ニンジャスレイヤーTRPGソロリプレイ:「イーブン・ア・スモール・ビートル・ハヴ・ゼム・プレイス」
◆前書◆ドーモ、Tac.Tと申します。この記事はTwitter上で独自に実施したニンジャスレイヤーTRPGのソロプレイを、少々の加筆修正とオリジナルのストーリーを加えて公開したものです。◆よく分からない方は、ダイスを振って展開を決める、ニンジャスレイヤーの二次創作とお考えください。◆生存◆
◆前書◆このシリーズはニンジャスレイヤーTRPGを、キャンペーン方式で独自にプレイし、文章化するという試みです。今回はあの飲兵衛スナイパーのソロシナリオだ!◆生存◆
◆◆◆STILL'A'LIVE_NJSLYR SIDE SECTION◆◆◆
………カネが無い。
バーのカウンターでくつろぐ女は、その事実を受け入れたく無いとばかりにスコッチとズブロッカのカクテルをグッと仰いだ。すでに彼女からは濃厚なサケの臭いが漂っている。まぶたは眠たげに下がり始め、その顔は酔いに紅潮している。
どうしてこんな事になったのか、正直彼女にもよく分からない。ただ旨そうなサケを片っ端から頼み、それらをさして考えもせずに混ぜ合わせ、独自のカクテルめいたサケをバーで作って毎晩呑んだくれていただけである。銃を新調したわけでも、弾薬を買い込んだわけでも無い。女は不思議そうに頭をかいた。
「スナイパー=サン…もうお店終わりですよ」「やだァもっと呑む」「そう言われても4日連続で居座られても困りますよ」「だァって宿代無いんだもん」「とにかくお会計は10万ですから」「アイ、アイ」黒いスーツの懐から女は黒い財布を取り出し、万札を店主に渡そうとして…カネが既に無い事に気づいた。
「ア……」「もう無いんですか」「……ウン」店主はため息をついた。「今月何度目ですか」「ゴメン、ツケといて」「もうダメです」「お願いだからって」「ダメです」「ケチィ」女はわざとらしくしかめ面をしてみせる。店主は呆れたようにまたため息をつく。彼女は曲がりなりにも常連客だ。どうするか…
…ふと店主が記憶の中から、ついこの間来店した客の様子を探り出した。筋骨隆々の男…頭には高度なマスクであろうか、リアルなサイの頭部が被さっている。確か腕利きの仕事人を探しているとか何とか言っていたような?「…スナイパー=サン、いい加減仕事したほうがいいんじゃないですか?」「あ〜…」
◆今回はトラッシュ=サンの樹液サイ集をプレイしていくぞ!◆
◆前回のこのニンジャの収穫◆
万札…フロシキの10+ラオモトからの10、合計20獲得
DKK…1獲得
その他…トロ粉末、偉大なるショドー、マッスルニンジャとの縁
◆余暇の結果◆
1日目:カラテトレーニング:ダイス出目1,6:成功
2日目:ワザマエトレーニング:ダイス出目2,2:失敗
…黒いスーツ、黒いロングヘアー、黒いギターケースを背負った女は、ふらりとバーのドアを開けて出た。ふらりと目指すはトコロザワ。サイ頭の男がいるとか言うスシ屋。もっとも、サイ頭の人間なんて彼女は信じたくなかったが…
◆ライトシーカー(種別:ニンジャ,ソウカイヤに近いフリーランス)
カラテ 4 体力 4
ニューロン 4 精神力 4
ワザマエ 4 脚力 2
ジツ 2 万札 20
ジツ:ヒカリ・ジツ(freikugel7=サン製)
その他:『生体LAN端子』『銃器: ミハル社製カスタム・スナイパーライフル「愛銃」…ダメージD3、小銃、対ニンジャ仕様、移動後射撃不可』
