として、デザインシステムを含むあらゆるブランドデータのルールを一貫性のあるものに整備する作業が増加するのでは?正解事例だけでなく不正解事例も定義するなど、AIの学習効率を高める新しいアプローチが必要となりそう。AIデザイン時代における独自性の追求
生成されるデザインはどこまで独自性があるのか。初期段階では、類似したクリエイティブが氾濫する可能性が高い。 未来のデザイナーには、AIが生成したものをディレクションする能力や、よりシビアに差別化できるものを生み出す力が必要になるだろう。
最後に、Phillip Maggs氏は、自身も技術者でデザインにリスペクトを示した上で、AIの導入はデザイナーの創造的な作業時間を増やすためであり、最終的な決定権はデザイナーであると述べていました。デザイナーが素直に受け入れられる言い回しに配慮されていたのも印象的でした。戦略的だったとしても優しい…
私たちが住む世界は本質的に3Dであり、それを理解し、説明するには3Dが必要
*セッション
Designing across dimensions
(Gábor Pribék, Head of Product Design, Spline)
*執筆者
Seshiru Tanpo
3Dがデザインに与える影響と、新しいテクノロジーとの融合について紹介するセッション。元々、3Dとデザインが融合することで表現の幅がどのくらい広がるのか興味がありました。3Dデザインツールの「Spline(スプライン)」のデザイナーが登壇するこのセッションで、将来的な重要性を見据え、ツールの機能や特徴を今のうちに理解しておきたいと考えました。
ガボール氏によると、「3Dは体験を伝えるために存在し、知識がない人にも分かりやすく伝えるための手段」と言います。
3Dデザインの効果的な事例として
Coastal Community Bankが開発した、複雑な金融知識をゲーム感覚で学べるインタラクティブな教育ツール「CoastalWorld」や地球温暖化を可視化する3Dツール「A Century of Surface Temperature Anomalies」などを挙げていました。
3Dデザインツールの進化は高度なインタラクティブ体験を可能にしましたが、技術習得の難しさや複雑なワークフローなどの課題があります。これらの問題に対し、AIを活用した解決策が期待されており、Splineはよりリアルなモデリングを短時間で行える技術を開発中です。
将来的には、より洗練された3Dデザインが普及すると予想されますが、視覚的魅力とユーザビリティのバランスが重要になります。過度なエフェクトやアニメーションは情報伝達を妨げる可能性があるため、デザイナーは慎重なアプローチが必要です。そのバランスが取れたときにWEB上での良い3D体験を実現できると思うので、デザイナーとしてこれからも豊かな視覚体験とスムーズなナビゲーションの学習を進めていきたいです。
歴史は繰り返さないが、時に韻を踏むことがある
*セッション
Courage against conformity
(Emily Sneddon & Taamy Amaize, COLLINS)
*執筆者
Kohei Futakuchi
サンフランシスコのデザインファーム、コリンズのセッション。
「魅力的な未来をデザインする」をミッションとする彼らのメソッドがとても興味深く、ブラックボックス化しがちなデザインの思考プロセスが言語化されていて聞き入ってしまいました。
まず彼ら曰く「アイデアが世に出るとき、人は新しいものや見慣れないものを受け入れにくい性質にある。デザイナーはそれを浸透させる責任がある。」
それらを果たすための理念とアプローチが語られました。
コリンズは「歴史は繰り返さないが、時に韻を踏むことがある」という小説家マーク・トウェインの言葉にインスパイアされています。
過去を紐解き、これまで人類が直面した課題をどう克服してきたのか知り、物語をどう導くか見つける。5,500冊のオフィス図書館もこの理念を体現しているようでした。
そこから3つのアプローチを採用しています。
新しい認識を引き出す:クライアントが自社の製品やサービスを超えて、新たな視点で自己認識する手助けをする。
馴染みあるものに紐づかせる:歴史や詩、科学、哲学などを参考に、新しい認識を既存の文脈に紐づかせる。
新しい行動へ導く:馴染みのある基盤の上に新しい行動を促し、革新的でありながら理解しやすいデザインを実現する。
これらを実践した事例として、保険会社「Next Insurance」とデザインツール「Figma」が紹介されました。
新しいアイデアを歴史的土台の上に展開しながら落とし込んでいく手法は、ビジネスにおいて右脳と左脳を行き来する見習いたい姿勢であるとともに、人類へのリスペクトを感じられる気持ち良さがあります。
何よりAI全盛、ともすればクラフトマンシップが危ぶまれる現代において、企画倒れで終わらない彼らの確かな定着力に勇気づけられるセッションでした。
クラフトマンシップが単に技術のことではなく、先人の集合知を受け継ぎより良く磨いていきたいと願う姿勢なのかもと考えると、人間にできることはまだまだあるのでは?と感じずにはいられません。
Config2024を振り返ると、「AI」が主要なテーマとして扱われていたことが印象的でした。AIの登場で「デザイナーの仕事がなくなる」なんて心配する声もありますが、むしろ逆かもしれません。AIは私たちに、「人間にしかできないこと」は何なのか、自分の仕事に立ち戻り、見つめ直す機会を与えてくれている。クリエイティビティの本質、ユーザーへの共感、文脈を読み取る力...。AIと向き合うことで、私たち自身の価値や強みを再発見できるはずです。
最後に、この記事を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。「へー、こんなことできるんだ」とか「あ、これ使えそう!」なんて思っていただけたら幸いです。