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〈35〉ごほうび時間を盗まないで!/病気に時間を使うなんて、もうウンザリ。

病気になるたび大切な時間が減ってゆく

2022年も3分の1が終わろうとしている。えっ、まだ4月なのに?と言われそうだが、私はもともとネガティブな性格。コップ半分の水を見て「もう半分しか残っていない…」と落ち込むタイプだ。だから、一生の残り時間から逆算して焦ってしまう。「健康寿命は75歳っていうよね」とか考えると、さらに手持ち時間が少ない気がしてソワソワする。
だから病気の治療に時間を割くのがとてもつらい。でも病気は常に私の体と共にある。病気は切っても切り離せない私の影のような存在だ。あきらめてはいるが、人生の後半の大切なごほうび時間を、病気に盗まれてゆくのはイヤだ。

もう20年間、後遺症に苦しめられている

私は47歳のときに子宮頸がんにかかり、半年間入院して、抗がん剤治療→手術→放射線治療を受けた。その後遺症が、術後直後から今現在まで、私を繰り返し悩ます。しかも複数の症状があちこちに出てくるのが厄介だ。

なかでも常に気をつかう必要がある病気が2つ。

一つはリンパ浮腫。がんの転移を防ぐために下腹部のリンパ節をとってしまったせいで左足がむくむ。だから起きてるあいだずっと医療用の分厚いストッキングを履かなくてはならない。真夏は暑いのなんのって。それを着用しても長く立ったり歩いたりすると、膝から上がぱんぱんに腫れるから、毎日自分でリンパを流すマッサージをするし、定期的に病院でケアしてもらう。このリンパ浮腫でもっとも厄介なのが、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という炎症を起こして高熱が出る病気にかかりやすいことだ。手術以来、すでに4回経験している。

もう一つの病気はイレウス。開腹手術のせいで腸の一部が癒着しているせいか、腸の動きが悪い。それが最低の状態まで落ちると猛烈な痛みを伴うイレウスが起こる。最悪の場合、手術が必要らしい。ざっと数えて、この20年間で50回くらいはイレウスを経験している計算になるが、ラッキーなことに手術まで悪化したことはない。これ以上、手術はごめんだ。

久しぶりのイレウスで体重がまた落ちた

今年の2月の初め、1年1ヶ月ぶりにイレウスを起こした。痛みのつらさより、悔しい方が先だった。これを予防しようと日頃から努力していたにも関わらず再発させるなんて。毎回、なぜだろうと自問自答する。内科医から処方された漢方薬を朝晩飲み、食事の量や質にも気をつけながら、噛む回数を増やし、食物繊維は少量に抑えるとか、ちっょとでも痛みがあったら食事を一食抜くとか、細かに気を配っていたのに…。何が失敗だったのかはわからない。いつも原因がはっきりわからず、予防策にも限りがある。

夕食のとき、遠くから痛みが近づく気配がした。もう何度も体験すると、予兆がわかる。「ヤバッ、イレウスだ」と察し、箸を置いて、すぐにベッドに横になる。徐々に痛みが強くなり、身をよじるような激しい痛みがが襲ってくる。激痛は波のように強弱を繰り返して一晩中続く。出産より痛いという人もいるが、私には出産経験がないからわからない。

でも、腸の中に鉄の棒を差し込まれているのかと思うほど痛い。痛みの真っ最中、私はバーベキューの子豚を思い出している。棒で貫かれたまま火の上でぐるぐる回るアレだ。もう自分の力ではどうしようもなく、脂汗を流しながら、身を任せて時間が過ぎるのを待つしかない。これまでの経験から、病院に行っても、水分を補給する点滴か、痛みを和らげる座薬くらいの治療しかない。痛みに苦しみながら病院で待たされることを考えると、手持ちの座薬を使い、自宅のベッドで痛みに耐える方がましだ。

今回、水分だけを口にしながらまる2日間絶食した。痛みが少し和らいだ3日目からお味噌汁の汁だけ飲む。翌日はお粥が加わり、やがてお粥と梅干しと具入りの味噌汁になる。普通の食事に戻れるのは早くて10日後だ。気をつけないとぶり返してしまい、もう一度、激痛からの手順を繰り返すことになる。腸の違和感がなくなるまで少なくとも1ヶ月はかかる。その間、食事は消化のいいものだけ。Nさん(オット)が湯豆腐、白身魚の鍋、炒り卵なんかをつくってくれる。それでも食べられる幸せを噛みしめる。でもまた体重が減った。イレウスを起こすたびに細くなるのが悲しい。

一難去ったと思ったら次は入院だって

やっとイレウスの呪いから逃れたと思った4月上旬。今度は蜂窩織炎(ほうかしきえん)で入院になってしまった。リンパの流れが悪くて、よどんだ部分に菌が入ると炎症を起こし、高熱が出るのだ。私は今回も38.5度の熱が出た。
よくお相撲さんがかかる病気だ。太っててリンパの流れも滞りやすいし、裸足で怪我をすれば菌も入るだろう。でもお相撲さんは数日で回復して土俵に戻ってくるところがすごい。私は抗生剤の点滴を受けながら、病院のベッドで1週間過ごした。

病気になると、当然だけれどゴルフや美容室はキャンセル。毎月通院している複数の病院の予約も全てキャンセルして、治る時間を計算しながら別の日の予約に変える。激痛や高熱を我慢しながら病院へ変更の電話を入れるとき、悪いジョークを演じさせられてる気がする。私の病気を治してもらうはずの病院のために、病気で苦しい思いをしている私が気を遣わなくちゃならない。でも仕方がない。予約のリセットが完了して、やっと安心してベッドで病気と向き合える。

以前、仕事中心の生活だったときは、病気が今よりもっと怖かった。出張や取材の予定を入れているときに症状が出ても、仕事は簡単にはキャンセルできない。痛み止めの座薬や飲み薬でどうにかしのいで、歯を食いしばってとりあえず仕事を終えるだけだった。年齢が上がるにつれ、最初から出張や取材の仕事はKちゃん(一緒に仕事をしていたコピーライター)にお願いした。おかげでキャンセルの恐怖から逃げられた。もう、痛みをこらえて仕事をする覚悟が残っていなかった。もちろんKちゃんに任せれば安心だ。ホント、どれほど救われたか知れやしない。

今はもう仕事も少ないし、治療の時間はたっぷり与えられている。のんびり治せばいいじゃないとも思うが、やっぱり時間が惜しい、もったいない、貧乏性。こんなことで私の大切な時間を浪費するのはまっぴらだ。病気で仕方なくボーッと寝て過ごすより、健康な体で海や空を眺めてボーッとする方が1000倍幸せだ!






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