◆時系列とステータスの矛盾は気にしてはいけない。いいね?◆
◆◆◆
数刻後。「…被りものにしても、この季節に暑くねえか?」「ン?いや、これが俺の頭なのだが…」「…ああそう」ライトシーカーはサーモン・スシにショーユを浸し、大口を開けて食らった。彼女の目の前の大柄な影が、その様を見て指を組む。
「こちらこそ、ファッションにケチをつけるつもりは無いが、この季節にその長髪は暑くないのか…?」「いや普通に伸ばしている奴いるやん、女だと…」「何⁉︎女装家だというのか⁉︎」「いやアタシ女なんだけど」「だが胸が無いではないか!」「ハッ倒すぞテメー」夜のスシ・パーティは平和に過ぎる。
ライトシーカーの目の前に座る者の風体は、大柄な肉体に、野生動物めいて密度の濃い筋肉。頭に搭載されたサイそのものの頭は、彼が言葉を開くたびにピクピクと耳を動かし、黒い瞳を瞬かせる。時折吐かれる大きな鼻息は、ライトシーカーの長い黒髪を揺らす。控えめに言っても非常に目立つこの男の名はセイントサイ。今回の依頼人である。
ライトシーカーはさらにセイントサイの様子を見る。装束にはクロスカタナ紋、そして腰にはブラックベルト。そう……彼はネオサイタマの裏社会を支配するニンジャ組織、ソウカイ・シンジケートのニンジャである。そして黒いスーツを身に纏い、クロスカタナのニンジャ装束を身に纏ってはいないとは言え…ここにいるライトシーカーもまた、ニンジャであった。そもここは、ソウカイ・シンジケート本部、トコロザワ・ピラーの内部に入居するスシ屋である。店主も客も全てニンジャであることは想像に難くない…
「…女のニンジャというものがいるのか。未だに信じられん」「いや大多数の人間がサイ頭のニンジャを信じられんって言うだろうよ」彼の頭は作り物などではない。本物である。ヨロシサンの高度バイオサイバネティクス技術の髄を集めた賜物…であるのだろう。少なくともライトシーカーはそう思うことにした。
「ただでさえニンジャだってのに…サイ?サイ頭の…ニンジャ⁉︎しかも筋肉ムキムキの!いやまっさか……買い物とかどうしてんのさ」「ウ〜ム、基本はトコロザワ・ピラーの中で全て賄えるからな…」「ヒマじゃない?今度なんか良いマスクかなんか買ってこようか?」「いや、そこまでは別に構わない。案外高度な被り物と思われるものだ」「………ヘ〜〜〜〜…」ライトシーカーの顔が少々引きつる…
このセイントサイ、見た目こそ異様であるが、話してみると案外気の良い男であり、ライトシーカーのしきりに鳴る腹の虫の音を聞いてか、彼女にスシを2セットも奢って見せたのである。現在彼女が食らうスシゲタはその2セット目であり、その側にはガリまできれいに平らげられたスシゲタも置いてあった。
スシのお代わりを食い終わり、爪楊枝で歯をひとしきり弄ると、ライトシーカーはセイントサイの方に向き直る。「それで…ビズの話ね」セイントサイは奥ゆかしく待ち、それから話し始めた。「ああ。まずはじめに、俺は今オーガニック・カブトムシを飼っている。慎ましく、しかし勇ましいできるやつだ。」
「ウン。カブトムシ…オーガニック?そりゃすごい」噂に聞いたことはある。オクタマ・ジャングルはオーガニック・カブトムシの生息地。売ればそれなりのカネが手に入るほど希少価値が高く、ビートルハンターたちが毎年こぞってビートルハントへと赴く。彼はその数少ない成功者なのであろう。「ああ。だが奴とて所詮は非ニンジャのカブトムシ……いずれ死ぬだろう。俺とて覚悟はできている」
