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子どもの誤飲でパニックに陥ったとき、頼りになった一本の電話

娘が生まれて早11か月。気をつけていたのにビニール片を誤飲してしまった。

いつの間にか体重は2.6キロから9キロに増え、髪もふさふさになり、徐々に女の子らしくなってきた娘ちゃん。日本語ではないけどよくしゃべるようになり、ゴキゲンとフキゲンの差もころころ変わる。

おかげで家は彼女のやりたい放題で、床一面がモノであふれている。

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どれだけカメラがイイ感じに背景をぼかしてくれても、散らかり具合が写ってしまう。

大人の役目は、娘の好き放題を藪から棒に怒ることなく、慈愛に満ちた笑顔で見守ること。口の中に入ってしまいそうなサイズのモノはあらかじめ取り除き、危険を遠ざけること。なのに。

その日も、細心の注意を払っているつもりだった。

土曜の昼下がり。僕はデスクのPCを立ち上げネットサーフィン。妻は僕の足下で遊んでいる娘を見守りつつ、アイスカフェオレを飲んでいた。

サーティワンでアイスを食べよう!

妻の提案で出かけることになり、妻は支度のため自室へ。娘に目をやると、Amazonの空き箱を叩いて遊んでいた。

「あーあー、うーうー♪」

お歌が上手ですねえ。

ダンボールを噛んで口に入れた“前科”があるので、それだけはしないでくれよと観察しつつ、僕は画面に顔を戻した。

ほんの数秒だったと思う。再び目をやると、娘は手を口に入れていた。

何か食べている?!

床に座り、嫌がる彼女の口をこじ開ける。

「ぎゃー!」ポロポロと涙を流して叫ぶ彼女を押さえつけ、人差し指の腹で口内をくまなくさらうと、中から5ミリほどのビニール片が出てきた。

え。どこにこんなものが?

それは梱包用に箱の底面についていたビニールの切れ端だった。取り外して捨てていたが、かけらが糊で少しだけ残っていたのだ。

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「これちぎって食べたの・・・?マジか・・・」

ごめんね、でもこれ食べ物じゃないからねー。ひと安心してべちょべちょになった手を洗いにキッチンに立った。その時。

「おえっ、おえっ」

今度は娘がえづきはじめた。様子がおかしい。

まだ口の中にビニールが残ってる?

再び人差し指を突っ込み、今度は喉の奥を確かめてみる。カサッと、何か硬いものが触れた。

「ちょっと来て!!」

大声で妻を呼ぶ。トイレに行っていた妻がすぐ戻る。

「ビニールを食べた」

大人の声をかき消さんばかりの号泣が部屋に響く。

大粒の涙がとめどなく僕の腕を伝う。

辛いが、お構いなしに指でビニール片を掻き出そうと試みる。けれど赤ん坊の口はあまりに小さく、人差し指しか入らない。

僕が娘を逆さまにして、妻が背中を叩くが、効果なし(この時、僕らは乳児への適切な吐かせ方のフォームが完全に頭から飛んでいた。育児書で見覚えはあったのに)。

より小さな手の妻が指でトライする。

「あ!喉の奥にあるね!触った」
「でしょ?あるよね!」
「でも滑って取れない・・・」

小さな口には親指が入らない!つまんで取り出すことができない。

再び交代して、今度は僕の小指で試みるが、えづく娘は吐き下すまでに至らず、苦しそうに泣くばかり。最初は指の先端に触れていたビニールは、どんどん喉の奥へ奥へと吸い込まれていく。

「行くな!それ以上行くなー!」

だが、ついに指先の感触もなくなった。

飲んじゃった・・・。

いったい、どれくらいのサイズだ?

さっき取り出したモノからして、同じくらいの数ミリ程度だろうか。いや、だったらあんなに長い間、喉の奥に滞留しないはず。引っかかってとどまるくらいの大きさだったのかもしれない。

いやいや、そんなことを推理している場合じゃない。今は、どう対処するか?窒息でもしたら大変だ。

僕も妻も、すぐに、こども医療でんわ相談の存在を思い出した。

「ほら、冷蔵庫に貼ってあったあの番号!」
「よし、電話しよう!」

110番のようなシンプルな番号で、掛けると小児科医や看護師が出て適切なアドバイスをくれるホットラインだ。産婦人科でマグネットをもらい、いざという時のために冷蔵庫に貼っているのだ。

