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夫の育休中に「こどもができたら妻は映画館に行けない?」で考えた技

「こどもができたら、母親はなかなか映画館に行けない」

8月に第一子が生まれるより数年前、周囲の父親業をしている男性陣から聞いた言葉です。

無類の映画好きで、ほぼ毎週末映画館に通っている僕は、自然と周りの人とも映画の話をよくするのですが、「嫁に内緒で一人で観てきた」と言う何人かのパパさんたちの話を聞くたびに、そりゃねーべと理不尽に思ったものでした。

自分が奥さんだったら旦那が隠れて一人映画に興じているのは堪らないし、そもそも映画館に2時間いることが育児をする夫婦にとってそんな難しいこと?!

…と思っていた僕自身が今年の夏、“そんな難しいこと”に直面することになりました。夫婦とも38歳にして待望の長女が生まれたのです。そして9月下旬から1か月の育休をとりました。

日本全体で「1週間以上の育休取得率」がまだ5%台の時代に、1か月(申請次第で1年以内なら何か月でもOK)もの育休をもらえるのは、本当にラッキーな環境。上司も同僚も快く送り出してくれました。

よし、徹底的に育児するぞ。そう意気込んで臨んだ新生児の育児業、はじめはめっちゃ大変でした…。

オムツ替えをしてほしくて泣く、眠たくて泣く、おなかが空いて泣く、オムツ替えをしても泣く、おっぱいを飲んでも泣く、なぜか泣く…。

これは…これは戦争だ。

まさか生後間もない我が子と対峙することになるとは。父に乳という名のフォースは使えないし。

でも待てよ。
僕が育休に入ったのは娘が生後1か月を迎えたタイミングだったので、妻はもうこのSITTER WARSに30日間身を置き、黙々と3時間おきに乳をあげているわけです。

育休をとってみて初めて痛感したのは、親は24時間この「すべての感情を泣くことでしか表現できない生きもの」に付きっきりであるということ。

そこで冒頭の先輩パパさんたちの言葉が蘇ってきます。
なるほど、そもそも自由に外出ができないわ。

だからこそ、映画館のような外界から完全シャットアウトされた異世界に入り浸る時間が、産後うつの心配もある母親には必要なんじゃないか?こどもができたらもっと映画館のお世話になった方がいいのでは?

奥さんが暗黒面に落ちる前にさっさと自分が育児マスターになる必要があるな。

というわけで、生後30日を機に、シフト制映画鑑賞を制定しました。

そこから今までのあいだに彼女が観た映画は『タリーと私の秘密の時間』、『パパはわるものチャンピオン』、『若おかみは小学生!』、『バッド・ジーニアス:危険な天才たち』、『アンダー・ザ・シルバーレイク』、『search/サーチ』。

(タイ映画のスマッシュヒット作『バッド・ジーニアス』と全編PC画面で展開する異色作『search/サーチ』は、どちらも父子家庭にいる思春期の娘の親離れが物語の根底にあるので、お父さん号泣)

で、シフト制映画鑑賞って?

別にたいしたことはしてません。
まず、映画鑑賞を夫婦で交代制にします。僕か妻、最初に観た方が「面白い」と思ったら二人目も翌日以降に同じ作品を観に行く。赤ちゃんはどちらかがワンオペでお世話する。二人とも観た段階でようやく感想を言い合う。

タイムラグも含めて楽しんでいます。「自分ばっかりズルくね?」の申し訳なさをつくらないことにもなっています。

これって育休がなくても育児にまつわるオペレーションを習得すれば誰にでもできることかもしれません。だけどまず夫の僕が外での仕事からキッパリ離れて育児業に専念できたことと、育児の大変さ(と楽しさ)を身をもって知れたことがシフト制映画鑑賞を習慣にできた要因だったと思います。


正直、ワンオペ育児がこんなに孤独だったとは。最初はそう思いました。話を聞いてくれたり共に闘ってくれたりする同志がいなければ心折れるのはたやすいだろうし、最悪の場合、虐待が起こることも想像がつきます。

ですが新生児〜3か月の今に限っていえば、何回かやって慣れれば大丈夫でした。抱っこひもで眠る我が子と散歩する時間の豊かさもやみつきになります。

しかもその間にパートナーは携帯も通じないスクリーンで羽を伸ばしているという無駄のなさ(この先娘が「ママ」を欲しはじめれば崩壊するシステムかもしれませんが…それはそのとき考えよう)。


長いようで短かった育休が明けて2週間が経ちました。

夫の育休って、自動車運転講習だ。

この先もつづく、育児にまつわる悲喜こもごもと妻が抱える問題に気づくための講習期間だったように思います。きっと土日の手伝いだけでは分かりませんでした。

今週末、妻は『ボヘミアン・ラプソディ』を観に行く予定です。

これまたいろんな意味で家族(ファミリー)がテーマの傑作。妻の感想が楽しみです(先に観た)。

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