「非ニンジャの相棒を持つニンジャの定めだね」ライトシーカーは適当に相槌を打つ。「奴がくたばってしまう前になにかしてやれないかと思っていた俺は…耳よりな情報を手に入れたのだ」そう言うと、セイントサイは懐からIRC端末を取り出し、ある写真を彼女に見せた。オーガニック・オニクルミの樹だ。
「…コイツはどこに?」「カブト・ストリート近隣のカチグミ向け自然公園に聳え立っている。どうも電子戦争以前からあるらしい…」「へえ、電子戦争を生き延びたんだ〜…」セイントサイは息巻き、耳をパタつかせながらさらに続ける。「樹液は滋養強壮に優れている。奴へのはなむけとしては十分だ!」
「…普通に樹液を取っても良いと思うんだけどねえ…あ、そうかダ〜メだわこりゃ」同じく自らのIRC端末で自然公園のページを調べていたライトシーカーは、入場予約が埋まっていることに気づいた。「ウム…カチグミどもで向こう数カ月は満杯なのだ…」「9か月もカブトムシ待ってらんないわな…流石に…」
「うん。大体話が読めたよ…アタシはそこに不法侵入カマして、オニクルミの樹液をガメてくりゃあいいワケだ」「ウム。だが…」セイントサイはサイ頭の眉根を器用に寄せる。「…実は管理団体はソウカイヤとは非協力関係で、その厳重な警備を売りにしているのだ」「ああ、じゃそのジャマもしてこいと」
「ああ。俺たちが侵入することで連中の信用を地に落とし、シンジケートのさらなる利権拡大すら望めるわけだ。だが…万が一しくじり捕まろうものならケジメでは済まない罰をうけるだろう。二つに一つだ。」「…え、待って」ライトシーカーが少々の困惑とともにサイ頭を見る。「アンタもついてくんの」
「ン?おお!お前に使い走りをさせるような真似はせん…!」その瞳は決断的な輝きを増し、そのツノは何があろうと仲間を守らんと奮い立ち、その耳は危険な任務に彼女を巻き込まんとする罪悪感に震えていた。(……マイッタぞ…アタシが四番目に苦手なタイプだコイツ…)ライトシーカーは心中頭を抱えた。
NSPDを抜けてからは、ライトシーカーはよほどのことがない限りは基本的に一人で任務をこなしてきた。理由というのも、同行者が死ぬだの怪我をするだのと無駄な心配をしなくて済むためだ。彼女のヤクザ暗殺エージェントとしての仕事の成功率は、それらの条件からくる的確な判断力から来ている。だが…
…目の前のニンジャはそれを知ってか知らずか、自分の任務に同行すると言いだしたではないか!ことに彼はスシを奢って外堀を埋めにきているばかりか、曇りなき瞳で彼女に(少なくとも彼女に取っては明らかに過度な)期待の念を抱いているとみられる…
それに付け加えるならば、セイントサイ自体も彼女のタイプとは正反対な筋骨隆々な大男である…(彼女の性癖はここでは言及しないほうがいいだろう)「……」ライトシーカーは少々悩ましげに眉間をつまんだ。「どうだ?受けてくれるか?」セイントサイのサイ頭が、テーブル越しに少しずつせり出してくる。
「……わかったよ。依頼を受けるよ」彼女はとやかく考えるのをやめ、両手を広げて見せた。「まあ、スシを2セットも奢ってもらったんだし、今更お断りしますってのも無いもんね」「おおっ、やってくれるか!ウオーッ!」息を潜めて彼女の返答を待ちかねていたセイントサイは、体を歓喜に躍動させる!