・・・ない。

僕「冷蔵庫に貼ってたやつがないよ!」
妻「え?!なんで?」
僕「知らないよ!なんでないんだよ!!」

冷静な対処をしていたはずが、予想外の事態に語気が荒くなる。自分が今まさにパニックに陥ったことを実感した。大声に驚いて娘の号泣もさらに拍車がかかる。

ここでキレても状況が好転するわけじゃない。あぁ、ネットで調べよう!そう思考回路を線路の切り替えのような速度で変換しているうちに、妻が母子手帳から番号を見つけた。

「あった!電話するね!」
「お願い!」

電話はすぐ出てくれた。妻が毅然と状況を説明する。

「ええ、今も泣いてます。唇ですか?いえ、紫ではありません。はい、顔色も普通です。ええ・・・食道や胃でビニールがつっかえないようにミルクやお茶で飲み下してあげるのがいい、と。わかりました!」

この電話から、医師はこう見立ててくれた。

・ずっと号泣している→声が出る→気管に詰まっていない
・顔色→紫ではない→チアノーゼも起きていない
・ビニール片は胃に向かっている→流し込んで便として出すのが妥当

念のため休日の救急外来病院を教えてもらい、電話を切った。おかげで、ふたりとも冷静さを取り戻せた。

子どもの口は4センチ以下のものだと飲み込めちゃうけど、気道は1センチしかないから喉に引っかかると窒息の恐れが高まるんだって。でもそれはなさそうだから安心した・・・」

言いながら妻は手際よく娘に母乳を与え、泣きやませ、その間に僕は液体ミルクをスタンバイ。それも飲み干し、疲れたのか、娘は寝た。

電話の先のお医者さんいわく、赤ん坊の喉に引っかかった誤飲物を親が取り出すのは至難の業だと。指を突っ込むほどに、逆に飲み込んでしまうらしい。また、無理に吐かせようとするとより危険度が増すこともあるそうだ。

さらに後日知ったことだが、親が慌てて口の中に指を入れて取り出そうとするのは「やってはいけないこと」らしい。窒息状態が悪化するという。マジか。やっちゃいけないことを必死でやっていた。恐ろしい。

騒動を終え、緊張がほどけていくと同時に、目を離した自分を責める気持ちにシフトしていった。

ただ、プロのアドバイスをすぐに受けられたことが、どれだけ救いになったことか。感謝してもしきれない。

その電話番号は、#8000。

電話帳の「よく使う項目」にも登録した。

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* * *
ここからは、食事中の方は
ご遠慮いただくか、自己責任でお読みください。
* * *

翌日。

「うんちしてる!!!」

興奮気味の妻の声で目覚めたが、

「まだない・・・」

興奮はすぐ落胆へ。

そのなんと1時間後、

「またうんちしてる!!!」

二人で“発掘作業”すると、オムツの中からキラリと光るものが。

「あった〜〜〜〜!!!」

綿棒ですくい取り、風呂場で洗って驚いた。

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デカい。
ジャスト4センチ。思ったよりそうとう大きい。

こんな大きな切れ端をちぎって食べてしまっていたなんて!

よく翌日に出てきたもんだ。

「うんちして偉いぞ!」「天才だ!」「長旅だったね」「ほんとごめん!」


実は、この誤飲が起こる数日前にnoteで赤ん坊の誤飲体験談を読んだばかりだった。自分も注意しなきゃ、なんてTwitterにも書いてシェアしたりして。

恥ずかしながら、自分の身に降りかかって、ようやくわかった。

親の不注意がすべて悪い。悪いんだけど、本当に事件はほんの一瞬で起きる。1分1秒たりとも子どもから目を離さず監視しておくことなんて無理だ。その大前提に立って、予防と対処をしていくしかない。

危険の芽を摘んでおくことについて、もっと想像力を働かせよう。

うちの子は今月で1歳を迎えるから以前よりも腕力もついた。好奇心もどんどん高まっている。しかもビニールを食べちゃうくらいには知恵もついてない。それだけ危険も増えているってことだ。

そして万が一、事故が起きたら。
誤飲や誤嚥(気管支に異物が入ること)の場合は、針やアルコールなどモノによっては吐かせない方がよいケースもあるので、まずは専門家のアドバイスを聞くこと。

「#8000」なら電話の向こうに医師がいるので、親がよく症状を観察して説明すればOK。救命方法や苦痛の軽減、次の行動プランを即座に提案してくれる。そのことが親の頭を冷やすことにも繋がる。

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すっかりスッキリした娘と、妻と僕。

土曜日に行けなかったサーティワンアイスクリームへ行った。トリプルコーンはちょっと非日常だったが、こんなにも日常がありがたいと思ったのは何年ぶりだろう。

ベビーカー越しにアイスに手を伸ばす娘。

食べれるお年頃になったら、一緒に食べようね。

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