見出し画像

第10回:「なぜだろう、フランスワインが飲みたい気がする・・」

「アレ。」とは少し違います。

雨が降り出すとデパートの館内放送で「雨に歌えば」が流れ、従業員に雨が降り出したことを言葉ではなく音楽で伝える。また、万引き犯が出没すると「ロッキー」が流れる、なんていう嘘か誠か都市伝説のようなものがありますよね。デパートの店員さんが洗面に席を外す時に「お花摘みに行って参ります。」なんていうのもありますが、これらは全部含めて「その場に情報を伝えるべき人とそうでない人がいるので、伝えたい人にだけ情報を伝えることを目的とした<山と言えば川>式の隠語」のようなものでしょう。

一方、ソニック・アーキテクトの世界では音を利用した「プライミング効果」の研究があります。「プライミング効果」とは、隠語でも怪しげなサブリミナル効果でもなく、心理学の効果です。ソニック・アーキテクトは音楽・音・サウンドの専門家であると同時に、「音やサウンドがヒトの感情・記憶・行動に与える影響」を心理学の側面からも研究しているからこそ、ソニック・アーキテクトなのです。

毎度「帝釈天で産湯を使い方式」で申し上げますが、「音やサウンド」=周波数の表現はヒトの「感情」を引き出し、動かし、「記憶」を呼び起こし、「行動」を喚起することができます。 

プライミング効果とは、まず予め受けた刺激や記憶があり、後に受けた刺激で無意識のうちに行動が促進・変容することを指します。例えば・・・

「リ〇〇」という言葉がありますが、これはいったい何でしょうか?

漫才師のミルクボーイさん風にいうと

「うちのオカンがね 好きなくだものがあるらしいんやけど その名前をちょっと忘れたらしくてね」

「ほな一緒に考えてあげるから、どんな特徴ゆうてたかってのを教えてみてよ」

「リではじまってな 赤いしゃきしゃきした果物っていうねんな」

この場合、答えは当然「リンゴ」なわけですが、誰もはっきりと「リンゴ」という言葉は耳にしてませんが、「赤しゃきしゃきした果物」という情報を予め伝えられているだけでも、「明らかにりんごを連想する」という効果が生まれるわけですね。

同様に、事前に「両国で・・」とか「ちゃんこ鍋が」とか「国技館で・・」とか「格闘技で・・」などと聞いていたら「り〇〇」の後ろの二文字の答えは「(り)きし」(力士)になるかもしれません。

サウンドでもこれと同じ「言わずとも」の連想効果を発揮することができます。予め聞いたことのある音やサウンド、楽曲が物事の選択や決定、行動のトリガーとなりヒトを誘導できます。従い、この効果を利用し、視聴者の記憶に潜在的に音をインプットさせ、店舗やレストランなどの音楽やBGMでお客様の記憶と感情に働きかけ、商品選択・購買決定につなげることができます。これを・・

サウンド・プライミング効果

と呼ぶわけです。

実際にこのようなサウンド・プライミングは大変熱心に研究されています。消費者のワインの選択に関するBGMの影響を調査した研究(注)によると、酒屋さんでフランス風、ドイツ風とすぐわかるようなBGMを日替わりで流し、どこの産地のワインが実際に買われたかを調査しました。

結果はお見事、フランス風のBGMが流れた日はフランスワインの購入率が上がり、ドイツ風のサウンドが流れた日がドイツワインの購入率が上がったそうです。

そうですよね。

シャンソンが流れてたらよほど強い意思や今日の献立がアクア・パッツァでもない限りイタリアワイン、買いませんよね。

このように、ふと流れているBGMやサウンド、楽曲で、お客様が脳内に蓄積しているイメージや記憶を引き出させ、購入してほしい商品へと誘導するトリガーとすることができます。

つまり、正しい音楽、楽曲、BGM、サウンドの選択は正しいマーケティング戦略である、というわけなのです。今日のお話はとてもわかりやすい事例ではないでしょうか。次回は、サウンドやBGMのテンポが売上に影響するのか、についてお話してみたいと思います。

(注)North, A,C,m Hargreaves, D.J. and McKendrick, J. (1999). The effect of in-store music on wine selections Journal of Applied Psychology. 84 (2). pp.271-276.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?