「ヒッ!?」イタマエ驚愕!「ワッ!急に立ち上がるなっての!」ライトシーカーも思わず立ち上がりなだめる!「お、おお、スマナイ、つい嬉しくてな…」セイントサイはおとなしく座るも、その筋肉はまだピクつき、体内ではニンジャアドレナリンが駆け巡っている!「いや、そんなんで大丈夫かアンタ…」
「おおっ!では明日の晩、ウシミツ・アワーに例の公園の入り口に来てくれ!」「ちょい待ち!」息巻くセイントサイに、ライトシーカーは片手でマッタをかけた。「何…?」「…あのさ、わざわざアンタがついていく理由だけ教えてくんない?アタシ基本的に一人で仕事するクチだからさ…」
◆◆◆
――――…
草木も眠るウシミツ・アワー。 自然公園の正門近くの集合地点でセイントサイと合流したライトシーカーは、公園の周辺を徘徊しつつ、その裏口を二人で共に探っていた。ネオサイタマの広告ネオン群はこの辺りには少なく、黒ずくめの彼女の姿と、同行人の巨大なサイ頭を夜闇が隠す。
…ニンジャ視力をお持ちの読者諸氏ならばお気づきになるであろう。大柄な異形頭の影と、それに比して幾分か小柄な影と、もう一つ。その頭上を飛び回る小さな影の存在を。小さな影は大柄な影に付き従うように、ぬるま湯めいてまだ生暖かいネオサイタマの夜の空気の中を滑空していた。
「…な〜るほど。採れたての樹液を直に飲ませたかったワケね」ライトシーカーはその小さな影を一瞥するなり呟いた。彼らの傍らを滑空するのは、体表を奥ゆかしく美しい茶色に輝かせる、オーガニック・カブトムシであった。「ウム。出来ることなら自然のまま、直に樹液を飲ませてやろうと思ってな」
「そういうことなら、まあ…アタシにカブトムシを預けるわけにもいかんだろし」ライトシーカーの背中には、黒いギターケースが背負われている。中に収まっているのは彼女の『愛銃』、ミハル社製スナイパーライフルE-3型改善。「それにアンタ見た目からして、そこまで器用じゃなさそうだもんね」
「実際俺はハッキングやら鍵開けやら、精密さを求められる場面が苦手なのだ…!来てくれて助かったぞ!」セイントサイは喜びに頭部のツノを震わす。…やがて、二人と一匹の目の前に、自然公園の裏口らしき門が見えてきた。青銅色の金属製の隔壁は、セイントサイの頭部以上に重々しく閉ざされている。
「例えば…こういう場面でアタシの出番が来るってワケか」ライトシーカーが門の端を指差す。見ると夜闇の中に、電子ロック端末の画面がポツンと光っている。「おお!済まないが、よろしく頼むぞ!」「OK…」彼女は首筋の端子と端末とを特殊なケーブルで繋ぐと、慎重にハッキングを始めた。
◆電子的ハッキング、あるいは物理的ハッキングが求められる局面だ。あなたは自分のステータスのニューロン、ワザマエどちらを使うか決め、その数値分ダイスを振ること。◆今回はニューロンを選んでハックするぞ!◆
[ハッキング判定NORMAL:4,4,4,6+2:成功]
◆ステータスが全部4なのでやりやすいぜ!◆
接続して数秒。ライトシーカーの体が小刻みに震え、目が一瞬白目を剥く。ガチリ。大きく錠前が外れる音がし、青銅門の片方が数ミリ奥へと沈んだ。「ウオーッ!なかなかやるな!」息巻くセイントサイを、ライトシーカーは片手で制した。「デカい声を出すなっての…!まだ鍵が開いただけだ、静かに!」
「ウオーッ…!そうだったな…!先を急ごう…!」セイントサイは改めて小声で息巻く!…二人は門を静かにくぐり抜け、音もなく自然公園内へと入っていった。カチグミ向けに整地され、昼間は小洒落たアトモスフィアも漂っているであろう公園内は、今は不気味なほどに静まり返っていた。
