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妻 安達祐実を撮り続けるひと。桑島智輝写真展「再旅行」

スチャダラパー、サカナクション、水曜日のカンパネラ、レイハラカミ。数々のLIVEを観てきた恵比寿LIQUIDROOMにこんな素敵なギャラリーが併設されているなんて、知らなかった。

写真家・桑島智輝(@QWAAAA)さんの個展がLIQUIDROOM2階のKATA galleryで開催中とのことで、日曜日、妻とうーちゃん(0歳3か月・女)の3人で観に行った。

妻はかつて桑島さんとお仕事でご一緒していたことがあり、僕も一方的にそのお名前は聞いていた。桑島さんは数々の俳優やタレントのポートレート、グラビア撮影で売れっ子のフォトグラファーで、長身のイケメン。

以前、初台駅で妻と桑島さんがばったり遭遇したとき、あとから駆け寄った僕は二人に割って入った。「どちら様?」と。ところがこれが完全に邪魔だったようで、妻は僕に向かって右手で制し「ちょっとすみません」と他人扱いしてあしらったのをよく覚えている。ほんと申し訳ないことをした。

なので今回の展覧会で初めてご挨拶させていただいた。

写真展は、妻であり女優の安達祐実さんとの新婚旅行を撮った旅の記録。

ポーランドのクラクフからはじまるモノクロ写真は、アウシュビッツを経て、ドイツのベルリンへと移動していく。

ときどき大きなカラー写真が床に置かれていて、それが旅の途中の給水地かセーブポイントのように、安心させてくれる。

新婚旅行にアウシュビッツは重い。写真には歴史が写り込む。写真家の意図にかかわらず。けれどそこにいる安達さんはいい意味で傍観者で、先へ先へと案内してくれる。

僕らの知らない安達祐実がいる。

それは「桑島さんの妻」とも「女優・安達祐実」とも違う、どこからやってきてどこへ行くのかわからない少女のようにも見える。夫婦の距離感だったり、遠くの少女か妖精のようだったり、観る者を惑わす。


この日は桑島さんと親交の深い写真家・平間至さん、そして被写体である安達祐実さんご本人も参加されてのトークイベントが開催された。

妻とうーちゃん(0歳3か月・女)は一足先に帰り、僕は会場に設けられた椅子の最前列、幸運にも安達祐実さんの目の前に着座した。

私にとって妻を写すことは、未来への不安に対するささやかな抵抗であり、現在写真を撮る上で一番の幸福なのです。現実の平凡さ、冷たさから離れて、空想、情緒、もしくは情熱を写し込むのが妻の写真の主です。

と宣言する桑島さんの写真を、編集者の沖本尚志さんと平間さんが「写真家と女優という写真の共犯関係」「お遍路のよう」「共犯関係だった二人が一体化していく」「ダークツーリズム」「これは記録なのか、表現なのか」といった話で紐解いていく。

「安達さんと出会って最初の頃は、芸能人の日常を出してやろう、安達祐実を写真で暴いてやろうという邪な気持ちがあったけれど、今はもうない」

桑島さんは正直だ。

「90枚ほどの写真で会場を構成したけど、当初は160枚以上あり、それを平間さんに見せたら『これ、桑島さんの写真展だよね?』と3回くらい聞かれた。これじゃ安達祐実ちゃんの写真展だよって」

平間さんは鋭い。

作家も今僕らに見せてくれている形になるまでに迷いがあり、横道に逸れながらも軌道修正していたことを知り、安心した。それほどまでに絶妙なバランスで成り立っている展示なので、これが最初から組まれたとしたらちょっと怖いなと思っていたから。

質問タイム。

真っ先に質問させていただいた。
せっかくなので、目の前の安達祐実さんに。

トークの冒頭、安達さんは「共犯関係」というキーワードに答える形で

桑島さんと私の写真は、私たちだけの、特別たらしめる存在でなければ、と意識していた時期があった。今は全く意識せず撮られています

とおっしゃっていた。

もっと詳しく知りたかったので、「なぜ特別たらしめる存在でなければならないと思っていたのですか?そしてそれはいつからそう意識しなくなったのでしょうか?」と聞いてみた。

シマウマ柄のシャツがかわいい安達さんは丁寧に答えてくださった。

桑島さんは私との写真を撮る中で、そこで得たこと(間合い、距離感、あるいは技術的なこと)をお仕事でもどんどん試すことができます。

けれどそれで別の方とも撮った写真が「ああ、いいね」となっていけば、それは私との写真じゃなくてもいいってことになってしまう。だから、私との写真は私じゃなきゃ撮れない写真であるべきだ、二人だけの特別な関係、特別な写真じゃなくちゃダメなんだと・・・出会った頃はそんな風に考えてた時期もあったんですね。

だけど、さすがにもう4回目の結婚記念日を迎えた今は、気負いがなくなったというか。そんなもので揺るがないぞ!と思えるようになったんだと思います(笑)。

惚れる。

共犯関係だった二人は、写真という旅を通して見事に一体化していく。

安達さんはこうも言っていた。

小さい頃から、私は人に言われたことをやる仕事をずっとしてきて。桑島さんに写真を撮ってもらったとき、そうじゃなくてもいいんだって思えたんです。桑島さんは全く指示をしないんです。

平間さんも沖本さんもおっしゃっていたことだが、被写体から話を聞けるのがとても面白かった。ともすれば写真家よりもずっと本質的な関係性を語っているようで、はっとすることが多かった。

それは役者という表現者だから、というのもあるのかもしれないが、いちばん身近で撮られている妻の素直な告白だった。大きなからだを小さくして横でおとなしく聞いている桑島さんが「夫」に見えた瞬間でもあった。

最後、平間さんが一般の方々を撮る平間至写真館の話に及んだとき。「写真で家族は強くなる」と平間さんが力強くおっしゃっていた。写真は関係性をより強くするための道具になることを再確認した一日になった。

新婚旅行なのに、「再旅行」。

赤の他人の旅なのに、自分も行ったような気になる写真。
気づいたらどこかへ行ってしまいそうな安達さん。
一緒に旅をしながら、安達さんを捕まえに行っているような感覚にもなる。

素敵な写真展でした。



桑島智輝写真展「再旅行」
会期:2018年11月22日(木)~12月2日(日)12時~20時
場所:KATA gallery 東京都渋谷区東3-16-6 LIQUIDROOM 2F
入場無料


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