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第44回: 世界ランキング1位のソニックロゴ、その秘密を科学的に分析しよう(後編)

音声広告の分析を手掛ける英国の機関が発行したソニック・ロゴの世界ランキングで1位となったアメリカの大手保険会社ファーマーズ・インシュランス社。

前編に引き続き「世界一位のソニック・ロゴ」を音楽的検証とオーラル表現の角度から、科学的に分析してみましょう。

音楽理論から考えるソニック・ロゴ

~「人びとの安心と生活を大地のように支える保険会社」

ファーマーズ社のソニック・ロゴのメロディとキャッチ・ナレーションの配分は、「♪We(ド)-Are(ソ)-Far(ミ)-mers(ド), bum(ド)-ba(ド)-dum(ソ)-bum(ソ)-bum(ソ)-bum(シ)-bum(ド)」ですね。

ハ長調の三和音(ド-ミ-ソ)の構成音の根音「ド」から下降し、5度の属音「ソ」を用いることにより主音の「ド」が「We」すなわちファーマーズ社であることが意思をもって際立たち、自社を主張することに成功しています。

では、なぜ、二音目を5度上昇させないのでしょうか?

音を上昇させるとヒトは「牽引、革新、未来」などを連想することとなりますが、一方で逆に下降させることで根音の「ド」が、人々の安心を支える保険会社であるファーマーズが「支える、サポートする」感じを醸し出すことに成功しています。和声学でも属音はサポートする機能を持つのです。

信用と信頼:大地に根差し着実に安心・安定しながらも明るく親切で快活に!

「Are」の「ソ」から「Farmers」の「Far」は「ミ」であり長6度の上昇をしており、以下の印象を与えます。

感覚:Radiant・光り輝く、Light・軽やか、Desirous・願いや望み
感情: Effusiveness・あふれんばかりの感情、Kindness・親切さ、Pleasant・楽しさ
知覚: Satisfaction・満足、 Gratification・満ち足りた喜び、Bright・快活な

また、そもそもこの部分はハ長調和音の第二転回型であり、「♪ソーミの」長6度は美しいハーモニーとなる音の幅であり、それぞれの独立性を保ちつつ、互いがよく調和する意味合いを持ちます。

また、「Far」の「ミ」から「ーmers」の「ド」へ長3度の下降は以下の印象を与える機能があります。

感覚: Strong・力強さ、 Cheerful・快活性、 Quiet・平和、 Pure・純粋
感情: Happiness・幸せ、 Pleasant・楽しさ
知覚: Hope・希望、 Balance・調和、 Right・正しさ、 Stable・安定

更に、主音の「ド」に帰還することにより、信頼・安定・着地などの確固たる意味合いを併せ持つ。対位法上、この「♪ミード」の関係は互いによく調和させ、安定感を持たせる意味合いを持ちます。

bum(ド)-ba(ド)-dum(ソ)-bum(ソ)-bum(ソ)-bum(シ)-bum(ド)!!!!

メロディの最後では、言葉を用いずに、濁音で無骨なフォーリーサウンド(擬態音)を力強いサウンドで奏でています。ここではファーマーズ社設立時からの大地に根付いた男性的な力強さを表現し、人々が描くFarmer=農業生産者のイメージ(バイアス)にマッチしたサウンド効果を得ることに成功しています。

また、メロディーの移行も、最後から2番目のサウンドは「シ」から「ド」へ、導音を用いており、着実な橋渡しで主音の「ド」へ解決させています。仮に導音の「シ」がなく直接「ソ」から「ド」で音楽が終了すると、「誰かによる介入やサポートによる解決」の感情を無意識の中に感じられなくなります。従い、まず「ソ」から「シ」、その後「シ」から「ド」 に解決することによって、Farmersすなわち農業生産者の力強いサウンドが一歩一歩着実に消費者を牽引してサポートして解決する感じを与えることができています。

このように、私たちがファーマーズ社のソニック・ロゴを聞いて「なんとなく」感じた、「明るさ、安定している感じ、力強い大地に根差した信頼感のようなもの」は、意図をもって戦略的に制作されたと考えられます。

また本CMに登場している俳優、J.K. Simmonsさんがファーマーズ・インシュランスのキャラクターとして同社の他のCMに出演していることが多いのですが、極めて中立的なキャラクター設定で、声質も良い意味で特徴がなく、あえてそういった俳優を選んでいると推測されます。これにより、視聴者にも心理的なバイアスがかからないため、俳優選出も細部にわたって気を配り選出していると推測することができます。

では、このソニック・ロゴ、改善すべき点はあるの?

ファーマーズ・インシュランスの本音声コンテンツおよびソニック・ロゴはリスク発信の可能性は低く、目立って改善が必要な点はないと考えられます。まず同社の企業理念・メッセージやアメリカの保険業界における同社のポジショニングなどを強く感じることができますね。決して一部の富裕層向けの保険ではなく、その名「ファーマーズ(農業生産者)」が表現する通り幅広い層の消費者に向けて「大地に根差した力強さと包容力を感じさせるサポート」を音を通じて発信しています。更にオーラル表現や音楽表現、視聴者に及ぼす心理的効果ももすべて齟齬を起こすことなく合致しており、自社の理念、メッセージ、立ち位置などを正しく認識しており、極めて科学的に検討され構築された優良な音声コンテンツと考えることができます。

コロナ禍の2020年は人々は家にこもっており、2021年度の格付けにおいては本ソニック・ロゴの破天荒な明るさが好感を持って迎えられました。心理学の世界におけるゴールデンルールとして、商品とCMに出てくるキャラクターや事象がシンクロしすぎるのは忌避すべきという考え方があります。(例:ソーセージのCMにフレッシュさを表現するために可愛らしい子豚を登場させるのは逆効果。)このような意味においても、本来人生を左右する可能性のある事件・事故をカバーする保険のCMが忌避すべき「悲しい悲惨な事故、大損失」を消費者に連想させることなく、とても明るい印象を植え付けたのは大成功です。

総評
1.ファーマーズ社の当ロゴは一見、底抜けに明るくコミカルで「おふざけ」のようなサウンドに聞こえますが、自社のソニック・アンセム、音楽理論、心理学に基づき科学的に意図的に設計された極めて秀逸な戦略的ソニック・ロゴであり、高いスコア・高評価を得るのは当然!

2.ホームページやYouTube上に公開されている同社の複数のCMのソニック・ロゴは今回分析を行った「♪We are farmers, bum ba dum bum bum bum bum」(社名、キャッチ・ナレーション、タグライン、コーラス構成・力強いサウンド、ハ長調)の1パターンで統一されており、一度聴いたら忘れることができない強烈な印象を残します。

3.更にソニック・ロゴに社名が含まれているため一度聞いた視聴者は「ファーマーズ・インシュランス」なる保険会社があることを忘れることはない

最後に・・。

もう一度繰り返します。このように、私たちがファーマーズ社のソニック・ロゴを聞いて「なんとなく」感じた、「明るさ、安定している感じ、力強い大地に根差した信頼感のようなもの」は、意図をもって戦略的に作曲されたと考えられます。

逆に言うと・・ 

企業理念やメッセージを言葉に加え、科学的に構築された『音=周波数』を通じても正しく発信することで、お客様の感情に訴え、永く記憶に残し、共感や永続的な感情の繋がりを創ることができる。

つまり「お客様の購買行動喚起とロイヤリティ醸成」は、科学的に・意図的に創り出すことができるのです。

さて、次回・ 日本を代表する「あの会社」のソニック・ロゴを分析します。クルマは革新し、未来に向けて走り出すのか・・!?お楽しみに!


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