夜間の非常用照明。遠巻きに見える子供向けのメリー・ゴー・ラウンド。「ウェルカムこちら」とプリントされたカチグミ向けアロママシン。夜の来客は想定していないらしく、多くの機器が沈黙している。さらにそれらすべてが手入れが行き届いたままであることが、ライトシーカーの不安心を少し誘う。
「ヌウ…不気味なものだな…」アトモスフィアを感じ取ってか、セイントサイが思わずこぼした。ライトシーカーが歩みを進め始める。「…ウシミツ・アワーの遊園地に入ってみたことある?」不意に口を開き、セイントサイに問うた。「何?」「昼間は賑やかで、人で溢れてて、陽気で明るい場所がだよ?」
「ウム…」「夜になった途端、こうだ。手のひらを返したかのように、冷たくなっちまう。」大柄な影と、小柄な影が、音もなく歩みを進める。「…まるで人間みたいだね?」ライトシーカーの口元が、歪む。「…ヌウ?どういう…」「いや、何でもないや。忘れて」呆気にとられた彼の疑問を、彼女は遮った。
…二人と一匹が散策がてら、しばらく夜の公園を探っていると、遠くから人の気配がした。「オイ、あれは…」「シッ」二人がニンジャ視力で気配の方を見やると、懐中電灯を右手に持った警備員が、夜間巡回に励んでいるようだった。「非ニンジャのクズ警備員か…」セイントサイが小さく呟く。
◆ワザマエで潜伏してもいいし、カラテで高い樹木に飛び乗って難を逃れてもいい。どちらも難易度はNORMALだ。◆
[ワザマエ判定NORMAL:3,1,1,4+1:成功]
◆ギリギリィ!?◆
「突っ立ってないで、ホラ…!」「ヌゥーッ…!」ライトシーカーはセイントサイを引き、音もなく道端の植え込みの向こうに姿を隠した。…植え込みの前を警備員が通り過ぎる。その手にあるのは…懐中電灯と一体型の致死的スタンガン!「おお!そんなところまで…!」「アレ食らうと流石にマズいからね」
◆謎のニューロン判定がここで入ります◆
[ニューロン判定U-HARD:5,2,3,6:成功]
◆ワオ◆
「…しかし、非ニンジャのクズ相手にも福利厚生が行き届いていることだなあ……」セイントサイがひとりごちる。つられてライトシーカーが彼の視線の先を見てみる。警備員の背中には小型の扇風機。「………?」淡く黄色い燐光を放つ彼女の瞳は、扇風機の一点に視線を集中させた。「…ちょっと待ってな」
◆ワザマエ判定HARDで判定、成功すればミネウチ成功(DKK無し)◆
[ワザマエ判定HARD4,6,6,2+5:成功]
◆ワザマエ!◆
「………」警備員の後ろから、黒いスーツの女が中腰姿勢で近づく。革靴を履いているというのに音も無く、気配を悟らせることもない。「………?」警備員が何と無く違和感を感じ、一瞬立ち止まる。その瞬間!「イヤーッ!」「グワーッ!」後頭部に手刀!倒れふす警備員!「グワッ……」まだ意識がある!
「アッヤベ」「き…君」「イヤーッ!」「アバーッ!」「………アラ?」警備員のほおを叩く。首筋の脈を見てみる。心音を確認。「…………アッブネェ…」手加減が効いたか、警備員は一命を取り留めているようであった。「前職といい、なぁんかアタシこのテの連中に妙な縁無いか?」
「で…どうだった?何を見つけた?」セイントサイがはやる気持ちを抑えられないといった様子でライトシーカーに近づく。彼女は警備員から小型扇風機を剥ぎ取ると、セイントサイに見せつけた。「見てみるとさ、おんなじロゴなんだよ、入り口のアロママシンと」「ウオーッ!そうなのか!?」
ライトシーカーが扇風機の中央を指し示す。ミンチョ筆記体でかろうじて、「カグワシキ」と描かれているのがわかる。アロマ装置や蚊取りセンコなどを開発しているメガコーポの一つ、カグワシキ・アロマ社のロゴだ。「…ただのアロママシンじゃ無いと見たもんでね。ちょっとだけ拝借しようってワケさ」
◆◆◆
「…ああ、ちゃんと居る居る良かった良かった」二人は再び夜の森林公園内を歩き出す。ライトシーカーは、セイントサイの肩に止まっているオーガニックカブトムシを目にして安堵した。「ちっこくて褐色だかんね。夜闇で見失うとコトだよ…」「ちゃんとオレの元へ戻ってくるのだ!できた奴だろう?」
「ウンウン、立派なもんだ」得意げなアトモスフィアで息巻くセイントサイに、適当な声色でアイヅチを打つライトシーカー。木立の中の小道を行き、舗装されたなだらかな坂を登りきり、目当てのオニクルミの大樹まであと少し…その時である!ZZZZZTTTT………「ッ!?」「!」
四方八方から響き渡る羽音…バイオスズメバチの群れだ。それも大量の。身構えるセイントサイに、先ほど奪った小型扇風機を構えるライトシーカー。「…ヌウ!?もしや、それが!」感嘆の声を上げるセイントサイ!「こんな時の為にあると思ったよ!」ライトシーカーがスイッチを入れる!…カチッ。
ライトシーカーの読みは的中していた!警備員や正規来場者が、入り口の大型ファンや、彼女が今持つ携帯扇風機型アロママシンを用いて定期的に浴びるフレグランス・アロマこそが、園内各所に生息している危険極まりないバイオスズメバチへの忌避剤なのである!…しかし。「……アレ?」カチッ。カチッ。
…彼女がスイッチを何度入れども、小型扇風機の羽根は回らない。「…オイ?」カチッ。カチッ。カチカチカチカチ…何度も何度もスイッチを入れる。「エ、待って待って待って」電池ケース部分のカバーを外す。…中の電池は錆びつき、漏れ出た液は乾いてケース内にまで付着している。「…ウッソだろオイ」
ZZZZZTTTTT!「ウオーッ!?」「ウワーッ!!」ナムサン!無情にも襲いくるバイオスズメバチの群れ!即座に風となって走り出す二人!そのバイオスズメバチの毒針の毒性は、耐性を持たぬニンジャには一刺しであろうと実際致命的である!「逃げろォーッ!」二人は夜の公園の中を、無我夢中で走り始めた!
◆オシラセ◆
◆ライトシーカーはアロママシンを持ってますが、そのまま終わりでエピローグというのも味気ないのでスズメバチに追われることにしました◆ただしアロママシンを持っているので少なくとも死にはしません◆いいね?◆
◆バイオスズメバチの群れがあなたとセイントサイを襲う! 回避せよ!◆持っている回避ダイスを3分割すること。いずれも難易度はNORMALで、失敗した数1つにつき【体力】に1ダメージを受ける。◆精神力成功を狙う場合、回避ダイスを1消費しどれか1回だけを回避できるものとする。◆
[ライトシーカー回避判定NORMAL:(2,1),(6),(6):一回失敗 ]
◆グワーッ!1ダメージ!◆
「…ッグワーッ!」「ライトシーカー=サン!?」「クソッ!スーツの上から刺して来やがった!」セイントサイが見ると横のライトシーカーは右腕を抑えている!彼女は右腕のじわりと広がる激痛に耐え、歯を食いしばった!「…ダイジョブだから!今潰した!」背中のギターケースが音を立てて激しく揺れる!
「ウオーッ…ウオオーッ!邪魔な!邪魔臭い!非ニンジャ非オーガニックのクズスズメバチどもめーッ!」セイントサイが今までになく激しく息巻き、丸太めいた腕を振り回す!主人の窮地に応えんと、彼のオーガニックカブトムシもまた周囲を飛び回っては、勇ましいそのツノでスズメバチを貫く!貫く!
二人と一匹はスズメバチの群れを掻き分けつつ、自然公園の奥地へと突っ走る!「ここさえ抜ければあとはオーガニック・オニクルミも目前だ!走れ!ウオオーッ!」セイントサイは雄叫びと共に前傾姿勢!サバンナ!そのままパワーで突っ切るつもりだ!ライトシーカーもそれに応えて連続側転を始める!
◆あなたとセイントサイはバイオスズメバチの群れを振り払うべくダッシュしなければいけない! 脚力分だけダイスを振り、NORMALで判定だ。◆
[脚力判定NORMAL:6,6:成功]
◆…………………アイエエエ!?◆
「ッ…イヤーーーッ!」シャウト一発、ライトシーカーは全身に光を纏いセイントサイの目の前から姿を消した!「ナヌッ……!?」否、違う!高速で全身を高速回転!まとわりつくスズメバチを摩擦熱で焦がしつつ、オーガニック・オニクルミの樹へと凄まじい速さで連続側転を始めたのだ!おお…ゴウランガ!
「…ま…負けるかァーッ!」置いていかれまじとセイントサイは、ソウルの声に従うままに野生の血を沸き立たせ、二足歩行から四足走行へ!オーガニックカブトムシが肩へと泊まったことを確認すると……「ウオオオオオオオオオオッ!」おお…サバンナ!サバンナ!ゴウランガ!公園の木々をなぎ倒し、突貫!
各々の視界が唐突に木々の暗がりから開ける。そしてその先には…
◆◆◆
…ライトシーカーは唐突に意識を取り戻した。側転に夢中になっていて、意識を忘れているのに気がつかなかったのか。「イテテテ…あ〜あギターケースが」慌てて開け、中身の無事を確認して安堵の溜息をつく。そして自分がぶつかったのが大きな樹であることに気づき、上を見上げると…「…こりゃあ…!」
おお…ゴウランガ! なんと荘厳なオーガニック・オニクルミの大樹であろうか!その幹は太くしっかりとライトシーカーの体を受け止め、その枝葉は長い年月を得てなお、なおも豊かに生い茂っている!「………」ライトシーカーは、しばし言葉を忘れて魅入る。これが、戦争を生き抜いた樹。アタシよりもずっと前から。
…ドドドドド!轟音とともに植栽を踏みつけ、かき分けつつ、セイントサイもその場に合流した。「な…なんという速さ…おッ、おお!」彼もまた、荘厳なオニクルミの大樹に言葉を失う。…オーガニック・カブトムシが彼の肩から飛び立ち、オニクルミの樹に張り付いた。その美しい茶色同士が、調和した。
「ウ、ウオオオ!そうだそうだ!」セイントサイは慌てて装束から一振りのスリケンを取り出すと、オーガニック・オニクルミの木の皮を傷つけた。ライトシーカーが突っ込み、少々凹んだ窪みの近く。カブトムシは切り口から奥ゆかしく滴る樹液を摂食し、満足げに小さく震えた。
「お、オッホ!美味いか美味いか!」カブトムシの姿を見て、ライトシーカーはニカッと笑う。「…このためにわざわざここまで来た甲斐があったというものだ。おかげでコイツの寿命も少しは伸びよう……」感慨深げに、セイントサイは呟いた。「感謝するぞ、ライトシーカー=サン」
「…………」彼女はセイントサイの方を振り向き、そしてもう一度カブトムシの方に目を落とし、小さく呟く。「…アンタ、幸せモンだね。こんなに良くしてくれるご主人様と巡り会えるなんてさぁ」
…ブームこそ落ち着いたものの、残暑でありながら健康そのものなカブトムシはかなりの値で売れるだろう。ライトシーカーには、この愚鈍バイオサイバネニンジャをアンブッシュ殺し、貴重極まりないオーガニック・カブトムシを簒奪するという選択肢もあった。しかし。
「……」彼女はギターケースの中から、PVC製折りたたみ型ウォータータッパーを取り出した。「持ってきて良かったよ。」「ウォーッ!それは…!?」「寿命が少ないとはいえ、あって損はないだろ?樹液を取れるだけ取ったら、バレないように脱出だよ。そこまででアタシの仕事はお終いだ」
◆◆◆
「おかげで実際助かったぞ!実際お前に頼んで正解だった!」セイントサイがライトシーカーの背をバシバシと叩く。「痛い痛い痛い」オーガニックカブトムシは、今はセイントサイの肩の上で休んでいた。「しかし、世界は広いな…」「うん?」見ると、ライトシーカーの肩幅は彼のそれよりはるかに小さい。
…緊迫した一夜を越えたライトシーカーとセイントサイは、帰り際にドンブリ・ポンで己らの無事、そしてカブトムシの健やかさを祝い合っていた。店員と客はセイントサイの異形にNRSを発症し、それが着ぐるみか何かなのだと納得することで心のヘイキンテキをかろうじて保っている。
「……本当に女なんだな?」「おう胸のこと引きずるか?ハッ倒すぞテメー」「ああいや!まあなんだ、女だからと侮った非礼を詫びさせてくれ!」「ウムウム、よろしい」ライトシーカーはドンブリを頼みもせず、途中のコケシマートで買ったビールを持ち込んでイッキした。…ふと、カブトムシに目がいく。
パワー・ポンをコブチャでかきこみ始めるセイントサイの肩にとまり、じっと主人に付き従うオーガニック・カブトムシ。一瞬、ライトシーカーの目が郷愁めいた光を帯びる。「…どうした、ライトシーカー=サン。俺のバイオサイヘッドがそんなに気になるか?」「いや、そっちじゃ…まあいいや」
ペットと自分を比べてどうなる。ライトシーカーは心の中で自嘲気味に舌を打ち、ようやく注文チケットを発券しようと席を立った。ふと、重金属酸性雨の雨雲越しに微かに明るくなっていく空が目に入る。灰色の雲の隙間から黄色の光。……ネオサイタマに、秋が来る。
一寸の虫にも三寸の寝床。
10cm足らずのカブトムシにも大きな相棒。
寄る辺無い女には、一瓶のサケだけ。
「イーブン・ア・スモール・ビートル・ハヴ・ゼム・プレイス」
【To Be Continued…】
◆リザルトオー◆
【総合評価:A】【獲得万札:10】【余暇:2日】【名声:1(セイントサイからの口添えで)】
セイントサイに一度もマルナゲせず、かつアロママシンのカラクリに気づいたので、【*マキモノ・オブ・シークレット・ニンジャアーツ*】をセイントサイ=サンからもらったぞ!
◆ウオーッ!◆
一寸のカブトムシにも大角の仲間あり。
今回の夏の終わりの情緒あふれるシナリオと、野性味溢れるキャラクター・セイントサイ=サンは、トラッシュ=サン(https://note.mu/trash_can820)のご提供です。限りない感謝を!
”タカミネ自然公園、不法侵入を許す”
”カチグミの憩いの場たる昨今珍しい緑の森、タカミネ自然公園に何者かが侵入した形跡が、今朝見つかった”
”死亡者こそいなかったが、警備員一人が軽傷を負った。盗まれた携帯アロマ装置は木立の中で見つかった”
”そんなことより、非常に悲しむべきは…”
”樹齢数百年を超えるオーガニック・オニクルミの大樹が何者かに傷つけられたことだ!”
"(木の幹に人型の大きな激突痕が残ったオニクルミの大樹の写真)"
”なんらかの環境テロリストが抗議目的で侵入し、このような過激な暴挙に出たと考えられる”
”自然公園の管理者はこの責任を持ってケジメのち辞職、今後はネコソギ・ファンド社とミドリモリ自然管理協会がこの公園の管理維持活動に携わる”
”このような治安の悪さでは市民も安心して外を出歩けない。こんな事態をどうにかするためには議会総セプクの上政権交代だ。”
…翌日の日刊コレワの記事より
「……で?そのカブトムシはどうなったんです?」
「さーね。大往生したんじゃないの?もう今、季節冬だし」
「ですよね」
ライトシーカーは仕事を待ち、サケ・バーでただ一人サケを呷る。困り顔のマスターの顔をサケのつまみにしつつ。外には粉雪がちらつく。
先の廃工場の一件で得たバイオフロシキの中の万札は、もはや底を尽きた。どうにかしてカネを作らねばならぬ。
「……で…次の仕事は………」
TO BE CONTINUED FOR STILL'A'LIVE #4…
◆終◆最後まで見ていただきアリガトゴザイマス!◆
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